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大企業の新規事業、戦略的エラーを起こせ | 関西電力株式会社 熊代知暢 × COTEN

株式会社COTENの挑戦を応援してくださる、法人COTEN CREW企業の皆様をご紹介します。
COTENを通じて人文知に投資することを決めた彼ら。
日頃、どのような問題意識を持って活動されているのでしょうか。

今回は関西電力株式会社の熊代知暢さんです。

※COTENのフラットな空気感をお伝えするため、今回のインタビューはニックネームで実施し、記事もそのままお届けします。

熊代知暢(くましろ・とものぶ)
2005年関西電力株式会社に入社。
経営企画部門における組織管理、営業企画部門における電力小売全面自由化対応業務などを経て、2021年より現職。
現在は、脱炭素にかかるビジネスを中心に新規事業の企画・開発を行なっている。

電力会社が脱炭素と向き合う

COTENインタビュアー(以下、ーー):簡単に、お仕事の紹介をお願いします。

熊代知暢(以下、クマちゃん):ソリューション本部の開発部門にいます。そこで脱炭素をテーマに新規事業を創出するのが僕のミッションです。

ーー脱炭素って、化石燃料を使わないようにとか、そういうことですよね?

クマちゃん:はい。このミッションを考え出して、脱炭素をテーマに事業創出って本質的に考えるとすごく難しいお題だなと思いました。脱炭素って資本主義とはシンプルに相性が悪い。資本を投下して生産性をあげてより多くのものを造ろうとする資本主義の形と、資本主義以前から人類が歴史的にエネルギーを投下して便利な文明を創りあげてきたきた形はほぼ相似形だと思うんです。なので「ものを新しくつくるより大切に使いましょう、エネルギーを使うのを減らしましょう」という話を、株主会社がビジネスとして成立させるのはかなり難しい。しかも、僕らは民間の株式会社で、エネルギーを作って売ることが生業という。

クマちゃん:ですが、僕たちが抱えている社会課題の多くは資本主義的なルール上での成功とは別の文脈にあるし、その最たるものとしての気候変動問題はまったなしなのでそうも言ってられない。
僕ら民間会社は、収益のために犠牲にしてきたものに対し、今までのある種の「ツケ」を払うという、すごく難しいお題と向き合っているところなんです。

迷った時に役立つのは古典

ーー「脱炭素」に対して、電力会社がどう考えるか……難しいですよね。今はどのように考えられているのですか?

クマちゃん:はい、実は、「贈与」の概念がヒントになると考えています。次の世代に渡していく贈与のようなもの。

ーー贈与?

クマちゃん:僕たちは自然からリソースをタダでもらって今の豊かな生活があるけれど、次の世代はこれまでのようにはいかない。だから、僕らは受け取った分、次の世代に対して、何らかのパスをしなければならない。これはある種の贈与の形になってると思うんです。そのため、どう贈与していけばいいのかという文脈の中で「脱炭素」を考えていきたいです。

ーーどのように収益化するかではなく、もっと根本的なところから探索していくのですね。昔からそのような考え方をされているんですか?

クマちゃん:そうですね。会社の中に「古典を読む会」という20年くらい続いている読書会があり、20代後半ぐらいから、1ヶ月に1~2冊読書していたんです。この会の発足者の方が、「古典(クラシック)の語源は古代ローマの第一級市民のクラシカス。国家が他国から攻められるような危機に直面したとき、艦隊(クラッシス)を寄付をできるような貴族のことをクラシカスと呼んだことから始まりと言われている。だから、古典は人生で迷ったときや困ったときに、役に立つものになるから読んどけ」とおっしゃってて、メンバーはみんなこの話がすごく好きでなんども話していました。

クマちゃん:ちょうど当時、難しいお題を渡されたな……と感じたときに古典にあたってみようと思ったんです。資本主義的な損得だけじゃなく、人間が根源的な欲求というか本能でやってることまで一回遡ってみようと思って。で、資本主義がお題でまず考えることって「交換」かなと思ったんです。するとタイミングよくCOTEN RADIOで「レヴィ=ストロースの回」をやっていて、かなり踏み込んでいるのに、わかりやすく噛み砕いて話してくれて、ありがたかったです。僕の理解度ではアマゾンで迷子になったままだったんで。ここで、交換の話を考え出して、その亜種というか一種である贈与の話に行きついたってことですね。交換と贈与は必ずしも矛盾しない、つまり資本主義をベースにしても贈与の概念は組み込むことができる。この形をベースにビジネスを考えていけば、本質的な解決に少し近づけるのではと思ったんです。具体的な形になるまではまだまだですけど。

ーー古典を読み返すタイミングでCOTEN RADIOを聴き、法人COTEN CREW になったということですか?

クマちゃん:そうですね。教養として読むってだけでなくて、ビジネスを考える上でも必要だなと思って。COTEN RADIOは前から知っていました。「資本主義」編も聞き直して、その中で紹介されていた書籍も読みました。同じチームのメンバーにもこういう世界に触れてほしいなと。

クマちゃん:電力会社での新規事業は、仮に世の中で大成功レベルの収益を稼げたとしても金額ベースでは、本業としての電力会社のそれとは比べ物になりません。
だからこそこの事業をやることに意味にこだわりたい。深井さんと最初に直接お話させてもらったとき、「自社のSocial goodが何かをちゃんと語れない企業は、これから選ばれなくなる時代がくる」というお話を聞いてまさにそうだなと思いましたし、ちょっと励まされた気分にもなりました。COTENには、いい題材を提供してもらえると期待しています。

