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食のストーリーは、資本主義の外にある? | 浅野 ブエコ 朝子 × 深井龍之介

法人COTEN CREWになってくださった企業の方々と深井龍之介との対談連載。今回は、沖縄県で若鶏の丸焼き専門店「沖縄丸鶏製造所ブエノチキン」を経営する浅野 ブエコ 朝子さん。沖縄という土地柄も、展開するビジネスも異色の浅野さんと深井との対談は「食」を巡って盛り上がります。

浅野 ブエコ 朝子(あさの・ぶえこ・あさこ)
世界のブエノチキン合同会社 代表。広告コピーライターの職を経て沖縄で両親が営むチキンの丸焼き専門店「ブエノチキン浦添」後継に。イートイン新設、法人化、コンビニとのタイアップでサラダチキン全国発売など販路と認知を拡大。アルゼンチンがルーツのため、2号店はアルゼンチンの目標を掲げ日々チキンと営業中。

沖縄の歴史を背景に持つブエノチキン

深井龍之介(以下深井):浅野さん、先日はチキンをお送りいただいてありがとうございました。ニンニクが効きつつも意外とあっさりしていて、ひとりで1羽を全部!食べてしまいました。自分でもびっくりです。身体にもよさそうですね。

浅野 ブエコ 朝子(以下ブエコ):美味しく食べていただけてよかった! うちのチキンはお酢、ニンニク、ハーブあと玉ねぎを中心にしたあっさりした味付けです。ニンニクは、1羽につき1玉まるまる使っています。身体にもよく、体調を崩すと買いに来る方も多いくらいです。

深井:お酢も使っているんですか! それは気づかなかったな。しかし、鶏の丸焼きが沖縄の名物だとは知りませんでした。

ブエコ:沖縄では定番料理なんです。小規模なお店が多いんですが、県内に10は鶏の丸焼き専門店があるんですよ。
鶏の丸焼きが沖縄に定着したのは、米軍が持ち込んだアメリカ文化の影響と、南米からの移民が多いためでもありますね。
うちの店も、アルゼンチン帰りの方がブエノスアイレスで知った鶏の丸焼きを商売にしたのがはじまりで、店名はそこに由来するんですよ。
その二号店を親が買い取り、それ以来40年、テイクアウト専門店としてがんばっているのがブエノチキン浦添(対談後、「沖縄丸鶏製造所ブエノチキン」に店名変更)です。

深井:なるほど、沖縄の歴史が背景にある料理なんですね。ところで、浅野さんはどのようにしてCOTEN RADIOを知ったのですか?

ブエコ:うちのお客さまで熱狂的なCOTEN RADIOリスナーの小松くんが勧めてくれたんですよ。それで聞いてみたらハマってしまって……。
もともと私は知識欲が旺盛で、会社経営と子育てが忙しい中でもなんとかインプットの時間を確保しようと自動車に本を持ち込んで、赤信号の時間に本を読んでいたくらいなんですね。沖縄は車での移動が多いですから。

深井:おお、すごい。

ブエコ:でもポッドキャストなら運転中にも聞けますよね。だからライフスタイルにも合っていたんです。
私は特に歴史好きでもなかったんですが、偉人とされる人たちが意外と変人だったり(笑)、知られざる苦労をしていたりと「生身」を感じられるのが本当に面白いです。あと、歴史の教養は経営判断にも役立つと思いますね。

深井:ありがとうございます。そして法人COTEN CREWにもなってくださったわけですが、それはなぜですか?

新しい稼ぎ方と配り方を考えたい

ブエコ:ノリですよ(笑)。法人COTEN CREWの募集を知ってすぐ「よっしゃ、やろう」と決めました。いや、お金も必要だから1日くらいは悩んだかな?

深井:おお、ありがたいです。ノリで決めてもらえるのはめちゃ嬉しいですよ。

ブエコ:後でよくよく振り返ると、「知性のインフラ」としてのCOTEN RADIOが無くなると困るのが大きかったですね。私も従業員も聞いてますし、さっき言ったように、ブエノチキンらしい商売のしかたを探るためにも欠かせないですし。

深井:というと?

ブエコ:私、実は資本主義が嫌いなんですよ。いや、お金を稼ぐのは好きなので(笑)、「嫌い」は言い過ぎですが、納得できないことがたくさんあるんです。利益追求のために質が高くない商品を強引に売ったり……。
でも歴史を俯瞰すると、長く世に残るものはやっぱり本質が一貫してると感じるんですね。だから、今の資本主義にそのまま乗っかるのではなく、新しい稼ぎ方と、新しいお金の配り方を考えたい。
私たちのチキンを本当に喜んで食べてくれた方からお金をいただいて、そのお金を、有意義な使い方をしてくれる方に渡したいんです。
そういうスタイルを模索するきっかけを、COTEN RADIOにもらっているんですよ。

深井:なるほど。僕も浅野さんと同じで、資本主義が嫌いなわけじゃないんです。資本主義には素晴らしい点がたくさんあります。
だけど、浅野さんが言ってくれたように、たまに賢くない挙動をしてしまう場合もある。そういう場合に、資本主義じゃないルールを選べる社会になるといいなという感じですね。

