「何も起こらない世界線」を裏側で守る | 株式会社ルート建築防災 佐野晴美 × COTEN
法人COTEN CREWになってくださった企業の方々への対談連載です。
COTENを通じて人文知に投資することを決めた彼ら。
日頃、どのような問題意識を持って活動されているのでしょうか。
今回は株式会社ルート建築防災代表、佐野晴美さんです。
建築業界を裏側から支える
ーーCOTENインタビュアー(以下「ーー」):「建築防災」……って、何をされてる会社なんですか?
佐野さん:うちは「火事」を広げないようにする建築設計が専門なんです。火災時の安全性能を上げることで、設備や避難経路上の階段の数を減らしたり。細かい規定があるんですけど、計算で数値で出しながらやっていきます。
うちみたいに火災時の安全性を専門でやっている会社は珍しいかもしれないですね。
ーーなるほど。お客様はどういった方になるんでしょうか。
佐野さん:いわゆるゼネコンさんや設計事務所さんですね。基本的に、設計自体はゼネコンさんや設計事務所さんが自分でされるんです。そこから防災の性能を上げて「これだけ防災性能を上げたので排煙設備をなくさせてください」っていう申請をするんですね。建築基準法で守らないといけない防災設備があるんですが、例えば煙を抜くための小さい窓(排煙窓)の設置をやめるために。
ーーなんのために防災の設備を減らすんですか?
佐野さん:防災の設備を減らすことで、物販店さんは天井いっぱいまで什器が上げられて物がいっぱい並べられるし、物流倉庫とかの排煙窓も設置しなくてよくなる。他にも、食品加工工場の開口部を減らすこともできるんです。窓が多いと虫が入ってきちゃうので減らしたいんですよね。
ーーなるほど。商業スペースの機能を拡張するために、その防災に関してかかる制約をなるべく減らしていくということでしょうか?
佐野さん:そうですね、設計の自由度を上げるためのお手伝いをしてるんです。
ーーその役割を佐野さんの会社に依頼する。業界の裏側って感じですね。
経営者は、不安も喜びもみんなと共有できる
ーーところで、佐野さんは何代目なんですか?
佐野さん:2代目です。もともと前身の会社にはアルバイトの事務員で入ったんです。当時2年ぐらい事務員をやってました。ちょうどその頃、建築の防災設計をやっていた人が辞めたんですけど、先代に「やる?」って言われたんです。そこで「やります」って始めたのが防災設計に携わるきっかけでした。
ーーそこから事業承継されたんですか。
佐野さん:はい、私が先代から株を全て買い取りました。この会社自体は11年目になったところです。
ーー佐野さんってもともと経営者をやってみたいって思ってたんですか?
佐野さん:全然そんなことなかったです。私は独身なのでいつまで働けるのかって心配があったんですね。だから先代から事業承継の話が出たときに「定年がなくなるんだったらやります」って言って。役員になったら定年がなくなるじゃないですか。社長業をそんなに知らなかったからか不安みたいなのもあまりなく飛び込みました。
でも、実際にやってみたら、とても楽しいんですよ。
ーーどういうところが楽しいんですか?
佐野さん:組織を作るところかな。スタッフと会社の将来について話すのもすごく楽しいんです。以前の会社名は先代のお名前だったんです。そこから全然関係ない名前に変えて売り上げが落ちたらどうしようなんて悩みもみんなと試行錯誤して考えてます。将来に向けた不安も嬉しいこともみんなと共有できてるのがすごく楽しいです。
ーーいいですね!逆にしんどいなと思うことはありますか?
佐野さん:小さな会社で事務も私がやっているので、そういう体力的な面ではしんどいところもあります。でも、いろいろと考えるのはやっぱり楽しいですね。
先代のときは建築事務所っぽい真面目な感じだったホームページも新しくしました。それも、どれぐらい反応があるのか分からないし、変えることが正解なのか不正解なのかも分からなくて不安でした。でもうちのスタッフがあのホームページを気に入ってくれてる。もうそれが一番かなって。
スタッフが自分の会社のことをお友達や親兄弟親戚に自慢できるようになったら嬉しいじゃないですか。
ーー確かに!
佐野さん:仕事内容の認知度が低いので説明するのも難しくて、みんな「建築系」とかって言っちゃうんです。でも、とても立派なことをやっていると思っているので、堂々と語ってほしいですね。
「何も起こらない世界線」を支えている人たち
佐野さん:火事について計算をしている人がいるっていうことを広めたいです。皆さん知らないでしょ?
ーー知らなかったですね、確かに。
佐野さん:火災時の安全性って言うと、消防さんと近いイメージを持たれると思うんですけど、消防法とはまた別に、建築だけで独立した火災の扱い方っていうのがあるんです。普通に建っている建築物もきちんと火災時のことを考えて設計してる。そういうのを一般の方にも知ってもらいたいなと思っていて。避難時の経路をどう考えてドアの開く向きを決めているのかとかね。そういう広報活動ができたらいいなと思ってます。ドアって基本的に避難経路の方向に向けて開くようになってるんですよ。
ーー知らなかったです。
佐野さん:「避難」って考えも、災害時じゃないと気づかないんですよね。普段、火事にあうかもしれないって思いながら生活していないので。でも、いつ誰でも火事にあう可能性はあるんです。地震はある程度予測ができるようになってきてると思うんですけど、火事は予測が難しいので、不慮の事故が起こることも多くて。
だからこそ、火災時の安全性についてだけを真面目に考えている会社があることを皆さんに知っていただけると嬉しいですね。
ーーなるほど……建築と消防の役割分担をもう一度教えてもらえますか?
佐野さん:建築がやってるのって、火災を拡大させないようにすることなんです。そして火事が起きてしまったときの安全な避難経路について考える、その先に消防の救出とか消火活動とかがあるんですよ。消防さんのお世話にならないように安全にしておきましょうというのが前提。だから、消防が到着する前に避難完了しているのが理想なんです。
ーーそれって愛がある仕事ですね。
佐野さん:あとは火を消すだけっていう状態であれば消防さんの命も守れます。そういうことを真面目にやってるんです。
ーー見えづらい部分ですけど、すごく大切な仕事ですよね。
佐野さん:どうやったら皆さんに知ってもらえるのかを模索中です。ショッキングな火事の事件があると皆さん考えてくださるんですけども、やはり身近じゃないので風化していっちゃうんですよね。普段から意識してもらえると、私たちの仕事にもハリが出ます。
どうしても皆さん建築のコストダウンってことを考えるんですね、避難安全検証法って火災用設備を減らせるので。もちろん実際に建築コストが下がるんですけど、私たちとしてはコストダウンは結果でしかないんです。火災時の安全を重視してやっている結果なんですけど、お客様には、安くなるという部分だけが主に伝わってしまっている気がします。
ーー佐野さんの会社は「何も起こらなかった世界線」を作ってるんですね。悪いことが「起こらない」ってことを裏側で守ってる。そういう見えないところへの配慮や想像力みたいなことがあると人生は豊かになったり、人間らしくなったりするのかもしれません。
佐野さん:何も起こらないから表に出てこない。でも何も起こらないために裏側で動いてる人間がいる。歴史を動かしちゃうような人は目立つんですけど、実はほとんどの人が裏側で動いているんじゃないかなって思うんです。
(編集:株式会社COTEN 内山千咲/ライター:森まゆみ)
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