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上質な夜と音楽

 先週の授業で聴いた。服を一枚重ねると、洋服の外側と内側の温度差は1度も変わるらしい。洋服が重なるごとに空気の層を作り出して、その空気の層で体を温めてくれるからなんだって。


 さて、先日はずっと楽しみにしていたバンドのライブの日だった。
 これから同じ音楽を愛する人たち1700人と一つの箱で揺れながら同じ時間を共有できると想像したら、いや、想像できないけど、そんなことは奇跡だろう、と考えながら昼間を過ごしてた。みんな今日の夜を楽しみに1日を乗り切ってひとつの場所に集まるなんて、考えるだけでわくわくしてしまう。こんなことは本当は演奏する方が思うことかもしれないけど。妙に感慨深くなってしまった。


 そのバンドをなにかに例えるなら、寒い日に着るコート、だろうか。ファストファッションの大量生産のコートじゃなくて、着ると気分が上がる、上質なコート。シンプルで、落ち着いたネイビー色でどんな人が着てもいいんだけど、ボタンがちょっと個性的で、少し生地に光沢があって、裏地までしっかりしたような、きちんとしたつくりのコート。何年も続けて着ても丈夫で長持ちするみたいな、みんなが知ってて持ってるわけじゃないけど、私には絶対必要で温めてくれる、気分を上げてくれるそのバンドは秋冬がとてもよく似合って、人々が寂しさを覚える時間にぴったりなのだ。

 整理番号が良いとは言えなかったので、強い風に吹かれながら何十分も会場の前で待っていたけど、寒いのに寒くなかった。これから始まる彼らの演奏が楽しみで、まさにコートのように、わたしを暖めてくれていた。


 初めて心から好きで、その気持ちだけでチケットを取って観に行った。まわりは1人だったり、2人だったり、着飾っていたり、スーツだったり、年齢も性別も幅があるな、という感じだった。カウンターでコインと交換したジュースを飲みながら、箱の後方を陣取り、時計を気にして待っていた。


 ふっと照明が暗くなり、ポーン、と飛行機のサイン音が鳴り響く。一気に静まり、すこし緊張が走る。このときはただわくわく、未知への遭遇という感じがした。
 やがてメンバー、サポートメンバーが舞台上に姿を現し、少し遅れてボーカルがマイクにつく。



 イントロが始まり、ボーカルが歌い出した瞬間、ああ、私はおそらくこの光景をこの先ずっと覚えているだろうな、と妙な確信があった。今まで何回も何十回も聴いた曲でも、生では迫り来るものがまるで違う。気がつけば泣いていた、泣かざるを得なかった、それはほんとにもう、すごく自然に。隣の人も前の人も、泣いていたようだった。

 そのあとはもうひたすら喜びの中で、音に合わせて揺れる、頷く、幸せの時間が続いて、メンバーの表情に目を凝らして、この曲もやってくれるのか!と喜んで、体感時間はほんとうに一瞬だった。

 MCもほどほどにどんどん演奏は進む。イントロを聴きながらこの曲かな、と予想する時間も楽しい。最後の曲です、と言って流れたのは夏の新曲、この曲を生で聴くことをずっと楽しみにしていたので感無量だった。

 この規模のライブが初めてだったのもあり、アンコール文化もよく知らなかったのだけど、静かながらも熱を持った規則正しい拍手は止まず、再びメンバーが舞台に戻ってくる。

 そこからさらに3曲、そしてツアーファイナルなこともあってさすがに語りあり、グッズ紹介あり、とあまり型にとらわれない自由な時間が流れた。自らを「邪な思いで始めたバンド」なんて揶揄しつつ、ぽつりと本音も漏れて、驕ることなく等身大でいてくれる感じ、これだけお客さんが観にきて大賑わいな最終日、もっと図に乗ってもよいと思うけど、どこまでも謙虚な人たちだなと思った。というか、それが素なんだろうな、という空気感。時々笑いの起こる気張っていないコメントを聴きながら、こういう温度感を含めてこの人たちとこの人たちの音楽を好きになったんだろうなと再認識した。


 最後はまさかの一曲で、本当に、最後まで楽しませてもらった。


 終わってからの寒い東京の夜の風が心地よかった。私に自信と暖かさをくれる素敵な、ローラズ、と呼ばれるバンド、これからもたくさん聴きます。


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