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畜産の中で感じる葛藤。答えが出ない問いがあってもいい | サイボクファーム 笹﨑浩一 × COTEN

株式会社COTENの挑戦を応援してくださる、法人COTEN CREW企業の皆様をご紹介します。
COTENを通じて人文知に投資することを決めた彼ら。
日頃、どのような問題意識を持って活動されているのでしょうか。

今回は、株式会社サイボクファーム 代表の笹﨑浩一さんです。

※COTENには、メンバー同士がフラットに「タメ語」で話す文化があります。その空気感をお伝えするため、今回のインタビューはタメ語&ニックネームで実施し、記事もそのままお届けします。

笹﨑 浩一(ささざき こういち)
(株)サイボクファーム 代表。
1982年宮城県生まれ、埼玉県育ち。豚の品種改良という最上流工程から、小売りという最下流工程まで一気通貫して自ら行う豚のテーマパーク「ミートピア」をコンセプトとし、六次産業を展開する。
「頂いた命を活かす」そして「自分の家族に食べさせたいものを作る」という思いで、100年企業を目指して邁進中。


イギリスで音楽活動をしていたあの頃

COTENインタビュアー(以下、ーー):まずはサイボクファームに入るまでの話を聞かせてもらってもいいかな。

笹﨑浩一(以下、こういち):16歳の時にあるバンドにオーディションで加入してライブ4回目でCDリリースのオファーが来たっていうのが、僕の音楽人生の第1歩。そこからはずっと音楽ばかり。そのバンドは19歳の時に解散してしまったんだけど、その次に加入したバンドは日本ツアーのみならず世界ツアーも行うバンドで、さらに音楽にのめり込んでいった。

ーーじゃあ、もう16歳から、音楽人生なんじゃない? 学校とかも行かなかった?

こういち:高校へ通いながら音楽をやってた。卒業はぎりぎりだったけど。並行して作曲も始めてバンド以外にも、アーティストのリミックス、アパレルブランドのBGMの作曲、映画音楽の制作もやってた。しだいにバンド活動は服や髪型の制限や、使用する機材のメーカーの指定といったスポンサーの縛りが多くなって窮屈さを感じることのほうが多くなってしまった。23歳の時にバンドをやめてからは本当に自分のやりたいことをやるっていう方向に振り切って、いっそう個人の作曲活動にシフトしていった。

ーーすごいね。

こういち:23歳からはお金を貯めて、技術を身につけるために3年間は働くって決めて他の仕事をしながら作曲をしていた。それから仕事をやめてイギリスに行ったっていう。

東日本大震災がきっかけで、サイボクファームヘ戻る

ーーイギリスに音楽をしに行って、どういうきっかけでサイボクファームに入ったの?

こういち: 2011年3月11日に東日本大震災が起きて、サイボクの牧場のひとつが宮城県にあったから被災をしてしまった。そこで「帰ってきてほしい」という連絡があった。この災厄によって日本に思いがすごく傾き、就農を決意して帰ってきたという感じ。

ーー震災の時のサイボクファームってどんな感じだったの?

こういち:僕は4月1日に宮城の現場に入ったのだけれど、まだ電気や水道も止まっている状態だった。豚に餌をやるのは、自動給餌器(じどうきゅうじき)という電気の力で餌を行きわたる仕組みがあったりするんだけど、それらをはじめとしてすべての農作業を人力でやらなきゃいけなかった。スタッフたちも同じく被災しているから、家の中がめちゃくちゃになって大変なのに豚のために牧場に来てくれていた。みんなで協力し合って働く中で、僕もこの人たちの役に立ちたいなって思いが強くなった経験だった。間違いなく厄災ではあったのだけれど、このチームの一員として一緒に働けたという意味ではすごく貴重で、幸福な体験だったと思ってる。

ーーファームの経営よりまず先に、メンバーと力を合わせての作業が幸福な原体験になっていたりする話を聞いて、何を大切に運営してるのかっていうところが他のファームとは違うんじゃないかな?と想像した。その点は言語化されてたりするのかな。

こういち:そうかもしれない。まず創業者のDNAとして今も脈々と続いているのが「豚の気持ちになりなさい」というメッセージ。これはしっかりと豚を観察して、豚が何を望んでいるか、わかるような飼育者になりなさいということ。こうした言葉はもちろん、スタッフの振る舞いを見ていると豚に対する愛情が深い会社だと僕は思ってる。

ーーなるほど。具体的に聞きたいな。

こういち:例えば、出来立てのご飯は美味しいでしょう?それは豚も同じだと僕らは考えているから豚専用の自家配合飼料をつくるため、飼料工場を牧場のすぐ側に建てたり。あるいは発育のよくない豚がいればちゃんと手をかけてあげて、可能な限り淘汰せずに育てあげるとか。いずれも経済合理性から離れた振る舞いになるからバランスは難しいのだけれど. . .でもそういうところが僕にとってのサイボクの魅力のひとつであることは間違いない。

