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カノジョ~求める男~
~求める男・マコト~
とある公園
マコト「俺たちってさ、他から見たら、恋人同士に見
えるのかな?」
美咲 「うん、見えると思うよ、きっと。どうして?」
マコト「そっかぁ・・・いや、何となく。不自然じゃ無 いかなと思って」
美咲 「むしろお似合いのカップルに見えてるはずだよ!あ、そうだ! 一緒に写メ撮ろう」
笑顔の美咲。
パシャと写メを撮る音がする。
笑顔の二人の写真がスマホの中に保存される。
ーマコトの部屋ー
デートの準備をしているマコト。
髪をセットしたり、服を選んだり、鏡を見ながら歯磨きしている。
僕には月に1回、仕事を頑張った自分へのご褒美としての楽しみがある。
彼女は過去に1度だけできたことがある。
今までマッチングアプリもやったりもしたけど、すっぽかされたり、写真と全然違ったり、奢らされて終わりだったり。
そんな時、たまたまテレビのドキュメンタリーでプロのデートサービスがある事を知って、プロに頼むことにした。
とあるベンチ。
ベンチに座っているマコト。そわそわしている。
スマホのカメラで顔のチェック。
マコト「あ、美咲さんからだ」
スマホを見る。
「もうすぐ会えるね。楽しみにてるね♪」の文字。
思わずにやけて、遠い目でメッセージを噛み締めるマコト。
(この会う前のメッセージもたまらないんだよ
なぁ・・・)
メッセージに返信しているマコト。
1時間8千円。3時間。交通費に3千円、食事代に大体5千円から高くて1万円くらい。大体4万円以内に収まるようにしている。 今は派遣で倉庫作業をしている。
給料月18万円。
もちろん結婚はしていない。出会いもない。
デートはプロの方が断然良いということを知った。
サービスもちゃんとしているし、幸せな気分で喧嘩も嫌な嫉妬や面倒な束縛もない。
そして、給料日の次の日の今日、26日。
毎月この日を楽しみにしている。
待ち合わせ場所
そこへ美咲がやってくる。
美咲 「あ、マコトくん、お待たせ!」
マコト「美咲さん!」
と立ち上がり、手を振るマコト。
手を振ったことに恥ずかしくなりすぐにしまう。
美咲が手を振り返しながら歩いてくる。
世間では若くて可愛い子が一般的な好みだろう。
でも、俺は敢えての歳上。日々の疲れから、癒しを求めている。
指名は一番最初からずっと変わらずいつも美咲さんだ。
いつも包み込んでくれる、日々の疲れが癒されていく。
大人だけど、どこかピュアな部分が見えるところがあるのも好きだ。
美咲 「もしかして、待たせちゃった? ごめんね」
マコト「いや! 俺が早く来すぎただけだから」
美咲 「良かった。久しぶりだね。連絡ありがとう」
マコト「こちらこそ、ありがとう。あ、これプレゼント」
プレゼントを渡すマコト。
美咲 「え? 前ももらったのにいいの?」
マコト「うん、美咲さんに似合いそうだったから」
プレゼントの箱を見る美咲。そこにはネックレスが。
こうやっていつも見栄を張ってしまう。
この笑顔を見るために・・・。プレゼント代に1万円。
美咲 「ありがとう! 可愛い! ありがとう! どう? 似合う?」
と、ネックレスを合わせてマコトに見せる美咲。
マコト「・・・」
美咲を見つめるマコト。
俺はこの笑顔で喜んでる瞬間が一番好きだ。
美咲 「えっと、今日はここからどこかに行くの?」
マコト「今日はただ海を見ながら散歩したくて。ごめんね、おしゃれなレストランとかが良かったかもしれないけど・・・・」
美咲 「全然! 私も散歩好きだよ。じゃあ、はい」
手を差し出す美咲。
マコト「あ、うん…」
手を繋ぐマコト。
仕事なのはわかっている。でもこれは最高に幸せだ。
恋人繋ぎ。1時間8千円の価値がある。
美咲 「最近はお仕事はどう?」
マコト「まぁ。順調だよ。可もなく不可もなく」
美咲 「マコトくん、IT企業ならモテそうなのになぁ」
俺は嘘をついている。最初に会った時にカッコつけて、仕事は何してるの?と聞かれて、響きがいいからIT企業に勤めてると見栄を張ってしまった。
マコト「全然、忙しいから、出会いがなくてさ」
美咲 「そうなんだぁ。でもそんな貴重な時間を使って会ってくれてありがとね」
マコト「・・・いや、いつも仕事ばかりで疲れちゃってさ、他にお金使う時間もないから」
嘘だ。本当は毎日長時間働いて、必死にお金貯めている。
美咲「えらいね。いつもお仕事お疲れ様」
頭を撫でる美咲。見つめ合っている美咲とマコト。
照れるマコト。
