46. 近視進行抑制の1年後の効果は不均一であったが,屈折の変化を遅らせ,眼軸長の伸長を減少させる可能性があるというエビデンスを提供する。2年または3年後のエビデンスは少なく,持続的な効果については不確実性が残っている
Interventions for myopia control in children: a living systematic review and network meta-analysis
Lawrenson JG, Shah R, Huntjens B, Downie LE, Virgili G, Dhakal R, Verkicharla PK, Li D, Mavi S, Kernohan A, Li T, Walline JJ. Cochrane Database Syst Rev. 2023 Feb 16;2:CD014758. doi: 10.1002/14651858.CD014758.pub2. PMID: 36809645.
背景:近視は一般的な屈折異常であり,眼球の伸長により遠くのものがぼやけて見えるようになる。近視の蔓延は,未矯正の屈折異常の割合や近視に関連する眼病変による視覚障害のリスク増加という点で,世界的な公衆衛生問題として拡大している。近視は通常10歳以前に発見され,急速に進行するためその進行を遅らせるための介入を小児期に実施する必要がある。
目的:ネットワークメタ分析(network meta-analysis: NMA)を用いて,小児の近視進行を遅らせるための光学的,薬理学的,環境的介入の効果を比較評価すること。近視抑制のための介入策をその有効性に応じて相対的にランク付けすること。小児における近視コントロールの介入を評価する経済評価をまとめた経済的解説を作成すること。新たなシステマティックレビュー(living systematic review)のアプローチを用いて,エビデンスの最新性を維持すること。
検索方法:CENTRAL(Cochrane Eyes and Vision Trials Registerを含む),MEDLINE,Embase,および3つの試験登録で検索を行った。検索日は2022年2月26日。
選択基準:18歳以下の小児の近視進行を遅らせるための光学的,薬理学的,環境的介入に関する無作為化対照試験(RCT)を対象とした。主要アウトカムは,近視の進行(介入群と対照群の1年以上の等価球面屈折(SER)と眼軸長(mm)の変化の差と定義),治療中止後のSERと眼軸長の変化の差(リバウンド)であった。
データ収集と解析:標準的なコクラン方式に従った。パラレルRCTについては,RoB 2を用いてバイアスを評価した。1年後および2年後のSERおよび眼軸長の変化について,GRADEの手法によりエビデンスの確実性を評価した。ほとんどの比較はinactiveな対照群との比較であった。
主な結果:4歳から18歳の小児11,617人を無作為化した64件の研究を対象とした。研究の多くは,中国やその他のアジア諸国(39件,60.9%)および北米(13件,20.3%)で実施されたものであった。57の研究(89%)が,近視コントロール介入(多焦点眼鏡,周辺部プラス眼鏡(peripheral plus spectacles: PPSLs),低矯正単焦点眼鏡(SVLs),多焦点ソフトコンタクトレンズ(multifocal soft contact lenses: MFSCL)、オルソケラトロジー,酸素透過性ハードコンタクトレンズ(rigid gas-permeable contact lenses: RGP),または薬学的介入(高濃度アトロピン(High-dose atropine: HDA),中濃度(Moderate-dose: MDA),低濃度(low-dose: LDA),ピレンジピン、7メチルキサンチンを含む)と対照群を比較した。試験期間は12~36ヵ月であった。エビデンスの全体的な確実性は,非常に低いものから中程度まであった。
NMAのネットワークの接続が不十分であったため,対照群との比較でほとんどの推定値は,対応する直接推定値と同じかそれ以上に不正確であった。そのため,以下では主に直接比較(ペアワイズ比較)に基づく推定値を報告する。
1年後,38の研究(6525人の参加者を分析)において,対照群におけるSERの変化の中央値は-0.65Dであった。以下の介入は対照群と比較してSERの進行を抑制する可能性がある。
・HDA(平均差(MD)0.90D, 95%信頼区間(CI)0.62~1.18)
・MDA(MD 0.65D, 95%CI 0.27~1.03)
・LDA(MD 0.38D, 95%CI 0.10~0.66)
・ピレンジピン(MD 0.32D, 95%CI 0.15~0.49)
・MFSCL (MD 0.26D, 95%CI 0.17~0.35)
・PPSLs (MD 0.51D, 95%CI 0.19~0.82)
・多焦点眼鏡 (MD 0.14D, 95%CI 0.08~0.21)
一方,
・RGP(MD 0.02D, 95%CI -0.05~0.10)
