わたしとこどもとクリープハイプ


2017年春、クリープハイプの会員限定ツアー秘宝館~満開栗の花~がやっていた頃。私のお腹には赤ちゃんがいた。

悪阻真っ只中で、行けないかも、行けても最後まで観られないかもと思っていたら、その日のライブが2ヶ月延期になった。

延期になった日は安定期に入る日で、安産祈願に行ったその足で、ライブに行った。悪阻はおさまっていた。ライブ中に迷惑をかけることだけは避けたくて、すぐに出られるように出口のすぐそばで観た。

クリープハイプの歌の中で、何が一番好き?と聞かれたら、私は風にふかれてとイノチミジカシコイセヨオトメと答える。クリープハイプの歌は本当に良い曲ばかりで、どの曲にも思い出があるし、好きだ。でも、この二曲は私にとって特別中の特別だ。

あの日、風にふかれてのイントロが流れてきた瞬間、涙がポロポロ出てきて、自分でも驚くほど泣いた。

そして曲を聴きながら、もうライブには来られなくなるかもしれないけど、今日が最後になっても大丈夫な気がする。これからはこの子のために生きる、と思った。そう言ってる自分に酔っているわけではなく、本当にそう思ったことを覚えている。

その日のライブは、間違いなく最高のライブだった。セットリストもすごく好きで、特に風にふかれて、ただ、ねがいり、君の部屋のところ(途中に尾崎さんが話したことも含めて)で感極まった。アンコールのあと、もう一曲やります、何がいいですか?と尾崎さんが客席に向かって聞いてくれたのも嬉しかった。

その日のライブの余韻と一緒に過ごして、私は母になった。

陣痛は長く、難産だった。産後もトラブル続きで(主に私の体)、息子は寝るのがとてつもなく下手っぴな赤ちゃんだった。保育士として7年以上働いていて、その経験が活きると思っていたのに、育児は想像よりもはるかに大変だった。

夜中に泣いて、授乳したあとも抱っこして歩き回らないと寝なくて、寝てもすぐに泣いて起きて、寝られない現実が辛くて、でも頑張らないといけなくて、毎日ボーイズENDガールズを歌いながら部屋中を歩き回った。歌っていると少し気持ちが落ち着いた。そうやって、どうにか乗り越えた夜がたくさんあった。

寝不足でイライラしがちで、夫ともあまりうまくいかなくなった。言いたいことは沢山あるのにうまく言葉にできなくて、甘えることも出来なくて、夜中授乳と授乳の間の、寝ないといけないのに眠れない時間に、言わなくても伝わると思ってたよと転校生を聴きながら、素直になりたいとよく思っていた。

月日が流れて少しずつ落ち着いてきても、息子は私じゃないとダメなことばかりで、しばらくライブには行けなかった。あの日確かにもうライブに行けなくなっても大丈夫、と思ったはずなのに、大丈夫ではなかった。行きたいと願う自分がいた。でも、行けなくっても、行けた日の思い出があったから、頑張れた。

武道館の日はラブホテルTシャツを着て2014年の武道館のライブ映像を観た。今からすごく話をしよう、懐かしい曲も歌うからツアー(この頃はまだ全然落ち着いてなかった)と、今今ここに君とあたしツアーも行けなかったけれど、寝癖が出た頃に、ちょっと私に似ていてクリープハイプを好きになるんじゃないかなと思って薦めた職場の後輩が本当に好きになってくれて、そのツアーにも行っていて、感想を送ってくれた。嬉しかった。

ライブには行けなかったけれど、歌はいつも一緒に居てくれた。

つづく

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