映画「君たちはどう生きるか」は前半からこんなにも面白い!「行動」から読み解くストーリ―解説・考察①
みなさま初めまして、綿菓子と申します。
「君たちはどう生きるか」、先日見てきました。
私の結論としては「大名作」だったのですが、私の視点での考察がなく悲しかったのでここでつぶやいていきたいと思います。
はじめに
まず解説の前に、「行動」から読み解くストーリーとは何か話します。
皆さんは初めて「君たちはどう生きるか」を見て、こう思った人が多いと思います。
世界観はぐちゃぐちゃ、ストーリーもよくわからない。
それでもストーリーが何かを知るため、多くの人がそれぞれ考察を作ってきました。これらの考察では世界観を読み解くことでストーリーを読み解こうと考えた人が多いと私は感じました。しかし、私は逆に世界観をできる限り削り取ることでこの難解なストーリーを読み解くことができるのではないかと考えました。
世界観、人物の元ネタ、宮崎駿監督のメッセージ、それらの要素を一切排し、主要人物の「行動」とストーリーのみに絞った時、この作品がちゃんと一貫した話になっているということを話していきます。ぜひ最後まで見ていただけると嬉しいです。
さて、説明の前にもう一つ、シーンの見方の特殊性について話します。次の図をご覧ください。
多くの考察では各シーンが現実の何かを創作世界へと「抽象化」したものとしていますが、私は逆にさらに抽象化された「概念」を宮崎監督がジブリの世界へと描き起こしたものとして考察をしていきます。
そのため各シーンの考察では彼らの行動のみを見ていき、その生物の行動の理由は考慮しないものとします。
これらが「行動」のみに注目した考察となります。それでは解説をしていきましょう。
第一章 アオサギは一体何だったのか
まずはじめに皆さんがストーリーを見て一番扱いに困ったのがこのアオサギだと思います。
何せ行動に一貫性が全くありません。マヒト君を襲ったり、食い殺そうとしたり、醜い姿になったり、かと思えば急に協力関係になったりと目的も行動も無茶苦茶です。
では一体このキャラは何だったのでしょうか。アオサギのストーリー中の行動からアオサギの役割を考えていきたいと思います。
アオサギがマヒト君に行った行動は以下の通りとなります。
マヒト君を襲い、食い殺そうとまでしてくる
マヒト君のトラウマになっている母親のことを執拗に責める
マヒト君に「お母さまが待っています」と嘘をつき、「お母さま」の幻を作る
キリコさんから「マヒト君と仲が良い」と言われ、最後には協力し、ともに脱出する
このようなところでしょうか、ここからアオサギの人物像を推測すると以下のようになります。
マヒト君を殺そうとするほど嫌い
マヒト君によく嘘をつく
マヒト君の一番の弱みを知っている。
マヒト君に都合の良い幻想を見せることができる。
でも一方でマヒト君とある意味仲が良いし、大切にもしている。
つまり、アオサギはこれらの特徴を併せ持つ人物ということになります。
でもこれらを併せ持つ人物なんて・・・・・作中内に一人だけいますね。
そう、マヒト君です。
マヒト≒アオサギ
というわけで今回の考察ではアオサギはマヒト君自身であるという観点でストーリーを解説していきます。より正確にはマヒト君の心の悪意、弱さ、そういったものが創作の世界によって現実に現れるというストーリ―です。
そんなわけで映画前半のストーリーはマヒト君が自分の心の弱さと向き合い、自分自身と和解するまでのストーリーとなります。この前半戦を各シーンごとに詳しく説明していきます。
第二章 アオサギとの対峙まで
マヒト君の前半戦の最初のあらすじは幼いころに火災で母を亡くし、父は再婚、新しい環境に慣れず、学校でも孤立する・・・。というものです。
ここでマヒト君が感じた感情を私は異物感と表現します。孤独感に加え、自責を持っているといったところでしょうか。とにかく、マヒト君はこの孤独の原因を自分の環境や相手ではなく、自分のせいであるととらえています。
「なぜみんなは楽しそうにしているのに自分は楽しむことができないんだ」
「なぜ自分はいつまでも過去のトラウマを引きずり続けているんだ」
そういった自分を責める思考から彼は自傷行為に走ってしまいます。
自傷行為に走った結果周りの人たちはマヒト君を気にかけますが、すべてが空振り、ついに心の弱さがアオサギとしてマヒト君を襲います。
「助けて!マヒト!」襲ってきたアオサギの古傷をえぐる行為に対してまずマヒト君は耳をふさぐ(窓を閉める)、むやみやたらに振り払おうとする、等の逃避行動を行います。しかし、これでも心の弱さに立ち向かうことができず、飲み込まれそうになります。これを夏子さんが助ける・・・という夢?を見ました。
この夢と同じことが現実でおきます。夏子さんがマヒト君の傷を見て「悪かったね」といい、マヒト君は少し救われます。ここからマヒト君はアオサギと対峙しようとするフェーズに入ります。
アオサギと対峙するための武器を作るためにマヒト君は家の大人たちを頼ることで少しずつ異物化した環境から脱していき、心の強さを手に入れます。
ついに完成した弓からは矢が勝手に飛んでいき、母の残した本をマヒト君は読むこととなります。心の弱さに後押しされ、マヒト君は本を読むことでまた心の強さを得ていくことになります。
塔へ続く森の中へと入り行方不明になった夏子さんをマヒト君は追い、アオサギとともに塔へと入ります。
この後、アオサギはマヒト君のお母さまの幻影を見せますが、心の強さを得たマヒト君は当然のように幻影であることを受け入れ、ついに自分の心の弱さ、アオサギと対峙します。
向かい合う二人、アオサギはマヒト君を挑発し、マヒト君は弓からついに矢を飛ばします。
