エレオノーレの"お願い"
怪Qのヤウエレ?エレヤウ小説です。
倫理的な問題でエレオノーレが成人してます。ヤウズの過去捏造あり。
資料が手元になく口調や二人称が違うかもしれませんがご容赦ください。
「エレオノーレの"お願い"」
「どうしてですの?!ヤウズ様!何がいけないんですの?私ももう成人しました。立派なレイディですわ!」
突然の申し出を当たり前のように断ったヤウズは、エレオノーレの剣幕に驚きつつ頭を掻いた。
「俺のことを好いてくれるのは嬉しい。でもどう考えたって俺はお前に相応しくないだろ。ましてやそんな…」
口にするのが憚られるのか言葉がもごもごと消えてゆく。エレオノーレはそのぷっくりとした赤く可愛らしい頬をさらに膨らませる。
「相応しくないなんてことありませんわ!この私が望んでいるのです。ヤウズ様以外ないと。誰に文句があるというのです。」
そう言われてもなあ、これはさすがに…。と困ったようにエレオノーレから目線を外すヤウズにエレオノーレはさらに畳み掛ける。
「ホテルベルリン四代目総帥としての義務なのです。ホテルベルリンを次の世代へと繋がなければならないのです。ヤウズ様…。私は出会ったあの日よりヤウズ様だけをお慕いしております。あなた様以外には考えられないのです。どうか、どうか私を…。」
縋るような瞳で真っ直ぐヤウズを見つめるエレオノーレ。はたはた困り果てているヤウズを見かねてエレオノーレの後ろに控えていたシュテラが助け舟を出す。
「お嬢様。本日のところは一旦退きましょう。突然のことでヤウズ様も大変動揺されています。」
その言葉に振り返りキッとシュテラを睨むエレオノーレであったが、その目尻には涙が溜まっている。
「わかりましたわ…。ですが、ヤウズ様!このお話考えてくださいましね!」
エレオノーレはしぶしぶといった表情で部屋を後にする。扉が完全に閉まったことを確認したヤウズは、はあーーーっと大きく息を吐いた。
「シュテラさんはいいのかよ。大事な大事なお嬢様のお相手が身元不明でまともな社会生活とはまるで縁のないこの俺なんかで。」
自分で言っておいて虚しくなったヤウズは、近くのソファーにどかっと腰掛ける。
「……。失礼ですが、ヤウズ様ご経験は?」
表情を変えないシュテラの言葉に、ヤウズは、心配するとこそこかよ、と小声で悪態吐きながらぶっきらぼうに答える。
「昔、ジジイやあんたらと出会う前、雇われの殺し屋やらボディガードやらをやってたときに高貴なオネーサン達に色々教わったさ。」
「それは結構でございますね。安心いたしました。」
にっこりと微笑むシュテラ。しかしその目は笑っていない。
「もし、ご経験がないようでしたら私が手解きして差し上げなければと思っていたものですから。」
いや、それはちょっと色々と問題があるだろ。と答える間もなく、首筋に冷たいものを感じてヤウズはソファーの背に張り付く。竜の気配をそこに感じたのだ。もし本当にそんなことになったら俺の命はないな…。嫌な汗がヤウズの頬を伝う。どうやらどこからか見られているようだ。ふと、その黒い竜からもう一匹の竜へと考えが及ぶ。あまりのことに今の今まで忘れていたが、思い出してしまったが最後、気にならないはずはない。そんなヤウズに気づいたシュテラが無表情のまま言う。
「ゲルブのことならご心配には及びません。彼はこのことに意見をする立場にはありません。如何なる場合でもあなたを手にかけることは許されません。」
「…残酷っスね。」
「当然でしょう?立場は弁えねばなりません。」
あくまで冷酷なシュテラに、ヤウズは何とも言えない表情になる。
「本日はこの部屋にお泊まりください。そして一晩お考えください。良いお返事が聞けることを期待しております。」
そう言い残しシュテラは去っていった。
はあーーーーと再び大きく息を吐き、ヤウズはソファーに寝転がる。
「勘弁してくれよ。とんでもないことに巻き込まれちまった。」
シュテラに味方してもらおうと思っていたヤウズであったが、どうやらそうはいかないらしい。ゆっくりと目を閉じて考える。
先刻シュテラに言ったことは見栄っ張りではない。ヤウズの雇い主は地位も人種も様々であったが、ヤウズ自身を求める"物好き"は少なくなかった。その何もかもを諦めたような冷たく刺激的な眼に自分を写したがる輩は男も女も関係なく存在した。それが命令とあれば、気まぐれに相手をした。気に入らなければ叩きのめした。だから、行為自体はなんてことないのだ。
なんてことないなら何故戸惑う?
エレオノーレは可愛い。金髪碧眼、抜けるように白い肌、くりっとした大きな瞳。出会ったばかりのティーンエイジャーのときからさらに美しく成長した。求められて嬉しくない男はいない。ヤウズも例外ではない。それなのに何故拒否したのか。
「何故ってそんなことわかりきってるだろうがよ。」
ヤウズは立ち上がり、往生際の悪い自問自答を蹴っ飛ばす。2人には身分違いを理由に断ったが、そんなものは都合のいい逃げ道でしかない。ずっと見ない振りをしてきた自分の気持ちと向き合わなければいけない。エレオノーレは本気なのだ。
そのとき、誰かが扉をノックした。ヤウズが警戒しながら扉を開けるとエレオノーレが恥ずかしそうに立っていた。
「先ほどは突然申し訳ありませんでした。少し…はしたなかったと反省しておりますの。突然あんなお願いをしてしまって…。」
そう言って、ヤウズの顔を見ないままぺこりと頭を下げた。ヤウズはその小さな頭にぽんと手を乗せ、俯くエレオノーレを覗き込む。
「ヤ、ヤウズ様!」
顔の近さに驚いたエレオノーレは顔を真っ赤にして飛び退く。ヤウズはそんな姿を見て愉快そうに笑う。
「顔近づけただけでそんなんじゃあ、"お願い"なんてまだ早いんじゃないの。」
「…!!」
心の底から恥ずかしそうにしゃがみ込んでしまうエレオノーレ。小さな子と目を合わせるように、ヤウズもしゃがむ。そして今にも沸騰しそうに床を見つめるエレオノーレの頬を両手で包み、自分と目を合わさせる。
「エレオノーレ。俺、ちゃんと大事にしたいんだお前のこと。もっとゆっくり近づきたいんだ。」
ヤウズの優しい声色に、エレオノーレ大きな瞳から涙が溢れる。
「だってデートもまだだぜ?俺たち。」
エレオノーレの涙を拭いながら、ヤウズは白い歯を見せ冗談めかして言う。
「そう、でしたわ。私ったら…。」
ヤウズは、ぐすぐすと鼻をすするエレオノーレを優しく立たせ、スカートを軽くはらってやる。これでとりあえず一件落着というような顔しているヤウズであったが、エレオノーレがこのまま流されるはずがなかった。
「ヤウズ様!デートをしてくださると仰いましたよね?!私、遊園地に行ってみたいのです!!」
あれ、何かがおかしいと思いつつエレオノーレの勢いに押されヤウズは頷いた。
「…ああ、いいんじゃないの。」
その一言にエレオノーレは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。
「しばらくこちらに滞在なさるのですよね?!そうと決まれば早速明日参りましょう!シュテラ!シュテラはどこ?」
シュテラを探しぱたぱたと廊下を駆けてゆくエレオノーレの背中を見送りながら、何か騙された気がするなとヤウズは思った。
続く?