【卒業生の声】新規就農までの道のり~いけはら農園
1.農業に興味を持ったきっかけ
2024 年 4 月より、神奈川県座間市で新規就農した池原と申します。 岡山県出身で、年齢は 30 歳です。
元々はパンの製造・販売を手掛ける食品メーカーに勤め、農業とは全く無縁の生活をしていました。
転機が訪れたのは入社 3 年目、25 歳の時です。
パンの原材料となる小麦や野菜を栽培する 自社農場に出向し、1 年半の研修を受けることになりました。
暑い日も寒い日も畑で農作業を行う日々となり、体力的には大変でしたが、黙々と作業を行うことはさほど苦にならず、不思議と充実感を得られているのがわかりました。
そして何より、自分たちで栽培した小麦を使用して焼き上げた、パンを食べたときの感動が 大きなきっかけとなりました。
目の前のパンを通じて、毎日何気なく口にしている食べ物には、長い時間と労力を掛けた作り手の想いが込められていることを実感したんです。
この頃から漠然と、農業に関わる仕事に就きたいと思うようになりました。
2.農業法人への転職を経て、就農を決意
具体的には、生産現場と消費者の距離を近づけ、農業の魅力を伝えることができるような仕事をイメージしていました。
食品メーカーを退職後、自分が思い描いたような農業法人に縁あって雇っていただきまし た。「農ある暮らしを日常に」を掲げ、体験農園コトモファームの運営を行っている株式会社えと菜園です。
就農サポートをしているNPOのスタッフを経て、体験農園のスタッフとしては約 1 年半勤務しましたが、野菜づくりを楽しむお客様と日々 接する中で、改めて畑で過ごす時間を好きだと実感しました。
それと同時に、自らが栽培の担い手となって、この先 20 年、30 年と農業を続けたいと本気で考えるようになりました。
3.就農へのステップ① コトモ上級者コースを受講
コトモ上級者コースは、独立就農をはじめとする「農ある暮らし」の実現をサポートするための少 人数制の講座です。
この講座では、「小さく始めて長く続ける農園の組み立て方」を学びました。
農業を始めるにあたって、できるだけ消費者に近い環境で取り組みたいという思いがあっ たので、当時住んでいた神奈川県でそのまま就農したいと考えていました。
しかし、私は実家が農家でもなければ、地域とのつながりも持っていません。 その地で代々農業を営んでいる農家と同じやり方をしていては、事業としての継続は難し いことは明らかでした。
研修先の農家は、非農家出身で他地域からの参入という、私と同じような環境下で就農していました。そのような一見不利な状況下でも、長く事業を続けるための方法論が講座のベースとなっていました。
講座内容としては、農起業のために必要な知識や戦略(農業界の現状、栽培理論、販売計画 など)について、座学と実地の両方から学ぶことができました。
圃場での栽培の際は、様々な機械や資材を取り扱い、農業経営に必要となる作業インフラの 見極めに繋がりました。さらに作物を生産・販売して現金化するまでの過程で発生する、時間コストや費用対効果を体感する事ができました。
半年間の講座の最終回では、各自が目指す農園の事業プランについて発表しました。 悪戦苦闘しながらそれらしきプランを作り上げて初めて、就農に向けた自分の現在地を客観視することができました。
またプラン発表時に周囲から意見をいただくことで、自分の強みと弱みを把握することができ、事業の軌道修正に繋がりました。
事業作成の経験は全くなかったので、自分一人ではすぐに行き詰まっていたと思います。講師や同期生から刺激を受け、共に学ぶことができるという点でも、とても貴重な半年間の講座でした。
4.就農へのステップ② 農家研修を受講
コトモ上級者コースと並行して、農地を借りて農業を始めるための資格を得るために、えと菜園で 1 年間の農家研修を受講しました。
この農家研修では、自分が目指す農園を実現させるための「農業経営者としての心構え」を 学びました。
上級者コースをより発展させたような内容となりますが、農作業について手取り足取り教えてもらうことはありません。いかにして自分自身の事業を継続させるか、自ら考え、主体的に学ぶ姿勢が求められました。
具体的には、体験農園での顧客対応・圃場管理・農作物の出荷・就農計画書作成・自らの事 業プランのブラッシュアップ等を実施しました。
この日にこの仕事をする、という決まった流れはないので、常に農園の状況を把握して、優先度の高い業務を見つけ出す必要がありました。
これまではサラリーマンとして雇われて、毎月一定額の給料を受け取る立場でした。
自営業ではどれだけ自分が頑張っても、成果として利益を生み出されなければ生活することはできません。自分の仕事に誰かが責任を取ってくれるわけではないので、これまでの意識を 180 度変える必要がありました。
また研修期間中は常々、販売の重要性について教わりました。いくら品質の優れた作物を育てていても、それを買ってくれる人がいなければ事業を継続することは難しいと思います。
研修を受けるまでは、栽培品目や販売方法など大まかな道筋はあるものの、そこに辿り着く ための具体的な生産計画、販売戦略を絞り切れていませんでした。
どこで・誰に・何を・いくらで・どのように販売するのか。自分が勝負するべき場所を冷静に見極めた上で、必要な資本を投入する重要性を学びました。
5.「いけはら農園」~地域に溶け込み、長く続く農家を目指して
2024 年 4 月より、「いけはら農園」として正式に座間市で新規就農しました。現在は年間 50 品目ほどの野菜を生産し、地域の直売所やマルシェを中心に販売しています。
自分自身の農園を一から作り上げていくことになります。先の見通しは正直わかりませんが、とてもワクワクした気持ちでいます。
私の農園では、大切にしたいことが二つあります。
一つは生産者と消費者がお互いのことをよく把握していて、この人から買いたいと思って もらえるような関係づくりです。
そのために極力、自分で作ったものを直接お客様にお届けする販売方法を模索しています。 単に作物を売買するだけでなく、農園を起点として地域内で関係性が繋がっていくように、 ご縁を大切にしていきたいと考えています。
もう一つは、地域のお客様が気軽に足を運べる農園になる事です。
畑での野菜づくりや収穫・加工体験など様々なイベントを通じて、農業という仕事の魅力を 直接発信したいと思っています。
特に小学生・中学生といった若い世代に対して、畑で過ごす時間が原体験となり、農家という職業が将来の選択肢の一つになればとても嬉しいです。
改めて振り返ると、就農への道のりは思いがけないものでした。実際に畑に飛び込んでみて、 自然の中で作物と向き合い、命の源となる食を作り出すことに魅力を感じて、農業の担い手を志しました。
農業は体力的にも経済的にも大変だと言われることが多いですが、それらの苦労を超える だけの喜びがあると確信しています。
もちろん、理想の農園を実現させるためには、一定以上の売上・利益を確保して生計を立てる必要があります。
私自身、就農したい旨を周囲に打ち明ける時は、経済的な理由から反対されると覚悟していました。
しかし現実は、妻や両親をはじめ反対の声は一切なく、多くの方に応援していただきました。 この場を借りてお礼申し上げます。
就農までの道筋を作っていただいたこれまでの職場・研修先や、助けていただいた方たちの想いに応えられるように、農業の収入だけで生計を立てることが大きな目標です。
農業を一生の仕事にすると決意してよかったと、将来胸を張って言えるように頑張ります。
6.いけはら農園の野菜が購入できるお店
わくわく広場 中央林間東急スクエア店 に出荷しています
農園の最新情報を Instagram で発信しています
https://www.instagram.com/ikehara_farm/