"平成童貞男”『僕が彼女ができない理由』
カミングアウトをするが、僕は童貞だ。正確にいえば、素人童貞だ。
27歳になって一度も女性とお付き合いをしていないのは、恥ずかしいことでもあるし、「人それぞれでしょ」と開き直る僕もいる。
さらに、開き直るが30歳を目前にして童貞である男性なんてごまんといる。彼らを卑下するつもりもないけれど、僕は全く女性に免疫がないわけではない。もちろん、デートだってしているのだ。デートはしているけど、それ以上に発展しないのだ。
僕は童貞であることをコンプレックスだとは思ってはいないし、むしろ糧になっている。
どうやったら、彼女ができるか必死に考えて、格好よくなれる努力をしてきた。特に外見だ。服についてはどうやったら、いい印象を持ってもらえるか。オシャレについて必死に勉強した。オシャレはコミュニケーションの一環であると思っている。その努力は少なからず無駄にはならないと思っている。たまに、「童貞なんですか!?」と驚かれる時だってある。
しかし、一昨年、友人との忘年会で衝撃的な言葉を言われた出来事があった。彼女がいないことと、童貞であることを知っている友人がある言葉を僕に放った。
「オマエ、このまま彼女できないと、平成が終わっちゃうぞ。”平成童貞男”になっちゃうぞ!」
思わず吹き出しそうになるパワーワードが僕に突き刺さった。”平成童貞男”。その言葉が重すぎて何も言い返せなかったが、いつかこのタイトルで何か書こうと不覚にも思ってしまった。
その言葉に突き動かされる僕。翌週には街コンに繰り出すが、空回りしまくりで、うまくいかない。昨年の始めにはついにマッチングアプリを始めてしまった。
大学に入れば、普通に彼女が出来ると思っていた。サークルに入って、同世代の女の子と仲良くなって、デートして、付き合って……。早いうちには童貞を卒業していたかもしれない。今ではすっかり聞かなくなってしまった”リア充”な大学生活を送ってきただろう。
僕が彼女ができない理由は、主に3つあると思う。『面食い』と『飽き性』と『劣等感』だ。
『面食い』というのは、もはや治らない病気だと思っている。これは小さい頃から発症している。幼少の頃の僕はテレビが全てだった。インターネットも普及していない時代だから、世の中の大概の事は全部、テレビから学んできた。テレビに出てくる女性は、みんな可愛くて、綺麗な人ばっかりだ。幼少の僕は、世の中の女性がそうであると刷り込まれてしまった。現実との女性と、テレビの中に存在する女性との容姿とのギャップが信じられなかったのだ。
『飽き性』なのは、僕が熱しやすくて冷めやすいタイプだからだ。デートを2回くらいした女の子がいたけれど、僕の方はなんとか振り向いてもらいたいから、頑張ったが、いまいち、女の子の反応が良くなったので、次のデートを誘う事を辞めてしまった。もう少し耐えてみれば、良かったんだけど、興味を向いてもらえないのなら時間の無駄なので、僕のほうからフェードアウトしてしまった。
『劣等感』はこれも幼少の頃に植え付けられてしまった。幼少の頃はポケットモンスターが大流行した時代だ。多くの子どもたちがゲームボーイを持ち、ポケットモンスターのゲームを遊んでいた。僕は、「目が悪くなるから」という理由でゲームボーイもポケットモンスターも買ってもらえなかった。周りではポケットモンスターの話で持ち切りで、僕はその話にあまりついていけない。彼らがゲームをしている時は彼らのゲームの画面を指を咥えながら覗きこんでいた。初めて劣等感を味わった瞬間は今でも覚えている。
この劣等感があったからこそ、僕は人よりも特異なものを求めてしまうようになった。
それは”称賛”だ。称賛はお金では買えないもの。その称賛を欲しいがために、習い事を頑張ったりしたりした。それがいい意味で、向上心に変化したので、結果的には良かったと思っている。
しかし、再び大学時代に幼少期の悪夢がやって来た。それは、”彼女”だ。
僕の所属していたサークルは、男子の同期が少なかった。そして、僕以外の男子全員がサークル内で彼女を作ってしまったことが起こった。あまりにも異常な状況に焦る僕。彼らに追いつきたいが為に、彼女を作るようにした。だけど、それも虚しく何もできなかった。
それ以来、僕は優越感を得たいが為に、特異なものをさらに求めるようになった。面食いの相乗効果もあり、どんどん理想が高くなってしまい、現在に至っている。
27回目の誕生日もひとりで過ごした。朝、スマホを開くと家族からメールが届いていた。それには非常に不愉快極まりないものだった。
母からは『仕事もプライベートも充実させてください。そう!婚活を忘れずに」
妹からは『そろそろ、義姉を連れてきて欲しいなー』
ふざけるな。僕の機嫌は一気に急降下だ。ここ最近、実家に帰るたびこの話になってくる。理由は僕が長男だからだ。
僕の姓は母の姓である。11歳までは父の姓だったが、家を建てるのを転機として、母方の姓に変えた。母は一人っ子、父は末っ子なので、将来的には父が家を継ぐことになっている、ゆくゆくは僕が家を継ぐという、昔ながらの慣わしで家を守っていくことになる。
そして、僕が家族からのプレッシャーが強い理由は、僕の家が女系家族だからだ。
母の母、つまり僕の祖母だが、祖母のきょうだいは全員女性である。本当は男の子がいたのだが、早いうちに亡くなってしまったらしい。祖母は三女だが、上のお姉さんが嫁いだので、祖父が婿養子となり本家を継いだ。つまり、僕は本家待望の男の子である。
生まれながらにして、家を継ぐという歌舞伎役者みたいな宿命を負わされた僕は、大変可愛がわれた。僕自身、家を継ぐという事には抵抗がない。むしろ少年漫画に出てくる、”次期当主”とかみたいな感覚なので、格好いいと思っている。だがしかし、家族からのプレッシャーが半端ない。祖母も実家帰るたび「いい人を連れて来なさい」という発破もかけてくるし、父も遠回しに彼女を作れということも言われている。まさに四面楚歌だ。
祖母の言い分も分かる。親戚が結婚して子供もいるので、本家の跡目が彼女がいないのことが心配なのは無理もない。だけど、自由にしてくれと思った。もちろん、彼女も大事だけど、僕は本当にやりたい事ができたから、そこに力を注いでいきたい。作家になりたい夢ができたからだ。それはちゃんとデビューした時に言いたいけれど、という気持ちを抑えつつ、祖母の発破を受け止めていた。
正直に言うと、今は彼女がそんなに欲しいわけでもない。”平成最後”という言葉に煽られて、焦って彼女を作るなんて、どうなのかなと疑問に思ったりする。むしろ、彼女よりも、好きな人が欲しいと思う方が気が楽だ。もし、4月末で童貞だったとしても、悔いることもないし、馬鹿にされたとしても、新元号で童貞卒業してやる、いう気概だ。”平成童貞男”上等だよ!
しかし、理想が高いからなかなか好きな人を見つけるのは、難しいと思うけど……。
とりあえず今日もマッチングアプリを開いて、画面をスクロールしている日々だ。お金は払ってしまった以上はやりきるしかないから。
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