ーービジネスの難しさって、強さと優しさのバランスが常に葛藤としてあるところなんじゃないかなって。あとね、豚の育成の難しさやコントロールできなさを、どう葛藤しながら向き合ってんのかっていうところを聞いてみたい。

こういち:うちの牧場だと自然の影響が7割、人間の影響が3割というバランスでしか豚に関われないイメージを持っている。自然をベースにした環境調整がとても重要な要素だと思っている。豚と同時に自然にも対峙しているイメージ。天気1つで、昨日まで元気だった豚が一気に風邪ひいてしまったり、病状が悪化してあっという間に死んでしまうなんてことも起こりえる。

ーーなるほどな。なんかその理不尽さ、自分がコントロールできないものと向き合う。難しさって、まさに苦しさとか、悲しさとか、切なさとか、たぶんいろんな感情が湧きながらやってんだろうなーとか思った。

こういち:まさしくそうだね。この仕事でなければ、ここまで感情が揺さぶられることもなかったかもしれない。そしてその繰り返しによって「清々しい諦念」に行き着いた感覚がある。

ーーその諦念に行くまでって、時間がかかったんじゃないかなと思う。どういうタイミングで諦念になっていったのかな。

こういち:例えば、音楽が僕に教えてくれたことって、納得のいかない現実に抗うことだったのね。そして次に他者との共同作業の中で、和することを学んでいった。抗うっていうことと和すること、この2つを携えて生きていても、どうしてもままならないことが起きてしまうし、解決ができないことが多くて。明確なタイミングはないのだけれど、このままだともう生きていけなくなる現実が積み重なりすぎた。諦念にたどり着いたのは、自分が押しつぶされないための解決策だったのかもしれない。

ーーその中で豚に対して人間ができることってなんなんだろう。

こういち:僕は「豚を育てる」仕事をしてるのではなくて「豚が育つ環境を作る」仕事をしていると捉えてる。あくまで環境を作ることが人間にできること。例えば温度や湿度の管理、餌の配合設計、そして夏には夏の、冬には冬の対策をすること。それらは豚の生理を学び、豚を観察し、今豚に必要なものを考え、動くということだと思う。

豚と直接接する立場としての思い

ーーひとたびスーパーに行けばさ、豚肉はもう切って売られてて。そこに感謝とかもなく、当たり前に。こういちは命をいただくっていうことを、現場にいながらどう捉えてるんだろう。

こういち:僕らは畜産の仕事に従事しているからこそ、 お肉を食べるという行為がとても奇跡的なことに思える瞬間がある。同時に、積極的に命を奪う仕事という意味において罪悪感をぬぐい切れていない自分も存在する。それを食育という観点でみんなに伝えられる自信がまだない。感謝を願いながらも、それを押しつけられない自分もいる。

こういち:だから個人的な思いとして、少なくとも僕は豚の命を2回奪わないようにしようと思ってる。一度目は屠畜をするとき。二度目はその後、調理・加工工程で無駄にしたり、食事で残してしまったとき。これはもう1度命を奪ってしまうことになると僕は思っている。
僕たちサイボクは「自ら豚を育て、自ら製品を作り、自らそれらをお客様に提供する」という形ですべてに責任を持つ6次産業を営んでいる。だから少なくとも1回奪った命を無駄にしないようにしようとみんなで知恵を絞ってるし、やりきりたいと思ってる。

ーー豚を2回殺さないことにそこまでエネルギーをかけるのに、食べる人に「ありがたみを感じて食べて」って言うのは違うんだ! なんだろう、諦念の話につながってくるのかな。

こういち:うーん……なんだろう。現場の僕たちが引き受けることのように捉えているかも。これはまだ自分の中でも決着していないし、答えがでてないこと。ずっと問いとして持ち続けたいって思ってる。

ーー綺麗事で「命は大切に」と言っているわけではない。現場の感覚が真実として迫ってくるし、2回目殺さないっていう考え方もすごくリアル。ところで、豚を殺して食べようとする行為への罪悪感は、どう整理しているのか聞いてみたい。

こういち:そこは全然、整理できていない。だから今できるベストを追求してるというのが正直なところ。可能な限り豚にとっていい環境をつくること、自然の恵みに感謝の気持ちを持てる自分で在ること。それぐらい。きっとこれからもずっと考え続けて、迷い続けていく事なのだと思う。

ーーいやいや、その迷い続けてる姿勢が素敵だと感じたし、 迷い続けてもいいと思う。葛藤し続ける姿勢を保つことで、いい妥協点が見えてくるんじゃないかなと思った。

(編集:株式会社COTEN 内山千咲/ライター:なるめろん


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