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若い才能を結集し、ベンチャーを率いる  coton顧問古川聖さんインタビュー

作曲家、メディアアーティスト、東京芸術大学教授、そしてスタートアップの顧問と何足もの草鞋を履く古川聖さん。東京芸大発ベンチャーである株式会社cotonの出発点となった研究について、そしてこれからのcotonに託したビジョンについて聞きました。

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ターニングポイントは2008年

ー 古川さんは20年以上ドイツを中心に活動した後、2000年に東京芸大の先端芸術表現科新設のために帰国されたんですよね。大学での教育活動に従事する一方、作曲家、アーティストとして活躍しながら、cotonでも顧問という立場で、創業から参画していますね。

古川:そうです。cotonについては、もともとある企業との共同研究としてプロジェクトチームを組み開発していた「soundroid(サウンドロイド)」がベースにあります。実用には至らなかったのですが、その技術を引継ぎビジネス展開する、というのが起業のきっかけになっています。

ー 「soundroid」が「soundtope」の前身ということになりますか。

古川:さらに元を辿ると「soundroid」開発には背景がありまして。2008年から東京芸大の仕事と並行し、客員主幹研究員として理化学研究所にも研究室もち、JST(独立行政法人科学技術振興機構)ERATO岡ノ谷情動情報プロジェクトに参加しました。10億をこえる潤沢な予算のもとで、様々なバックグラウンドを持つ研究者、アーティストが集まり、既存の研究分野の枠を超えて挑戦的な基礎研究を2014年まで継続しました。

私はそこで、脳科学から芸術へのアプローチを行い、音楽の内実である音楽情動のメカニズムを研究するサブグループを統括し、脳波による音楽弁別と、それを踏まえ、脳波を使った演奏を行いました。

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脳波音楽プロジェクト:脳波(演奏:濱野峻行)と弦楽四重奏の共演

ここで人生において初めてホンモノの科学者たちと出会ったわけです。ターニングポイントになりましたね。

 濱野君(coton最高技術責任者)ともここで一緒に研究して以来の付き合いです。

ー 基本に立ち返りますが、情動とは何をさしますか

古川:快(喜び)、不快(嫌悪)、怒り、恐怖、悲しみ、驚きなどを代表とする基本的な心の状態のこと、emotionですが、本当はまだわからないことだらけです。音楽とは不可分の関係にあります。

現在、cotonにおいて開発している「soundtope」では人工知能を用いて、この音楽情動を制御しているのですが、”人工知能と音楽”とは実は新しいテーマではなく、ずっと以前、コンピュータができたころから行われています。
今再びこの分野に活気が出ているのは、機械学習などの技術が発展してビッグデータを扱えるようになったこと。それからさきほどの音楽情動の研究などによって、音楽の脳内認知のプロセスの解明が進んできたという背景があります。
「soundroid」、「soundtope」も、そんななか生まれました。


「soundroid」〜脳の認知的リソースをどう使うか〜

古川:「soundroid」はビジネスに適した音環境を自動生成するシステムです。

使う人の状態、環境の情報を取得し、さらに作業に使われる認知的リソースと競合しないように、12種類設定した音の生成パラメータ(*)を最適な複雑度にコントロールします。

*soundroidの音生成カテゴリー(パラメータ):
ピッチ(多様さ、音階の長短、音階の明るさ、音域の広さ、全体的な音の高さ、なめらかさ)、リズム(テンポ、多様さ、規則正しさ)、音(楽器、音量、残響)

ー 使う人の状態、環境とは具体的に何を取得するんですか

古川:気分や表情分析から読み取れる無意識、作業内容や作業場所などですね。どんな作業、たとえばルーティーンワークなのか、思考力を使う創造的な仕事なのか、あるいは休息中なのかなどによって脳活動、認知活動に使われる認知的リソースが異なる、という考えから重要なデータです。

