頭を打って、わかったこと。
11月27日(日)、天候晴れ、気温22℃ 八幡山岳会カントリーレースに参加した。草レース(アマチュアレース)だけど、今回で104回開催とのこと。1971年が第1回ということは…ひゃー、51年前!北九州が誇る二大名山、福智山〜皿倉山の約22kmを駆け抜けぬける、歴史ある草レース。なにより北九州の山を愛する人々によってガッツリ支えられていて、一度走ると二度三度、私もその一人だったりする。みんなでゴールの豚汁を食べるぞー!
3年ぶりの一斉スタート
新幹線→ローカル線に乗り換え、最寄りの採銅所駅へ。これまでコ○ナにより縮小、制限付き開催だったけれど、3年ぶりの一斉スタート。知った顔もいっぱいで、和気あいあいを絵に描いたような空気感の中、104回目のレースがはじまった。
前半、牛斬山までの登りは、おおむね好調!?いやいや、ペースってどんなだっけ?ここって前に来たことあるっけ?勘が鈍るとはこんなこと。今思えば、ハイペースだっと。とはいえ、わちゃわちゃと話しながら稜線パートについた。ここから福智山までは、美しく整備されたシングルトラックが続く。もちろん行手を阻む念仏坂などエグエグチャレンジも含め、まさにカントリーレースの醍醐味!やっほー!
心拍185って!何事よ!
・・・のはずだった。あれ?序盤なのにキツいんですけど…心拍数185って見間違いよね…猛烈に喉が渇くんですけど…変な汗がでるんですけど…てか、吐きそう!!!(草やぶに駆け込む)。模範例のような熱中症、および脱水の症状。とにかく、11月下旬とは思えない日差しと気温。暑熱順化機能がすっかり退化しており、みるみる弱っていくではないか。友人Tちゃんが心配して付き添ってくれたけれど、まるで回復しない。さて、どうしたものか…。
福智山山頂に到着。ボランティアの皆さんやハイカーさんたちが拍手で迎えてくれた。風の通りもいいし、ちょっと休んで体力を戻そう。少し落ち着いたので下りだしたものの、湿った岩場で勾配もあり、とにかくすべる。ここは福智山登山の目抜き通りであり、ハイカーさんも多く、励ましをいただきながら下った。
「はよいかんと、豚汁なくなるよー」
その時、一人のハイカーさんが「はよいかんと、豚汁(振る舞い食)なくなるよ〜。がんばって〜」とエールをくれた。「は〜い、がんばりま…」の瞬間、ズルズルと右足がすべり、踏ん張ろうとしても力が入らない。咄嗟に右手で止めようとしたけどダメ。そのまま右肩から回転して宙に浮いたかと思うやいなや、ゴンッ!!!鈍い音といくつもの星ともに、右側頭部に痛みが走る。気がつけば、顔の真横に横に岩があった。
「大丈夫!!!!」周囲も騒然。Tちゃんと声をかけてくれたハイカーさんの手を借りてなんとか起き上がったけれど、フラフラするし、ジンジン痛いし、ウエアはドロドロだし、あー、もー、終わった…。でも一呼吸おくと、骨折はしていなさそう、腕も動く、血もそこまで出ていない。あ、大丈夫かも。この判断はあきらかにトレイル基準であって、良い子は真似してはいけない。まぁ、本当の良い子は山は走らないと思うけれど…。ということで、続投(走)することにした。
でも、ここからゴールまでは半分以上の距離がある。俊足の友人たちはそろそろゴールするだろう。このままでは長時間待たせることになるし、なにより一緒のTちゃんに申し訳ない。「Tちゃん、先に行って!ゴールして、みんなに伝えて!」ここでTちゃんとさよなら。ホントにホントにありがとう。
続けるか、やめるか、ここが分かれ道
尺岳のチェックポイントに到着。さて、このまま進んで完走を目指すか、リタイアするか、ジャッジするならここしかない。すると、今回たまたまボランティアスタッフに看護師さんがいらしゃるではないか。「意識もあるし体力もあるけれど、打ったところが頭だから無理しない方がいい。何かあってからでは遅いから、これから病院に行って検査してもらいましょう」まじですか…。ツバつけとけば治るかな、ゆっくりでも完走目指すかなと軽く考えていた。リタイアのみならず、病院につきそっていただくなんて、恐縮以外なにものでもたい!心苦しくて窒息する!