ーーなるほど、大企業がやる新規事業だからこそ哲学が必要なんですね。チーム内でしっかり意味付けされていることも大事ですよね。

クマちゃん:40歳になったぐらいから、いろんな経験をして、ポジションとしてはそれなりの立場は与えてもらいました。その中で、チームメンバー全員で最大限の価値を出すためには、今やるべきことの意味を理解してもらう、もしくはそれぞれが意味を考えてもらうことが必要だと思っています。ただ、新しいことを考えて、その意味を追求して、更に伝えて理解してもらうことは、僕もこれまでやったことがないし、すぐにはできそうもない。、そこで「メンバーに、自分がこの人すげえなって思う人に会ってもらう」、彼らの言葉も借りた方がいいなと思いました。

クマちゃん:COTENとの出会いもそうなんです。僕から見て、すごいことをやっているなと思う人たちは、本質的に同じような課題意識をもっていて、同じようなことを言っていることが多いんですよね。なので、例えば深井さんや他の法人COTEN CREWメンバーのような、自分よりもずっと深い問いを立てていたり、うまく表現している人にチームのメンバーにも身近に触れてもらい、いろいろな角度から話を聞いてもらう。その方が、手っ取り早いし、説得力が増すと思うんで。

ーー自分で腹落ちすると、次は自然にどういうアクションすべきか考え、その質も上がっていきますよね。

クマちゃん:そうです!新規事業は新しいテクノロジーに対するアンテナも高くないといけない。時流にちゃんとキャッチアップしていこうとすると、若い人たちの方が僕より間違いなくうまくできる。
なので、Howの部分は若いメンバーにやってもらった方がいい。ただそのためには、「なぜこれをやるのか?」に共感してもらわないと。その問いを立てる、一緒に考えてもらうことが僕の役割なんです。

社内に戦略的エラーを起こす

ーー大企業の中では、ルールがあって柔軟に考えて動くことが難しいという声もよく聞きます。その中でクマちゃんはどうやって柔軟なマインドになったのですか?

クマちゃん:いろんな人に出会い、コミットして何かやっていくという意思を持っていると、機会は後からついてくるんだ、と思えるようになったからですかね。
うまくいったことを振り返ってみると、ほとんど「結果的に」「偶然に」でした。最初から意図していたことがピタっとはまったっていうことは、少なくとも僕にはほぼない。あっても無意識に後付けしているだけで。でも偶然でしかないから何もしなくてもいいというわけではなくて、「偶然」に出会いやすくなるような行動はできます。それは意識しています。

クマちゃん:おかしな行動やエラーを起こし、普通に仕事をしていればやらないだろうと思う動きをすることが大事。その簡単な方法が、普段会わないような人に会って仲良くなることです。
それを実践していたところ、深井さんと直接話す機会にも恵まれ、「法人COTEN CREW」になってみようかと思いました。その中にはいろんな人がいて、更につながっていくと思っています。

ーーエラーが結局は生存確率を高め、社内の思考のOSをアップデートする。これが今、クマちゃんの部署に求められていることなんでしょうか。

クマちゃん:そうだと思います。良かったのは、新規事業部門にいること。本業と違って、失敗をしたらいきなり電気が止まるというわけでもない。ある程度「自由度を持ってやれ」と会社は言ってくれていて、それはすごくラッキーです。

クマちゃん:もう一つ結果的にラッキーだったなと思うのは、30代前半までは会社の中でその時代にキーとなる仕事をしていたということです。電力システムは震災以降大きく改革されてますが、その中の1つとして電力の家庭用も含めた小売全面自由化があって、そのときたまたまその部門の主担当だったりしました。他にもそういう仕事をいくつかやってきたんですね。その中でそこそこちゃんとやりきったことに対する周りからの評価で得しているところはあるかもしれません。

ーーなるほど。そこで信用の貯金を貯めていたということですか?

クマちゃん:少なからずあるんじゃないかと思います。今までスタンダードなところをちゃんとこなしてきたからこそ、今の働き方を理解して(見逃して?)もらっているのかなと思います。
その中で最終的にやりたいのは、これまでとは違う変な行動やチャレンジをしようとしている人たちが、もっと増えてほしいし、それが当たり前に受け入れられる基盤を作ること。前例がまだまだ少ない中でやれっていっても難しいんで、自分自身が成功事例を作りたいんです。

ーークマちゃんがしてることは、人作りですね。エラーを起こそうとして行動することを、上司の人はどういう目で見ているんですか?

クマちゃん:今の上司が寛容に「やってみろ」と言ってくれて、他の人も優しく見守ってくれています。これもすごくラッキーだと思います。大企業でやるのは難しいよねって言われることはたくさんあると思うし、耳にもするけど、それを乗り越えられたらすごいアドバンテージを持てることはたくさんあります。新規事業の文脈で、大企業だからこそやるべきこと/でないとできないこともある。そこに対して比較的大らかに見ていただいていることは有難いとしか言いようがないですね。

クマちゃん:僕たちのようなエネルギー会社がこういうことをやりたいと言ったときに、話を聞いてもらえることも、この肩書だからお声がけいただけることも、そうだからこそ思い切ってできることが沢山あります。今の自分の立ち位置を最大限使ってエラーを起こし、意味の最大化を図っていきたいです。

ーー大企業の基盤をうまく使いながら、本当の価値を考え提供しようとする姿勢が素晴らしいと感じました。ありがとうございました。

(編集:株式会社COTEN 内山千咲/ライター:村上光子


ここまでお読みいただきありがとうございました!

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