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「呉服の値はだんだん下がる 平和その他色々のことが影響す」 1919年の新聞記事から

 新聞博物館でたまたま見た展示の中にあった、大正8年の新春の読売新聞に、着物の相場についての記事を見つけたので撮影してきました(撮影可)。当時のことが色々わかる内容だったのでご紹介します。

 特に着物に興味のない人からは、着物には流行はないのではないかと思われがちですが、この文章を読むとはっきりと毎年の流行りがあり、花見の前など、季節ごとに新柄が出るものだったことがわかります。呉服店では流行遅れを在庫にしないためにも年末から新春に安売りしてたわけです。凝った柄の銘仙が高くなるのは手間のかかる分当然でしょう。

 個人的に面白かったのは、「糸の相場で銘仙は値段が変わるがお召には影響がない」こと。銘仙も後期には生糸で織られるようになってくるので相場の影響は低くなったのではないかと想像しますが、この頃の銘仙は毎年とれたての糸で織られていたんですね。


読売新聞 1919年1月5日 婦人向けの記事
「呉服の値はだんだん下がる 平和その他色々のことが影響す」

 一時非常に高くてどこの家庭でも買うのに首をひねった呉服類が少し安くなりました。いったいこれは大戦(第一次世界大戦 1914年〜1918年)が思いがけなく平和になったので、株など一般経済的方面に大変動が起こったので、呉服類もそれにつれて安くなったのです。
 また今まで物価勝貴々々(?)で、すべての物があまりに高くなっているから日常品の中でも欠くべからざる着物は、せめて安くしたいという意見が、織物商組合でも持ち上がっていたのでした。

 またこの二か条は、本年特有の現象ですが、このことがなくとも、暮れからお正月にかけては、一般に呉服ものが安くなる傾向があります。それは、一般織物商が暮れにはどうしてもまとまったお金が欲しいところから、少々安くとも売らなければならないことになり、正月が来ても暮れの売れ残りを売って、それから春、花見どきの流行柄にうつるので、値は安くとも売るように余儀なくさせられるわけです。

 さて、今こういうわけで、呉服物が下がったのですが、下がったと言ってもそれは関西ものの方で、銘仙類、紡績絹(※生糸生産時に出る糸くずや穴あきの繭などを短く切って綿状にし、そこから紡いだ糸。絹紡糸。空気を多く含み、真綿のような柔らかさで保温放湿性に優れ、肌に優しい)でありまして、西陣もの、例えばお召帯地などは何の影響がないのであります。

 それはどういうわけかと言うに、銘仙類は糸の相場に関係することが多く、糸が安ければ安くなり、高ければ高くなるのです。ところが一方西陣ものの方は、前々から糸を買い込んでおいて、注文に従って織るのですから、時価にあまり左右されません。そして銘仙類の値はいくらかと言うに、一時頂上で15〜16円したものが、12〜13円となり極悪いので10円くらいです。尤も若向の模様に苦心したものは高く、年増向きのものは安いわけです。また紡績は5円くらいのが3円くらいに下がり、メリンスは一尺60〜70銭です。

 お召、御帯地などは模様と言っても普段着の銘仙ほど模様の変化もなく、100円の丸帯も200円のもちょっとみたところではどこが違うのかと思われるくらいです。ただこういう織物になると、加工の如何によるもので、刺繍などの点に関係することが大きいのです。

 銘仙類は下がっていますが、新しい花時の模様を好む方などは暮れの売れ残りを押し付けようとする悪い呉服屋もあるかもしれませんから、まず控える方が良いのです。またその安い、そら今だぞと言うことで、買い出すと、また高くなるという勢いを示さぬこともないようです。


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