アオサギ自身の羽を使用した矢はアオサギ自身に当たり、ついにアオサギが正体を現します。
この醜悪で幼稚な印象を受けるアオサギを見たことでマヒト君はあることに気づきます。
それは今までマヒト君を襲っていた
「こんな自分は直さなければならない」「母親のことなど忘れて幸せになるべきだ」という小綺麗な自分の「理想」への思いというものが、実は「特に理由もないけれど完璧でない自分が気にくわない」「辛かった思い出を消してしまいたい」という醜悪で幼稚な「わがまま」の裏返しであった、ということです。
自分の理想が自分の弱さの裏返しであったということに気づいたマヒト君はアオサギに詰め寄ります。この自分の弱さをどうしてやるか・・・。というところでマヒト君は大叔父の手によって創作世界へと入っていきます。
アオサギと対峙した証となる「風切の七番」を持って・・・。
第三章 アオサギとの対話まで
創作世界に落ちたマヒト君はペリカン達に襲われます。
このシーンは「ペリカン=鳥=人の心の弱さがマヒト君を死という安らぎへと誘う」という解釈で大丈夫です。「死」という永遠の安らぎを求めるペリカンたちに襲われたマヒト君を助けたのはキリコさんでした。
この後マヒト君は船の出航の手伝いと大人に頼られることでまた心を強くしていきます。キリコから船に乗りながらこの世界を語られ、マヒト君はついにワラワラのいる家へとたどり着きます。
このワラワラ、私は「純粋」を書き起こしたものだととらえました。心の弱さ、悪さであるペリカンたちと対になっています。
(内臓がワラワラに対して栄養価が高いというシーンが結構好き)
成長したワラワラはついに空へと飛び立ちます。
ここでワラワラを襲うのがペリカン、つまり人の「純粋さ」を「人の弱さ」が食らうのです。ヒミちゃんの手によってこれは阻止され、多くのワラワラは空へと無事に飛んでいきます。
さて、この日の夜、マヒト君のところにペリカンがやってきてこんなことを言います。
「昔は魚があった、魚がなくなったら私たちは|ワラワラ《純粋さ》を食らった。今のやつらは羽ばたくこともしなくなった。」
この羽ばたかなくなった奴らとは何か、
最初に降りた時にいたペリカンたちです。つまりマヒト君は次の問を投げられたことになります。
心の弱さ、わがままを
好きにさせると、他の人の純粋さを傷つけ、結果人から疎まれ、傷だらけにされてしまう。
押し込め続けると自分自身が息苦しさを覚え、死という安らぎを求めてしまう。
自分にはアオサギという心の弱さがいるけれど、否定し続けてもいけないし肯定し続けてもいけない、さあどうするのか?
というところでアオサギがマヒト君のところへやってきます。ここからマヒト君はアオサギと対話を望むようになります。
アオサギとの対話はまず「死者を悼む」という共通点を見つけることでした。少しづつマヒト君はアオサギを認め、ついに「風切りの七番」を千切ります。
風切りの七番とは何だったのか
風切りの七番、作中ではアオサギの弱点といわれていますがこれは一体何だったのでしょうか?実はこのシーンの後にヒントがあります。
「アオサギは嘘しかつかないってほんとかい?」
「今は嘘ついてねぇよ!」
「それもウソ!」
ここでアオサギはほんとに嘘をつけなくなっている可能性があります。そして嘘をつけなくなっている理由として一番近いと思ったのがアオサギの羽を千切ったシーンでした。
つまり「風切りの七番」は嘘がつけなくなる羽だからアオサギの弱点なのではないでしょうか。
ではここで風切りの七番は何なのか調べてみましょう。
尺骨より先端、人間の「てのひら」にあたる部分の骨に接続。翼の最も外側に位置し、推進力を得るという飛行にとって重要な役割を果たす。翼の先端に位置するものほど尖っており、次列風切に近くなるにつれ幅が広く、長さも短くなる。胴体に近い側から翼端に向かって1, 2, 3, ... と番号が付けられる。多くの鳥は11本の初列風切を持つが、コウノトリやフラミンゴは12本、ガチョウについては16本など、例外も存在する。
胴体に近いほうから順に7番目、仮に11本の初列風切をもつなら外から5番目の羽が「風切の七番」になります。また、所列風切は手のひらに当たる部分の骨に接続している・・・ということは「風切の七番」は人間に当てはめると小指になります。
小指と嘘がつけなくなる・・・・そう、「指切りげんまん」です。
というわけで「風切りの七番」を千切るシーンを私はこう解釈します。
マヒト君は自分の弱さに、アオサギに約束をします。
「もうお前を無視することなんてしない、認めてみせる。だからアオサギ、お前はもう嘘をつかなくていい。」と
嘘をつかなくなったアオサギとマヒト君は当然いがみ合います。そこにキリコさんが一言。
「なんだい、あんたら案外仲いいじゃないか」
つまり、さんざんマヒト君を傷つけてきた心の弱さが、本当はマヒト君の苦しみをもっとも理解し、守ろうとしていた存在でもあったことが示唆されます。
じゃあ、僕たち本当はいがみ合う立場ではなく、協力できる関係なんじゃないか。じゃあ協力して心の弱さに取り込まれた夏子さんを救いに行こう!
というところで前半戦が終了します。
結論: マヒト君が完璧でない自分を許すまでの物語
終わりに
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
マヒト君が前半でこんなにも成長しているんだ!ってことが分かっていただければ嬉しいです。
次回は後半戦、あの物語の裏で起きていた計画、そこから紡がれる感動のストーリーについて話していきます。
ではでは~
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