セラピストが見る「食べる」という世界〜認知期〜
「食べる」という事。
不思議に感じたことはありませんか?
私は子どものころから、食べ物をお口に入れてからごっくんするまでの仕組みが気になって仕方ありませんでした。
「食べ物はどうやってお口の中から消えているのだろう」そんなことを考えながら咀嚼していました。大人になり、この疑問がすっきりと晴れる日が来るとは思いもよらず…!
人間の体の不思議と仕組みを知ったのは言語聴覚士になる勉強を始めてからでした。
このお話は、ちょっとマニアックだけど、皆さんに知っておいてもらいたい「食べる」のお話。
1.食べる5つの流れ
おいしそうなご飯に出会うとよだれが出ちゃいますよね。
私たちが食べ物を前にすると今までの食体験が思い起こされて自然とその味を想像して幸せな気持ちになってしまいます。この「よだれがでちゃう」という感覚は誰もが体験していることでしょう。この感覚は、食べる行為にとても大切な要素の一つになっています。
ご飯を食べることを5つに分けて考えるという論理があります。私たちはそれを「摂食の5期モデル」と呼んでいます。
1.先行期(認知期・にんちき)
2.準備期(咀嚼期・そしゃくき)
3.口腔期(こううくき)
4.咽頭期(いんとうき)
5.食道期(しょくどうき)
食べると言っても、こんなにもたくさんの工程に分けられるのです。
各期をさらに細かく分解してミクロの視点で考えるととっても面白いのですが、今日はこの中でも、①認知期について語ります。
2.「おいしそう!」を捉える視点
認知期とは、食べ物がお口の中に入るまでの期間を言います。つまり私たちが「おいしそう!」と食べ物を感じてからどんな風にそれを認識していくのか?の期間です。
関西人はたこ焼きが好きです。たこ焼きを見ると、いてもたってもいられなくなるのではないでしょうか?そしてこんなことを考えます。
「このたこ焼き、外はカリカリなんやろな」「このたこ焼き、噛んだらとっろっとろやねんで」「でもめっちゃ熱いから気を付けやなあかんな」「マヨネーズとソースのコラボがたまらんねん!」「つまようじで刺したら落ちよるから、さっと口に入れなあかんな」「このたこ焼き、特大やからめっちゃ口開けな、口に入らんやん!」「かつおぶしのええ匂いしとるわ」「夏祭りの屋台思い出すな」「あーーーもーーーたまらん!お腹鳴るやん!よだれ出るやん!はよ食べよ!!」これを一瞬にして判断するのが関西人です。
関西人はたこ焼きに対して非常に繊細な認知力を持っています。これは文化と習慣の違いでもあります。アフリカの人がこの「たこやき」という食べ物をみても、ここまでの想像はしませんよね?
こんな風に文化や習慣で個性を発揮するのもこの認知期の特徴です。
食べ物を見て「これは食べ物である」と認知し、物性(外はカリカリ中はふわとろ)を感じ、咀嚼した時の固さをイメージする。
味の予測をつけ(マヨとソースのコラボ感)そのものをどういう食具で(この場合はつまようじ)食べるのがいいのかを考える。食具を口に運ぶまでのイメージをもつ。そして食べる速さを考慮して、口腔内に取り込む際の口の構えを作っていきます。
こうして食物を認知することで胃液が分泌され体が食べ物を受け取る準備を始めます。唾液も同様に出てくるのです。
脳に何らかの障害が及ぶとこのように食べ物を認知していく過程が障害されることがあります。この状態を[先行期障害]とよんでいます。
生後5ヶ月位の赤ちゃんがヨダレを出して食べ物を見はじめるとき、赤ちゃんは「お母さん達が何か食べているぞ。あの幸せそうなお顔。きっと素晴らしい食べ物に違いない」
と、ここまで感じているかは別にして…
「お口に入れたいなー」と想起されていることは確かです。そうなると、さぁ、食べるという世界の幕開けです。
3.食べる事は感性だ
ここで私が何を伝えたかったのかと言うと、美味しそう!という当たり前の感覚を「当たり前」だと感じるのではなく私達に備えられた豊かな感性の一部であると捉えたいなという事なのです。
幼稚園のお弁当に一生懸命キャラ弁を作ってくれるお母さん。大好きなおかずを敷き詰めてくれるお母さん。お誕生日の日にはかわいいケーキを準備してくれるお母さん。どれも「美味しそう」を引き出してこの食体験を豊かに生きようとする母なる愛です。
\毎日盛り付けやキャラ弁にそんな時間はかけられないよ!/
というお母さん。
大丈夫です。見た目だけではありません。笑顔で顔をあわせながら「美味しいね。」「おいしいよ」このやり取りだけで食体験は豊かになり、こども達の記憶に楽しかった体験として残り、明日の食への意欲となります。その積み重ねが食べるの初めの第一期「認知期」を支えます。
4.認知期にスペシャルニーズの必要な子もいる
自閉症スペクトラムのお子さんの中には、この認知期がとても過敏な子もいます。
注※様々なパターン、認知期以外の原因もありますのであくまでも一例として捉えてくださいね。
例えば見た目の鮮やかな色合いが苦手。白い食べ物しか食べたくない。素材が色々と混ざっているだけで食べれない。緑色は全部イヤだな。あつそうなものは苦手。全部冷たくしてほしい。逆に冷めてるとイヤだよ。匂いが受け付けられない。お母さんが作ったもの以外は食べれないよ。ふわふわのぱんじゃなきゃイヤだ。などなど、などなど。その個性の数だけ敏感に察知してしまいます。
更に、言葉を持たない年齢の子だと、食べ物を前にするとひたすら泣いてしまう。逃げてしまう。といった拒否の姿で表現するしかない子もいます。中には「このお茶碗じゃ嫌だ!」と、食具へのこだわりだったりもします。だから、少しだけお願いです。このような場面に出会う事があれば「わがまま」ととらえず「何かスペシャルなニーズがあるんだな」と考えてみてください。その周囲の理解が、お母さんとこども達を救う事もあるのです。
5.食を支えるセラピストの役割
私たちセラピスト(言語聴覚士)は、その子のどこに原因があるのかな?をご本人とご家族と一緒に探ります。そしてより良い食生活のために、サポートをさせていただいています。
食べることは生きること。さまざまな形で食に関わる人達がいる中で、人間の食の「行動」を分析して捉えてサポートしていく職種があると言うことも、知ってもらえたら嬉しいです。
1日3食+おやつ
1年で1460食も食べる私たち!!
1年で1460回続けられる事ってなかなかないですよね。人生100年としたら…単純に計算しても
14万6000食!!14万回の[幸せ]に出会えますように。
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