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味噌タンメンは悪くない

スマホに目を落とすと、あと少しで14時。そのまま目を振るとタンメン屋があった。狭い入口で食券を買い、一番奥の壁に面したカウンターに通される。一つあけた席にはサラリーマンおぼしき中年の男性。辛味噌タンメンの汁がシャツに飛んだらしく、紙ナプキンでゴシゴシこすっていた。「無料で大盛りにできますが、いかがなされますか?」「…あ、大丈夫です」目の前の壁の棚には、味変用の調味料や薬味がずらっと並んでいる。「こんなに味変させないといけないんだろうか…」と思いながら、お冷を口に含んだ。

私は一体、何をやっているんだ。
東京くんだりまできて…。

我に返った。朝5時に起き、7時すぎのバスで博多駅に向かい、7時56分の新幹線に乗る。出入口すぐの通路側の席。本来であれば、実家の野良猫の連れ子の茶茶茶ちゃんが一緒だったが、訳あって私一人となった。東京までジャスト5時間。ちなみに福岡空港から香港まで4時間10分、ハノイまで4時間55分かかるらしい。

わかってはいたけれど、思うように時間はすぎてくれない。ipadや本も持参したけれどいまいち見る気にもなれず、ならばと缶入りのスパークリングワインを開けてみたが、さすがに朝9時では美味しくもない。ただただ、目の前に貼ってあるYAZAKIのイメージ広告を眺める、、、のみ。

新大阪で隣の乗客が降り、京都で新たな乗客がやってきた。赤ちゃん連れの母娘とおばあちゃんだろうか。2歳前ぐらいのおしゃべりな女の子は、お母さんのことが大好きらしく、ちょっとでも抱っこをやめると秒で泣き出す。赤ちゃんは泣くのが仕事だもんね…その都度、YAZAKIの広告を眺めた。

名古屋を過ぎればもう一息。小腹が空いたなとバッグからチーカマを取りだそうとした瞬間、、、パシャン! 左頬にうどんが飛んできた。赤ちゃんが体をくねらせた勢いで、お母さんが持っていたスープジャーが手から滑りおちた模様。汁まみれになる前にとお母さんの荷物を持ち上げ、ペーパーでふきとりを手伝う。駅員さんもやってきて、しばらくして騒動はおさまった。最後に駅員さんに「大丈夫でしたか!」と濡れおしぼりを差し出され、「…あ、大丈夫です」と応えた。

しばらくしてお母さんも我に返ったのか、「すみません!えっと、クリーニングに出されるならお電話を…」「…あ、大丈夫です」お隣に見えないように濡れおしぼりでうどんを拭く。気がつけば品川。隣の母娘が立ちあがり「すみませんでした…」と言って降りていった。お母さんは大変だわ…と左脳で理解しつつも、久々の東京なのにうどんコート(このために買った)か…と右脳で凹んだ。

「お待たせしました〜」10分ほど待ったところで、味噌タンメンがやってきた。あれ?味がしない…おかしいな。味変のいろいろを足してみる。そうそう、これだけは忘れてはいけない。「すみませーん、紙エプロンください」。新幹線の母娘も悪くない、味噌タンメンも悪くない。私が少し疲れていただけ。ちなみにこのタンメン屋の評価は3.5だった。

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