31. 上方視の上下偏位が下方視より大きい,あるいは同等であることは,SO麻痺が先天性であることを確実に示すものではない
Vertical Comitance of Hypertropia in Congenital and Acquired Superior Oblique Palsy
Demer JL. J Neuroophthalmol. 2022 Mar 1;42(1):e240-e247. doi: 10.1097/WNO.0000000000001301. Epub 2021 Oct 8. PMID: 34670252; PMCID: PMC8989715.
背景:IvanirとTrobeは,上下偏位が下方視より上方視の方が大きいか同等である場合は,先天性上斜筋麻痺の代償不全であり,虚血性,外傷性,腫瘍性のSO麻痺には決してみられないと主張している。この主張の信頼性を,MRIで同側のSOの大きさが正常でないことが確認されたSO麻痺患者において検証した。
方法:SOの断面積が片側で減少し麻痺を示す患者を特定するために,正面視による冠状断,表面コイルMRIを行った。対象は明確な病歴を持つか先天性発症を示す顕著な垂直方向の融像幅の増加を示した9名(平均年齢38±16歳)。7名は明確な後天性発症(年齢47±14歳,症状期間5.4±4.8年)であり,そのうちの2名は滑車神経鞘腫を示し,5名は重度の頭部外傷後の発症であった。15人の患者は明らかに先天性ではないものの,識別可能な前駆症状に関連しない徐々に進行する発症をした(年齢52±20歳、症状期間13±14年)。
結果:SOの最大断面積は先天性で平均8.6 ± 3.9 mm2,後天性の11.3 ± 3.5 mm2 (P = 0.08) と明確な違いはなかったが,麻痺筋の対側約19 mm2 より有意に小さい (P < 0.01) ことがわかった。正面視の平均上下偏位は先天性9例で20.6±8.0Δと後天性22例の11.4±6.8Δより大きかったが(P = 0.002),先天性SO麻痺では上方視が下方視より8.4±16.3Δ少なく,後天性SO麻痺では3.7±11.2Δ少なかった。先天性SO麻痺では,33%の患者が下方視より上方視で上下偏位が大きく,67%の患者は下方視で上下偏位が大きかった(最大42Δ)。後天性SO麻痺では,8例(36%,P=0.87,X2)において下方視より上方視の方が上下偏位が大きいか,またはそれと等しかった。後天性SO麻痺では,37%が上下偏位は下方視より上方視で大きく,59%が上方視より下方視で大きかった。上方視と正面視の上下偏位が等しかったのは後天性では3例,先天性ではいなかった。明確な後天性SO麻痺と進行性の後天性(非先天性)SO麻痺の傾向は同様であった(P > 0.4)。
結論:MRIでSOの萎縮が証明された先天性SO麻痺において,上方視の上下偏位が下方視よりも大きいというのは特徴的ではなかった。実際,後天性,先天性ともに平均的な上下偏位は上方視よりも下方視の方が大きく,後者では顕著な場合もある。上方視が下方視より大きい,あるいは同等であることは,SO麻痺が先天性であることを確実に示すものではなく,SOの最大断面積も同等である。
※コメント
後天性は下方視が大きいと感度が高いと言われていますが,先天性を鑑別するには上下視方向の斜視角の差は特異的なものではないようです。