![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/160751880/rectangle_large_type_2_e8882a313f88f84a9c79fcf30431356d.jpg?width=1200)
カノジョ~与える女~
とある公園
マコト「俺たちってさ、他から見たら、恋人同士に見
えるのかな?」
美咲 「うん、見えると思うよ、きっと。どうして?」
マコト「そっかぁ・・・いや、何となく。不自然じゃ無いかなと思って」
美咲 「むしろお似合いのカップルに見えてるはずだよ!
あ、そうだ! 一緒に写メ撮ろう」
笑顔の美咲。
美咲の部屋
デートの準備をしている美咲。
鏡を見ながらメイクをしている。ワンピースをいくつか鏡で合わせながら悩みつつ、着替えていく。
今日はデートの日。デートの時は服選びや、メイクの濃さもその時に応じて変えるのが大事。デートで会う人によって自分を変えるのが私の仕事。
美咲「あぁ・・これかなぁ。なんか違うな・・」
私は日によって色んな人の彼女になる。レンタル彼女。時には可愛らしく、時にはセクシーに。
困った時には清楚系がベスト。
美咲「よし、これでいこう」
日によっては1日に2、3回をデートをする日もある。
お菓子を作り、箱に詰めていく。
今日は「美咲さんの手作りのものが食べてみたいです」とメールで依頼がきた。
着替え終わってメールを見ている美咲。
美咲「お菓子作りなんて何年振りだろう」
少し面倒だったけど、これもお金のため。
4年前に給料が良かったから、なんとなく応募したのがきっかけでこの仕事をすることになった。
普通の仕事は私には向いていない。
一度、社会に出て働いたけど、1年も続かなかった。その私が4年も続くなんて初めてだ。
美咲「とりあえず、綺麗に並べておけばいいか・・」
この年齢で普通に社会に馴染めずこの仕事を続けている。
浪費癖が直らなくて、貯金も無くなり、ローン返済だけが残った。今はそれを返す為に精一杯だ。
とある待ち合わせ場所
ベンチに座っているマコト。そわそわしている。
スマホのカメラで顔のチェックしている。
今日の彼は清楚系が好きだ。いつも月に1回だけ会う。決まって毎月26日に。
◯とある道
美咲「あ、会う前にメールしとかないと」
このデート前のメールも大事な仕事の一つ。会うまでの時間を待ち遠しくさせることができる。
送信して「よし」とスマホをしまい待ち合わせ場所に向かう美咲。
メールをするとしないだけでリピート率が全然違う。ちゃんと次に繋げていかないと・・・
◯待ち合わせ場所
マコト「あ、美咲さんからだ」
スマホを見る。
「もうすぐ会えるね。楽しみにてるね♪」の文字。
思わずにやけて、遠い目でメッセージを噛み締めるマコト。
1時間8千円。交通費に3千円、食事代は向こうが払ってくれる。大体のお客様は3時間くらいが平均。
その6割が私の給料になる。
中にはテーマパークとのデートで長時間頼んでくれる人もいる。短い人は2時間でご飯だけ。そういう日は、その後に違う人ともデートを掛け持ちする。
メッセージに返信しているマコト
今日のマコトくんはその中でもいつも優しいお客様。変なことも言ってこないし、面倒な色恋もしてこない。
とある待ち合わせ場所
美咲がやってくる。
美咲 「あ、マコトくん、お待たせ!」
立ち上がり手を振るマコト。
マコト「美咲さん!」
手を振ったことに恥ずかしくなりすぐにしまう。
美咲が手を振り返しながら歩いてくる。
マコトくんは、最初からずっと私を指名してくれた大事なお客様。長時間は頼まれないけど、月に一度必ず26日に予約をしてくれている。