・7-メチルキサンチン(MD 0.07D, 95%CI -0.09~0.24)
・低矯正SVLs(MD -0.15D, 95%CI -0.29~0.00)は進行を抑制するというエビデンスはほとんどなかった。
2年後,26の研究(4949人)において対照群のSER変化の中央値は-1.02Dであった。以下の介入は対照群と比較してSERの進行を抑制すると考えられる。
・HDA(MD 1.26D, 95%CI 1.17~1.36)
・MDA(MD 0.45D, 95%CI 0.08~0.83)
・LDA(MD 0.24D, 95%CI 0.17~0.31)
・ピレンジピン(MD 0.41D, 95%CI 0.13~0.69)
・MFSCL(MD 0.30D, 95%CI 0.19~0.41)および
・多焦点眼鏡(MD 0.19D, 95% CI 0.08~0.30)
PPSLs (MD 0.34D, 95%CI -0.08~0.76)も進行を抑制する可能性があるが,結果は一貫していなかった。
RGPは,ある研究では有益性が認められ,別の研究では対照との差が認められなかった。
低矯正SVLのSER変化には差がなかった (MD 0.02D, 95%CI -0.05~0.09)。
1年後,36の研究(6263人)において,対照群の眼軸長変化の中央値は0.31mmであった。以下の介入は対照と比較して眼軸長の伸長を減少させる可能性がある。
・HDA(MD -0.33mm, 95%CI -0.35~0.30)
・MDA(MD -0.28mm, 95%CI -0.38~-0.17)
・LDA(MD -0.13mm, 95%CI -0.21~-0.05)
・オルソケラトロジー(MD -0.19mm, 95%CI -0.23~-0.15)
・MFSCL(MD -0.11mm, 95%CI -0.13~-0.09mm)
・ピレンジピン(MD -0.10 mm, 95%CI -0.18~-0.02 )
・PPSLs (MD -0.13mm, 95%CI -0.24~-0.03 )
・多焦点眼鏡(MD -0.06mm, 95%CI -0.09~-0.04 )
であった。
・RGP(MD 0.02mm, 95%CI -0.05~0.10)
・7-メチルキサンチン(MD 0.03mm, 95%CI -0.10~0.03)
・低矯正SVLs(MD 0.05mm, 95%CI -0.01~0.11)が眼軸長を抑制するというエビデンスはほとんどみられなかった。
2年後,21件の研究(4169人)において,対照群の眼軸長変化の中央値は0.56mmであった。以下の介入は対照群と比較して眼軸長の伸長を減少させる可能性がある。
・HDA(MD -0.47mm, 95%CI -0.61~-0.34)
・MDA(MD -0.33mm, 95%CI -0.46~-0.20)
・オルソケラトロジー (MD -0.28mm, 95%CI -0.38~-0.19)
・LDA(MD -0.16mm, 95%CI -0.20~-0.12)
・MFSCL(MD -0.15mm, 95%CI -0.19~-0.12)
・多焦点眼鏡(MD -0.07mm, 95%CI -0.12~-0.03)
PPSLは進行を抑制する可能性があるが(MD -0.20mm, 95%CI -0.45 to 0.05),結果は一貫していなかった。
低矯正SVLs(MD -0.01mm, 95%CI -0.06~0.03)やRGP(MD 0.03mm, 95%CI -0.05~0.12)が眼軸長を抑制するというエビデンスはほとんど見つからなかった。
治療中止が近視の進行を増加させるかどうかについては,結論はでなかった。有害事象と治療アドヒアランスは一貫して報告されておらず、QOLを報告した研究は1件のみであった。
近視小児の進行を報告する環境的介入を報告した研究はなく,近視コントロールの介入による経済評価の報告もなかった。
著者の結論:研究の多くは,近視進行を遅らせるための薬理学的および光学的治療によるinactiveな対照群との比較であった。1年後の効果は不均一であったが,これらの介入が屈折の変化を遅らせ,眼軸長の伸長を減少させる可能性があるというエビデンスを提供するものであった。2年または3年後のエビデンスは少なく,これらの介入の持続的効果については不確実性が残っている。単独または組み合わせて使用する近視コントロールを比較する長期的で質の高い研究が必要であり,副作用を監視し報告する方法の改善が必要である。
※コメント
コクランからの(up dateされた)最新の報告です。
現在のところアトロピン点眼がある程度効果を示していますが,エビデンスは中等度のようです。
*High‐dose atropine (0.5%以上)
Moderate‐dose atropine (0.1%~0.5%未満)
Low‐dose atropine (0.1%未満)
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