美咲さんは本当に理想的な恋人だ。これが本当なら幸せなのに。目と目が合う時、このまま時間が止まればいいのにと思う瞬間だ。この笑顔が自分だけのものだったらいいのにと思う。
海岸沿いを歩く二人。
美咲 「ねぇ、そろそろ食べようか? ちゃんと約束通り手作りのお菓子だけど用意してきたよ。美味しいかわからないけど。どこかで食べない?」
マコト「マジで? ありがとう、嬉しい! 食べたい!」
美咲 「じゃあ、どこかで休もうか」
毎日、誰かの彼女をしていることはわかっている。
なぜこの仕事をしているのかは聞いたことがないけど、きっと理由があるんだろう。でも、理由は一度も聞いたことがない。
ベンチに座る二人。
実は今月お金がなくて「美咲さんの手作りのものが食べてみたいです」とメールで依頼をした。
美咲 「じゃーん! はい、どうぞ!」
あーんをさせようとする美咲。
マコト「いやいや、大丈夫だよ、大人なんだから自分で食べれるよ」
美咲 「そっか!…じゃあ、召し上がれ!」
照れるマコトとどこか残念そうな美咲。
1時間8千円。今のやっとけば良かった。
損したか、俺。やるべきだったのか・・・。
マコト「うまい! これ全部作ってくれたの?」
美咲 「うん。ちょっとマコトくんのために頑張ってみた」
美咲の笑顔を見つめるマコト。
営業トークだってわかってる。
でも、嬉しいものは嬉しい。
マコト「俺たちってさ、他から見たら、恋人同士に見えるのかな?」
美咲 「うん、見えてると思うよ、きっと。どうして?」
マコト「そっかぁ・・・いや、何となく。不自然じゃ無いかなと思って」
美咲 「全然! むしろお似合いのカップルに見えてるはずだよ! あ、そうだ! 一緒に写メ撮ろう」
あぁ。まぁ、いっか。いつもこの笑顔で、全部許されてしまうと心の中で思うマコト。
美咲 「はい ! 3、2、1!あ、エアドロするね!」
恋人同士のような二人の写真が写っている。
手を繋いで海辺を歩く。楽しそうなマコトと美咲。
やっぱり癒される。この時間のために毎日頑張れる。何よりもこの笑顔のために。もっと会いたくなる。でも、虚しくも時間は早く過ぎていく。
美咲 「あ、もうこんな時間だ。時間って早いね・・・そろそろ時間だね」
マコト「あ、そうだね。今日はありがとう」
美咲 「ううん、こちらこそ、楽しかったね。次もまた会える?」
マコト「あ、うん ! もちろん。また予約するね」
美咲 「ありがとう! 嬉しい! 楽しみにしてるね!」
マコト「あ、じゃあこれ」
封筒を美咲へ渡すマコト。
この瞬間が現実に引き戻される時間だ。
今日のレンタル代。
3時間分のお金。俺の約3日分の給料…。
美咲 「いつもありがとう。今日も楽しかったね。絶対また会おうね。メールもするね」
マコト「うん。また忙しいから来月になっちゃうど・・・」
美咲 「うん、全然大丈夫だよ。忙しいんだから。
お仕事無理しすぎちゃだめだよ。頑張ってね!」
マコト「うん」
美咲 「じゃあ、駅近くまで一緒に行こう」
駅まで歩くときも手を繋ぐ。これは最後のサービスだ。わかってる。後少しだけしっかり感触を感じておこう。駅の方まであと10分。 1ヶ月楽しみにしていた時間がもうすぐ終わる。
手を繋いで歩く二人。
美咲 「着いた! じゃあ、私はここで。じゃぁまたね。 次、会える日楽しみにしてるね。マコトくんも気を付けて帰ってね。お家着いたら連絡してね!」
手を振る美咲。
マコト「今日もありがとう。じゃあ、また」
マコトも手を振る。
恋人同士なら、ここでハグとかキスとかするんだろうか…。
美咲が見えなくなるまで見つめているマコト。
帰りながら美咲からのメールを見ているマコト。
「今日はありがとう。海、綺麗だったね。また会える日まで楽しみにしてるね ! プレゼントも本当にありがとう! 次会うときにつけていくね!」のメール。
「また、美咲さんと会える日まで頑張るね。今日はありがとう」と送信。ため息をつくマコト。
財布の中を見る。そこには千円札が4枚。ため息をつくマコト。
マコト「また、貯金しないとな・・・何やってんだ俺・・・プレゼント奮発しちゃったよ。でも、喜んでくれたからいいか・・・」
きっとまた会いたくなる。それの繰り返しだろうな。
一緒に撮った写メを見て、微笑むマコト。
周りの道ゆく人をぼーっと見つめてまたため息をつく。
そして、また明日からつまらない毎日が始まる。
月に1回だけじゃ足りない。
もっと会いたくなってしまう。
彼女ができたら、美咲さんを忘れることができるのだろうか。
みんなはどうやって、恋愛を始めているのだろう…
マコト電車方面へと歩き出す。
END