好きだけど嫌い。山への憧憬
数年前から山に行くのが好きでちょこちょこ登っている。
好きと言っても鍛えてるわけでもなければ、百名山制覇!といった目標を掲げているわけでもない。
頂上を目指すことよりもどちらかと言うと歩きながら景色を楽しむトレッキングの方が好きなんだと思う。
ちょっと達成感を感じることができる長野の上高地くらいがちょうどいい。
今暮らしている都市は標高が高く周りは山に囲まれている。
標高が高いので、簡単に3-5000m級の山にも行くことができる。
山に行くのが趣味だと言った時に「じゃあもう富士山はもう登った?」と聞かれたら、
「富士山は登ってないけど、4600mくらいの山は登ったかな」とすまして答えている。
実際はスタート地点が高いだけ。
今回連休に久しぶりに山に行くことに。
目的の山は標高が5700mあり頂上周辺は雪に覆われている。
斜面が急で雪崩が起きやすい山なので登山家でも難易度は高い山だそう。
そんなこともつゆ知らず、義理の父に誘われてピクニックくらいの気持ちで一緒に行くことに。
スタート地点に着いた時点でとにかく寒い!雪が見える!思ってたんとちゃう!となる私と夫。
流石に頂上は目指さず、今回は少し峠を登った先に綺麗な湖があると聞いたのでそこに向かうことに。
スタート地点の標高はおよそ4300m。富士山より高い。
すでに息苦しい。
日本とは違い、現地の人たちはコンバースやTシャツジーンズとという日本の登山家たちにしばかれそうな格好でずんずん登っていく。
コンバースで行ってる人も子どももおるし、私もいけるか、と決心して岩場を登っていく。
あれ、装備なしコースって聞いてたけどなんかきつない?と思いつつ途中までなんとか登り切ったところで、降りてくる人たちに聞いたら装備が必要なコースにいることが発覚。
けれど降りてくる人も全員軽装で、ここの岩場だけ難しいけどその後は全然大丈夫!とのこと。
その言葉を信じてなんとか4900mまで登り切り、美しい湖と雪に覆われた山頂を見ることができた。
さあ後はもう降りるだけ!さっさと降りてご飯食べよう!と意気込んで、もと来た道を下っていく。
あれ、なんかちょっとこんな降りるの難しかった?となんとなく不安になりつつもスタート地点の山小屋が下に見えてきた時、
下にいたレンジャーが「そっちじゃない!!道はないぞ!!戻れ!!」と叫んでいる。
青ざめる我々。よくよく見ると下に道はなく、大きな岩になっていて、降りてしまうと今度は戻れるなくなりそうな場所にいることに気付いた。
戻れないかもしれない!と思った途端に足がガクガク震えはじめ半泣きの私。
夫と義父は落ち着いて大丈夫大丈夫♩と能天気。
左手に行けば岩場のコースに戻れそうだけれど、そこにいくまでに落ちたらどうしよう!と半ばパニック状態で、なんとかコースまで戻り、最後の最後に心身ともにボロボロになりながらなんとか下山。
まさにべそをかいた。
あのまま、間違えて降りてたら落ちてなかったかな、手が滑ってたらどうなったんだろうと思い出すだけで、今も手汗が出る。
下山後、霧が晴れた山を見ると、砂場だけのコースから人がたくさん降りてきているのが見えた。
あっちやったんか…と三人で唖然としながらも、まあ綺麗な景色も湖も見れたし結果オーライと自分たちを納得させて無事帰宅。
この国の山は国立公園として管理されていてもコースはあってないようなもので、
道標も少ないため遭難者が出ることもざらにある。
今回下山した後になって、そういえば前も国立公園に行って迷って大雨の中なんとか帰ったな…ということを思い出した。
本当に怖い思いしているはずなのに、なぜか時間が経つと怖さは忘れて、山から見た美しい景色と達成感だけが残っている。
もう二度と行きません。と言いながらまた気付くと山に行ってしまうのだ。
山に対して、好きだけど嫌い、嫌いだけど好き、みたいな乙女心に似た憧れがあるのかもしれない。