長いトンネル 2024/08/07(4-p.97)#85
と云うわけで、きょうから川端康成『雪国』(新潮文庫)を読んでいく。
「新潮文庫の100冊」の川端は、『雪国』と『伊豆の踊子』がだいたい毎年交互になっていて、偶に『眠れる美女』なんかが入ってくる。ことしは『伊豆の踊子』の番だが、どうせぜんぶ読むつもりなんだから『雪国』から読んでいく。
『雪国』も『伊豆の踊子』も数年前に一度読んだが、さっぱり分からず、それでも『雪国』のほうがまだ「読めた」記憶がある。こんどは『川端康成の話をしようじゃないか』と云う良いガイドを読んだばかりだから、再読でもあるし、多少は読めるといいなとおもいながら読む。「筋は追わない」と云うのと、「見る」と云うことを意識して読んでいく。
はじめてみるととても読みやすく、通勤電車とか寝る前とか、細切れに読んで途中で止めても、またすぐに読みはじめられる。たった一行で異境(魔界)へ誘う文体の破壊力は凄まじく、さすがは魔術師である。忙しく働いていて本が読めない、とか、電車で本を読む、とか云う本が巷間流行っているらしいが、川端の文体はまさにそんな現代人にうってつけではなかろうか。何より、おれはいま小説を読んでいるぞ、と云う気分にどっぷり浸れ、その悦びを噛み締めながら、それでいて作品世界にも没頭できてしまうんである。
トンネルを抜けた先にはまだ読んでいない作品が数多広がっている。なかなか帰ってこられそうにない。