ブエコ:そう、資本主義に対して疑問が多いだけで、嫌いじゃないんです。資本主義の真っただ中にいるのは事実なので、売らないとやっていけないという面もありますし。
本当にうちのチキンを好きな方だけに買ってほしいんですが、それって不器用なやり方で、ビジネスを広げることはできないですよね。
チェーンやフランチャイズで店舗数を増やす手もありますが、やっぱり、心からブエノチキンを好きなスタッフに売ってほしいから、それもできない。売れ残りを見るのも悲しいですし。
だから、私たちブエノチキンは小さいけれど、私たちしか作れないものを提供することに価値を見出したい。それができる社会になってほしいんです。

「食べること」の意味を理解した深井

深井:実は僕、「食」への関心がぜんぜんなかったんです。それが、37歳になる今年になって急にわかってきたんですよ。食べるという行為がどういうことか。

ブエコ:どういうふうに?

深井:食べるというのはうまいとかまずいとかいう話じゃなくて、その食べ物を生んだ文化を食べることでもあるんですね。背景ごと食べると言うべきかな。今まではそのことに気付いていなかったんですよ。
ブエノチキンなら、浅野さんがおっしゃったように、背景にはアメリカや移民の影響があるわけですよね。それも一緒に摂取するのが「食べる」ということなんだなと。
あと、浅野さんたちがどういう気持ちでチキンを焼いているのかとか、そういうことを感じながら咀嚼するのが、ものを食べるということなんだなと考えるようになったんです。
もちろん世界中で同じ食事を出す大資本にも文化はありますけど、小さな食堂にも同じだけのドラマがある。問題は、今の資本主義だとそのことの価値を測れないこと。

ブエコ:そうですね。どうすればいいか、模索しています。

深井:今言ったブエノチキンの背景やストーリーを前面に出していいと思います。ブエノチキンには大規模チェーン店の食事にはないストーリーがあるので、それも一緒に食べてくださいという感じで。すると、ブエノチキンの価値を理解した人たちが買うようになるんじゃないでしょうか。

ブエコ:そうですよね。最近よく、もし大資本が沖縄のチキン文化に入ってきたらどうしようかと考えるんです。同じ土俵に上っても勝てるわけがないですよね。
その場合、結局、今の店舗を守ってほそぼそと丁寧な仕事を続けるほうが結果的に生き残れる、という気もするんです。
あっという間に表れては消えたタピオカブームみたいな動きに同調してもしょうがない。それよりは、静かに嵐をやり過ごしたほうがいいと思って。
まあ、それでもし大資本に飲み込まれたなら、歴史を把握していなかったということで諦めます(笑)。

「消費者に合わせない」という選択

深井:そもそも、料理にかぎりませんけど、数が多いマスに合わせることが正解とも限らないですよね。
僕は島根県出身なんですが、島根って、酢の物や煮物といった素朴な食べ物が多いんです。山菜を煮物にして食べる文化があったりして、味も全体的にあっさりなんですね。僕は食事ってこういうものだと思って育ったんですが、大人になって東京や、今住んでいる福岡に行って、ぜんぜん違うとわかった(笑)。福岡の食事はマジで美味いんですが、島根育ちの僕にとって、なにかちょっと違う。
食事ってそういうもので、その個人の経験や土地にすごく規定されると思うんです。それって、僕たちが今日話した「背景」や「ストーリー」ですよね。

ブエコ:わかります。

深井:ブエノチキンは美味しかったですけど、本当は沖縄で食べるともっと美味しいはずですし、沖縄育ちの人が食べると僕らとは違う感想を持つはず。だから、もし世界中のマスに向かってブエノチキンを売り出して、たとえば世界中に何千もチェーン店ができたら、今のブエノチキンのストーリーは失われる気がします。

ブエコ:そう思います。極論、「美味しくはないけどこの土地には欠かせない食べ物」ってこともありますよね。マスのニーズに合わせてしまうと、そういう文化は消えちゃいます。だから、美味しければいいわけじゃない。
でも、資本主義下の競争ではできるだけ多くの人に「美味しい」と思わせたほうが勝ちですから、その食べ物の本質は失われがちですよね。

深井:たとえば茶道ひとつとっても、抹茶が、コンビニのジュースみたいに誰にとっても美味しいかというと、違いますよね。苦いし、飲むために色々な作法があるし。でも抹茶を愛するごく少数の人たちが昔からいて、数百年にわたって茶堂の文化を守ってきた。

ブエコ:もちろん淘汰されていく文化もあるとは思いますが、市場や消費者のニーズに合わせるだけじゃ、食文化は守れないですよね。

深井:なるほど、「消費者に合わせない」って重要ですよね。アーティスティックなものがなくなりかねないですからね。
僕らが広告を入れないことに少し似ていると思います。陳腐化を防ぎたいんですよね。

ブエコ:その意味では、法人COTEN CREWに金銭的な見返りが設定されてないことは、私にとってはむしろ良かったですよ。協賛をつけたら、番組の雰囲気が壊れると思ってましたから。
それから、「見返りを用意しなくてもいいんだ」と気付かせてもらった点にも感謝しています。ビジネスの重要なヒントです。

深井:そう思ってもらえるのは本当に嬉しいです。僕たちの社会実験が成功するかどうかはわかりませんが、先行事例になれたということですからね。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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