美咲 「もしかして、待たせちゃった? ごめんね」
マコト「いや! 俺が早く来すぎただけだから」
美咲 「良かった。久しぶりだね。連絡ありがとう」
マコト「こちらこそ、ありがとう。あ、これプレゼント」
プレゼントを渡すマコト。
美咲 「え? 前ももらったのにいいの?」
マコト「うん、美咲さんに似合いそうだったから」
プレゼントの箱を見る美咲。
毎回プレゼント・・・嬉しいけど、会う度につけていかなきゃいけなくなる。捨てることはできないし、どんどん家に溜まっていく。家にはお客様別にわかるようにちゃんと分けて保存してある。それも、みんなの理想の彼女「美咲」という人物を演じるために・・・
こういう時は最高の笑顔で返すのが最高のお返しだ。
美咲 「ありがとう! 可愛い! ありがとう! どう? 似合う?」
ネックレスをあててマコトに見せる美咲。
マコト「似合ってる・・・」
美咲を見つめるマコト。
マコトくんすごく嬉しそう。次、会う時も忘れずに付けてこないと。
でも、こうやって尽くされることがきっと女の喜びなんだよな。普通のカップルなら…
美咲 「今日はここからどこかに行くの?」
マコト「今日はただ海を見ながら散歩したくて。ごめんね、おしゃれなレストランとかが良かったかもしれないけど・・・・」
美咲 「全然! 私も散歩好きだよ。じゃあ、はい」
手を差し出す美咲。
マコト「あ、うん」
戸惑いながらも手を繋ぐマコト。
大事なお仕事の一つ。恋人繋ぎ。今の私はあなたの彼女だから…。
正直、手を繋ぐことに抵抗がある人もいる。最初、まわりの人の目が気になっていた。明らかに付き合っていないだろう相手との恋人繋ぎ。ジロジロ見られて嫌だった。
美咲 「最近はお仕事はどう?」
マコト「まぁ。順調だよ。可もなく不可もなく」
美咲 「マコトくん、IT企業ならモテそうなのになぁ」
IT企業っていうのは違うのはなんとなくわかっている。この歳にもなると勘でなんとなくわかってしまうものだ。
マコト「全然、忙しいから、出会いがなくてさ」
美咲 「そうなんだぁ。でもそんな貴重な時間を使って会ってくれてありがとね」
一生懸命働いているんだろうなっていうのが、マコトくんから滲み出てるから、それ以上私は、何も聞かない。
マコト「・・・いや、いつも仕事ばかりで疲れちゃってさ、他にお金使う時間もないから」
マコトくんは嘘つくの下手だ。そこが可愛い。
中には自慢話ばかりしてくる人もいる。ずっと会社の愚痴の人もいる。そんな時は笑顔で聞いてるけど、心ではうんざりすることもある。
美咲「えらいね。いつもお仕事お疲れ様」
頭を撫でる美咲。見つめ合っている美咲とマコト。
最初の頃は、何時間も手を繋がないといけない、いつも笑顔で楽しくしていないといけないことがしんどかった。
でも仕事だから、お金のためと思ったら人目も気にならなくなった。今では楽しいとさえ感じてる。
頭を撫でながらマコトを見つめてる美咲。
海岸沿いを歩く二人。
美咲 「ねぇ、そろそろ食べようか? ちゃんと約束通り手作りのお菓子だけど用意してきたよ。美味しいかわからないけど。どこかで食べない?」
マコト「マジで? ありがとう、嬉しい! 食べたい!」
美咲 「じゃあ、どこかで休もうか」
いつも誰かの彼女だから当然、今は彼氏はいない。
今までモテなかったわけではないけど、好きな素振り、でも付き合うこともなく、こっちが本気になれば、離れていく。曖昧な関係ばかりに疲れてしまった。
ベンチに座る二人。
美咲 「じゃーん! はい、どうぞ!」
あーんをさせようとする美咲。
マコト「いやいや、大丈夫だよ、大人なんだから自分で食べれるよ」
照れているマコト。
美咲 「そっか!…じゃあ、召し上がれ!」
