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消えていく日本を記録したイザベラ・バードの『日本奥地紀行』がマンガになっていてビックリした話
女性旅行家・紀行作家 イザベラ・バード
イザベラ・バードという人がいました。日本でいうと明治時代に活躍したイギリスの女性旅行家・紀行作家で、当時としては非常に珍しい存在でした。
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この人が、1878年(明治11)5月に横浜に上陸し、横浜〜日光〜会津〜越後〜新潟〜山形〜秋田〜青森〜北海道と欧州人未踏の日本の地を歩き、同年12月に横浜から離日した旅の記録を、1880年(明治13)『Unbeaten Tracks in Japan(直訳:「日本における人跡未踏の道」)としてイギリスで刊行しました。日本では『日本奥地紀行』として知られています。
イザベラ・バードのことも、『日本奥地紀行』のことも、すごい昔;1990年代から宮本常一の文章で知ってはいたのですが、読んだことはありませんでした。なんか、読むのがしんどそうだったからです。
『日本奥地紀行』のマンガ化!!
ところが先年、『日本奥地紀行』がマンガになっていてビックリしました。そんな労力のかかることやる人がいるのか、と。エライもんだなぁ、と。
戦国モノとかサムライモノってのは、比較的描きやすいと思うんですよ。見る方にも、ある程度の共通認識があるし、参考資料も多いでしょうから。
しかし、『日本奥地紀行』ってのは、言ってみれば民俗学ですからね。「民族」じゃなく、「民俗」ね。つまり、当時の日本の奥地の庶民の暮らしを描き込まなきゃいけないわけです。文字の資料は多少あるかもしれませんが、絵の資料も写真の資料もそんなにないんじゃないか、と。それにチャレンジするってのがスゴいなー、と。
で、これ、マンガ読んでから原著(の翻訳)読んでわかったんですが、イザベラ・バードは、ほんとに奥地を旅してるんです。当時の外国人は誰も行ったことがないような。1878年(明治11)に。明治維新から間もない頃に。
横浜から日光は、ま、他の欧州人も行ってたでしょうが、そこから南会津の方に入っていきます。欧州人未踏の地の始まりです。
南会津町、わたしもスキーで何度か訪れたことありますが、今でも奥地です。2023年現在でも、なんてますか、「スゴいとこ来たなぁ」っていう感慨におそわれるほどの奥地です。その南会津町の田島とおって、下郷町抜けて、会津美里町〜会津坂下町〜西会津町〜阿賀町〜新潟市と進んでいく、ほんとに奥地なそんなルートを通ります。
そんなルートを旅したイザベラ・バードもすごいですが、それをマンガにしようっていう方もすごいですね。
ということで、マンガ読んでみました。面白かったです。すごく。
金坂清則の『完訳 日本奥地紀行』
さらに、原著(の翻訳)の第一巻も読んでみました。すごく面白かったです。特に、下記の本だから面白かったのかもしれません。
最初にご紹介した本より高価ですし、さらに3巻に別れています。つまり、ずいぶん高価です。
しかし、この本、金坂清則という京都大学の名誉教授が、先行する研究の考証と批判を行いながら、さらにご自身でイザベラ・バードの歩いた行程を現地踏査して、同じ場所で写真撮るっていう、何て言うか、ちょっと頭おかしい(←褒め言葉)、研究者が翻訳した本です。言い換えれば、研究者の鏡が書いた本です。素晴らしいです。金坂清則の熱意と情熱が伝わってきます。
と、同時に、マンガを読んでも原著(の翻訳)を読んでも、イザベラ・バードの情熱と熱意が伝わってきます。
比類のない偉大な業績
イザベラ・バードは牧師の娘で、物事の判断にキリスト教色が強くて辟易するというか、ところどころ文章に強烈な匂いがあるんですが、それを超えて私たちに、100年以上の歳月を経ても私たちに様々なことを訴えるのは、彼女の持っていた情熱と熱意のたまものです。
そして、マンガに記されていた考え方ですが、ある文明が滅びようとしている時、ある文化が消滅しようとしている時、それを誰かが記録に残す困難な作業を行うことで、やっとその文明・文化は後世に伝えられます。
明治維新によって日本の近代化が始まり、「江戸日本」が滅びて消滅しようとしている時期、イザベラ・バードも、その困難な作業を、独自に、オリジナリティを持っておこなった偉大な先人の一人です。特に、日本の奥地に分け入り、その世界を書き残したことは、比類のない偉大な業績でしょう。