私記5
ここ一年ほど、考えごとをしながら肌をかきむしるのが癖になってしまった。肘の内側と手の指がとくにひどく、冬は乾燥で、夏は汗で皮膚のやすまるときがない。もともと肌が弱くていつもどこかしら荒れていたのが、高校から大学あたりはそういえばおさまっていて、あまり気にすることがなかった。いまは爪を三日に一度切る。最近は手洗いの頻度がふえ、アルコール消毒までしなくちゃならないので、ほんとうに毎日つらい。
たぶん、考えごとが負担になっているのだ、答えの出ないのが好きだったのに、それがしんどくなってしまった。集中して、頭のまわるスピードがだんだん上がりだすと、ぴったりと伴走してあせりもつのっていく。「こんなこと考えて意味あるのか」という、それこそ意味のない問いが、脳のよその場所でひくく反響しだして取れないのだ。本を読んでいると、まぶたを押しつけられるようにずっしりと眠気がきてねむってしまう。自分の苦しげな寝息が聞こえ、起きなければ、起きなければ、とがんばって目をさましても、すぐに墜落する。原因はわからない。いや、わかっている。楽しくない。やりたくてやっているはずのことにいつのまにか周回遅れで追われておののいている。
まちがった。まちがいすぎている。正しさの反対はべつの正しさだと、無駄なことなどないというおおきな光に照らされて自分は絶対的に間違いであり無駄であると、しかおもえない心のまずしさ。きれいな言葉で書くことはできず、強さに読みかえられもしない、ただの、弱さだ。
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