でも、考えてもみよ。みんなの楽しいレースで参加者が負傷し、それが後になって悪化…。となると、開催関係者の皆さん、参加者の皆さんに苦い後味を残してしまう…うわ〜最悪。私だけの練習ならともかく、みんなのレース。個人の判断ではいけない。「すみません、DNF(リタイア)します…」ゼッケンを外した。
最終ランナーを見送り、1時間ほどかけて下山。看護師Kさんと夫のWさんの自家用車に乗せていただき、救急病院に搬送してもらった。ゴール地点に預けた荷物をBさんにピックアップしていただき、病院に届けていただくなど、至れり尽くせり。100回ほど「すみません」と言い続けた。
助けてもらうには、助けないといけない
「いやいや、これはトレイル(山)をやっている人みんなに起こりうること。自分だってどうなるかわかりません。だから、もしそうなったとき、助けてもらわなきゃならないから、お互いさまってこと。そのために、僕たちがいるんですから」とWさん。
「すみませ・・・いや、本当にありがとうございます。このご恩は、しっかり体で返させていただきます。次回はボランティアとして、豚汁の野菜切りでもなんでもします!」
ここから「すみません」は封印し、すべて「ありがとうございます」に変換した。
このレース云々ではなく、いわゆる「ボランティア」という行為にどこか馴染めず、一歩引いた気持ちでいたのはたしか。どうしてそういう風に感じるんだろう、私の性根は腐っているんだろうか…とモヤモヤしていた。でも、Wさんの言葉をはじめ、ボランティアの皆さんの手をがっつりお借りした今回、目の前を覆っていた薄い膜がはらりと剥がれた気がした。助けてもらうには、助けないといけない。恩には恩で返さなければならない。健全でフェアな状態を保つには、私もそれなりのパワーで補完しないと。もらってばっかりなんて、むしろ気持ちが悪い。大袈裟だけど、私の美学に反するから。頭を打って気づくのもアレだけど、抱えていたモヤモヤがストンと腹落ちした。
悔しいだけのDNFではなかった
CT検査をし、レントゲンを撮り、なかなかの時間をかけ検査が終了。「脳内出血もないし、骨折もないようです。数日は安静にしつつ、経過を見てください」本当にすみませ・・・いや、ありがとうございます。
検査が終わった頃、黄色のジムニーが駐車場に入ってきた。「お世話おかけして、申し訳ありません…」と頭を下げながら夫がやってきた。100kmウォークに続き2回目のお迎え…。付き添っていただいたKさんにお礼をいい、帰路についた。都市高速から夕日に染まる皿倉山の鉄塔が見えたとき、ああ、みんなで豚汁食べたかったな…と左胸がギュッと締め付けられた。でも、涙は流れない。不思議と悔しいだけのDNFではなかった。それは、ボランティアをはじめカントリーレースに関わった皆さんのおかげであり、なによりそこに愛があったから。一度は折れた心だったけれど、気がつけば完全とはいわなくても、ずいぶんくっついていた。これなら、なんとか、山を怖がらずに済みそう。嫌な経験のままだと、本当に山に行けなくなるから…。心も体も、ともに今のところ異常なし。とはいえ最近ケガづいているので、しっかり療養とお祓いだ。
ガーミン48000円なんて安いもの
帰宅後、夫がア○ゾンを見ながら「このガーミンは他のやつより人気で値段が高いんだけど…どうしよう」・・・「もう、高くていい!欲しいの買い!」鉄砲玉のように飛び出し、ボロボロで帰ってくるならまだしも、迎えに行かされる妻って…さすがに私もそんな妻は嫌だ。ガーミン48000円なんて安いもん。ほんとにいつもすみませ・・・いや、ありがとうございます。
最後にもう一度、八幡山岳会カントリーレースの関係者の皆さま、参加者の皆さま、Tちゃんはじめたくさんの友人の皆さん、本当にご心配おかけしました。皆さん一人ひとりに菓子折を持って馳せ参じたいくらいです。記録より記憶(悪い方)で印象づけてしまっていますが、どうか呆れることなく、今後とも山で一緒に遊をでくださいませ。
ありがとうございました!