普通こういうのが嬉しいのに。今日はダメだったか。
マコト「うまい! これ全部作ってくれたの?」
美咲 「うん。ちょっとマコトくんのために頑張ってみた」
普段、料理全然しないから・・・大丈夫だったかな・・・喜んでくれてるから良いか・・。
マコト「俺たちってさ、他から見たら、恋人同士に見えるのかな?」
美咲 「うん、見えてると思うよ、きっと。どうして?」
マコト「そっかぁ・・・いや、何となく。不自然じゃ無いかなと思って」
美咲 「全然! むしろお似合いのカップルに見えてるはずだよ! あ、そうだ! 一緒に写メ撮ろう」
美咲に見とれているマコト。
美咲 「はい ! 3、2、1!エアドロするね!」
そこには幸せそうな笑顔の二人が写真に写っている。
海岸沿いを手を繋いで歩き、楽しそうな二人。
マコトくんは変なことも言わないし、いつも楽しそうにしてくれるし。嫌な顔もしない。
たまに、気が利かないなぁって怒るお客さんもいる。
怒られるのは苦手。それが、親元を離れた原因の一つだから。
道を歩く二人。
今日は久しぶりにたくさん歩いたから疲れた。
あ、そろそろ時間か・・・帰らないと。次のお客さんの時間だ。
美咲 「あ、もうこんな時間だ。時間って早いね・・・そろそろ時間だね」
マコト「あ、そうだね。今日はありがとう」
美咲 「ううん、こちらこそ、楽しかったね。次もまた会える?」
マコト「あ、うん ! もちろん。また予約するね」
美咲 「ありがとう! 嬉しい! 楽しみにしてるね!」
マコト「あ、じゃあこれ」
と、封筒を渡すマコト。
この一瞬が、現実に戻る時間。今日のレンタル代。
その日の私の頑張ったお給料という名のご褒美。
美咲 「いつもありがとう。今日も楽しかったね。絶対また会おうね。メールもするね」
マコト「うん。また忙しいから来月になっちゃうど・・・」
美咲 「うん、全然大丈夫だよ。忙しいんだから。お仕事無理しすぎちゃだめだよ。頑張ってね!」
マコト「うん」
美咲 「じゃあ、駅近くまで一緒に行こう」
駅まで歩くときも手を繋ぐ。これは最後のサービス。
また会いたいと思ってもらうために。次に繋げるための最後の仕事。駅の方まであと10分…
駅前に到着する二人。
美咲 「着いた! じゃあ、私はここで。じゃぁまたね。 次、会える日楽しみにしてるね。マコトくんも気を付けて帰ってね。お家着いたら連絡してね!」
マコト「今日もありがとう。じゃあ、また」
笑顔で手を振る美咲と少し寂しそうなマコト。
最後まで笑顔は欠かさない。見えなくなるまで美咲を演じ切る。そこはレンタル彼女としてのプロ意識。
全ては生きてくため。
マコトが見えなくなるまで手を振る美咲。
◯帰り道
帰りながらメールを書いてる美咲「今日はありがとう。海、綺麗だったね。また会える日まで楽しみにしているね ! プレゼントも本当にありがとう! 次会うときにつけていくね!」のメールを送信する。
すぐに返信が来てメールを見る美咲。
「また、美咲さんと会える日まで頑張るね。今日はありがとう」の文字。少し微笑んでスマホをバッグにしまう。
美咲「よし、今日の一つ目、お疲れ様。疲れたぁ。次のデートに行かないと」
ため息をつく美咲。
また次は違う人の彼女。それの繰り返し。
今、稼ぐために精一杯、毎日色んな人とデートを重ねていく。
ふと、今日マコトと一緒に撮った写メを見て、微笑む。
周りの道ゆく人をぼーっと見つめてまたため息をつく。
みんなはどうやって、好きになって付き合ってるんだろう・・・
毎日、誰かの彼女。私を本物の彼女にしてくれる人はこの世にいるのだろうか。
同じ歳の友達たちは次々結婚、出産していく中、これからも私は美咲として生きていく。
次のデートに向かい歩き出す美咲。
END