ー 認知的リソースの競合というのは、どういう意味ですか

古川:たとえば、文章を書いてる時に音楽が流れてくるのはよいのですが、横で話をされると邪魔になります。つまり同じような、この場合でいうと”言語を扱う作業”のために脳の認知的リソースがぶつかるからですね。
 脳はじっとしていられないので、使われていない認知的リソースがあると、そこに集中力を妨げる雑念が入り込んできます。それでそこに適度な刺激、認知的負荷をかけシールドすると作業により集中することができます。
この原理がcotonの「soundtope」に引き継がれています。

ー 古川さん監修のもと「soundtope」が店舗、イベントスペースのBGM、個人に合わせた作業環境用BGMウェブサービスなど、さらには屋内だけでなく屋外でも、様々な形で展開されていますね。

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AGC×JAID『8.2秒展』(AGC Studio)

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SHISEIDO GLOBAL FLAGSHIP STORE

東京芸大との産学共同プロジェクト

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sonicwalkは、スマートフォンやPCのウェブアプリケーションとして利用可能


古川:2019年から東京芸大の私の研究室とcotonでは、「sonicwalk」というシステムおよびアプリの共同開発もしています。
 衛星測位システム(準天頂衛星システム「みちびき」)や既存のGPSによる位置情報に基づき音や音楽が変化する音環境システムを構築しています。
このアプリを使って「あるく!空間楽器コンサート」という参加型アートイベントを実施しました。アーティストが地図上に仮想配置したサウンド作品を、実際の空間のなかで散歩しながら、またはPCの地図をたどることでバーチャルに体験することができます。

ーインタビュー記事で古川さんがおっしゃっているとおり、今後、観光ガイドや、災害が起きた際のアナウンス、商用イベントなど、多様な使い方の可能性を感じます。一見、芸術とは関わりのない分野や人々との架け橋になるというのも、cotonの強みを生かす取り組みになりそうですね。

非常事態宣言期間が長く続くなか、学生たちとのコミュニケーションも大変ではないですか

古川:むしろ交通移動の時間もなくなり、zoomなどで自由に以前より学生たちと話す機会が増えました。今までこんなに話したことなかったんじゃないかな...これはコロナによる状況変化の良かった点ですね。

先月はゼミの学生の展覧会を開催しましたが、テーマとして「“co-exist(共生)?」を掲げました。これからのアートは、社会との関係性を切り離しては成り立ちません。コロナに向き合う必要もあるし、地球温暖化や格差が引き起こす数々の問題などと無関係でいることは誰しもできないのです。作品がそれ自体のみで成立することはなく、その作品が意味を持つコンテクストを明確化することもさらに重要になっていきます。

これからのcotonが目指すこと

ー「soundtope」も「sonicwalk」も今後ますます展開が期待できそうですね

古川:でも、もはやこれらのテクノロジーや原理は他の人でも応用できちゃいますね。コトンの長所はむしろ、テクノロジーとアートが高いレベルで融合したアーティスティックなソリューションにあります。なにしろ濵野、森本、宮本、長島(わたしもそうですが)が作曲とコンピューターミュージックの修士、博士をバックグランドに持っているからです。皆、私よりずっと若い人たちですけど、本当に優秀なアーティストたちです。cotonとは別に彼ら自身の発展も楽しみなのですが、彼らの成長がまたcotonを動かしていく...というようなハイパーサイクルって可能でしょうかね。
 cotonと東京芸大は、10年後の社会を見据えた産学共同の夢のある仕事をしていきたいです。

ーありがとうございました。これからのcotonの活動、注目していきます!

古川聖
ベルリン芸術大学,ハンブルク音楽演劇大学にて伊桑 尹(I. YUN) ,G.Ligetiのもとで作曲を学ぶ(作曲修士)。スタンフォード大学でレジデンス作曲家,ハンブルク音楽大学で助手,講師を経てドイツのZKMでアーティスト研究員.1997年のZKMの新館のオープニングでは委嘱を受けて,マルチメディアオペラ『まだ生まれぬ神々へ』を制作・作曲.多くの受賞歴がある.東京藝術大学先端藝術表現科教授,藝術情報センター長兼任.古川研究室を主催し理化学研究所を始め、多くの機関、科学者と共同研究を行っている。

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