「450×300mm 彫刻エンボス加工」
こんにちは、現場の前田です。
今回は、大阪の竹尾 淀屋橋見本帖にて2021年4月7日(水)から開催される「PAPER & TRIAL」─KIHOUSHI & AYA CODAMA─ の制作物の加工をお手伝いさせていただきました。
DM、封筒、そして展示されるメインのポスター。
こちらをデザインされたのは、BULLET Inc. の 小玉文さまです。
“紙とデザインと実験” をテーマとした「PAPER & TRIAL」。第3弾となる今回は、気包紙シリーズとエンボス( 浮き上げ )加工の組み合わせによる、紙の新たな可能性を探求しています。
ポスター・封筒・DMそれぞれに異なるエンボス表現が施されており、加工の際には表現に合わせた版の選択や圧の調整を行いました。シンプルな加工内容ながら、やってみると、なかなか手強いエンボス加工もありました。
◉ 「 封筒 」 のエンボス加工は
3種類ある封筒は口の形がそれぞれ異なり、どの口の形もゆるりとした曲線で表現されています。一本の曲線の形によって変わる表情はどれも少しとぼけているように見えて、可愛らしい表情の封筒です。
エンボス加工を施したのは、印刷された目の部分。
版は通常のエンボス加工で使用している、腐食によってつくられた凸版凹版を使用しています( エンボス加工はこの凸版と凹版の間に紙を入れ、プレスすることで紙を盛り上げる加工法 )
印刷で表現された目の位置に合わせてのエンボス加工
くっきりと盛り上がらせようと圧をかけ過ぎると紙が割れてしまう( ヒビが入ったように紙が裂けてしまう )ため、紙が割れないよう慎重に、さらに、出来る限りエンボスを盛り上げながら、黒目の印刷位置との見当合わせに注意して加工しています。
◉ 「 DM 」 のエンボス加工は
不思議な立体感のあるDMは、目の印刷部分と口の部分にエンボス加工を施しています。
ふにゃりとした口は絶妙な立体感となだらかな傾斜で表現されているのですが、このなだらかな立体感は通常のエンボス版では表現が難しいため、複雑な表現が可能な彫刻版を使用しました。
版の製作にあたり、小玉さまからエンボス具合のイメージサンプルをいただき、そのサンプルをもとに立体感が表現できる特別な彫刻版をツジカワ株式会社さまに製作いただきました( 封筒・ポスターに使用した版もツジカワ株式会社さまによるもの )
口の左端がなめらかに紙に馴染むように消えている、というところがいちおしポイントです!
紙のシワ( 圧をかけると紙割れとは異なるシワができることがある )が出やすいため、試行錯誤しながらシワが出ないよう調整をおこなっています。
◉ 「 ポスター 」 のエンボス加工は
「 気・包・紙 」 の文字を抽象的に、ボコボコと凄まじい立体感で表現したポスターはDMと同様、特別な彫刻版を使用しています。
加工面積が大きい( ※ )ため、「 気・包・紙 」 それぞれの文字で3版に分け、よりなめらかに盛り上げるために1版ずつ上・中・下に分けて加工しています。
※ 3版合わさった時の加工面積は 450×300mm にまで及ぶ
使用している気包紙は3種類。
① 気包紙 U-FS ライト ラフ L判Y目255kg
② 気包紙 U-FS ミディアム ラフ L判Y目255kg
③ 気包紙 U-FS ディープ ラフ L判Y目255kg
エンボスは、ぼんやりとした弱圧と、くっきりモリモリの強圧の2種類の圧の具合で表現しています( 上記、ポスター写真の真ん中が弱圧・右が強圧によるエンボス表現 )
小玉さまから 「 某、体全体が白くモコモコとしたキャラクター 」 のように紙をモッコモッコに盛り上げたい!というお話をうかがい、ツジカワ株式会社さまと某キャラクターのビジュアルを共有しながら版のご相談をさせていただきました。
このように 「 どのくらい / どんな風に盛り上げるか? 」 を伝える時に、全員の目指す方向性をそろえるため 「 目で見て分かるイメージ 」 があると、とても役立ちます。
3Dデータを用いて、何度も盛り上がり具合について確認・共有
某キャラクターのイメージのおかげもあり、出来上がった彫刻版は見たことのない大きさと重厚感、 「 すごいエンボスが出来るかもしれない! 」 という期待の膨らむ素晴らしい版が出来あがりました!
美しい版です。よく見るとエンボスの版上に複雑な高低差が表現されています。今まで加工したことのない彫刻版の大きさに、不安と緊張、そしてワクワクの感情が、入り混じります…!
小玉さまに立ち会っていただき、エンボス具合の方向性を改めて確認。
いざ、本番へ!となりましたが、やはり加工は一筋縄ではいきませんでした。
ポスターの加工の立ち会いに駆け付けて下さった小玉文さま
エンボスをくっきり盛り上げようと圧をかけ過ぎると、紙が割れてしまったり、シワがよってしまい、また、彫刻版自体の版の高低差で一番低い部分があまり盛り上がらなかったりなど… なかなかうまくいかないこともありました。
図案の一部に紙割れが生じているのが分かる
紙を盛り上げるというシンプルな加工ではありますが
本番加工に取り掛かる前のセットアップは時間を掛けて丁寧に
ツジカワ株式会社さまのベテランの職人さんにもご相談させていただきながら、試行錯誤の末ようやく完成したポスター!
弱圧と強圧で、それぞれ調整を変えることで 「 ぼんやり 」 と 「 くっきり 」 2種類の紙の盛り上がり具合の差を表現しています。さらに、強圧の方は複雑な彫刻版の盛り上がりをモリモリとした立体感で表現しています。
また、同じ図案でも3種類の紙によってエンボスの見え方が異なるという面白さもございます。
“紙とデザインと実験” をテーマとした「PAPER & TRIAL」の名の通り、コスモテックにとっても、私にとっても、非常に参考となる「PAPER & TRIAL」となりました。
小玉さま、この度は、今まで経験したことのない加工へ挑戦させて頂き、また、お手伝いさせて頂きまして、ありがとうございました!
そして、ツジカワ株式会社さま、ワクワクするようなスペシャルな版を製作していただき、ありがとうございました!
◉ 小玉文さまよりメッセージ
気包紙は、紙の豊かな触感を堪能できる 「 気持ちを包む紙 」 。
普段の仕事では、私はパッケージ用紙として多用しています。
今回はさまざまなエンボス加工を用いることで、改めて気包紙の質感の魅力を感じられるモノを制作しました。
目は口ほどにものを言う、とはいいますが、言葉を発していない 「 くちのかたち 」 も雄弁です。ムニュ~とゆがんだ曲線が、ちょっと笑っているような、いないような…
DMの 「 くち 」 は上唇が下唇よりも盛り上がり、その高低差が、独特のまぬけな表情を作り出しています。口角がなめらかに収束しているのもチャームポイント。
一枚一枚、手作業でしっかりと紙を盛り上げていきます
ポスターでは、「 気 」「 包 」「 紙 」 の3つの文字を抽象化し、生クリームのようになめらかな半立体にすることで、気の流れを表現しました。
凹と凸の立体的な金属板の間に紙を挟んで加工しています。
◉ 盛り上げ感を伝えること・共有すること
盛り上がり具合について版屋さん・加工屋さんと共通認識をもつために、断面のイメージ図を書いたり、擬音で伝えたり( もっと 「 ボコっ 」 と、 「 モリっ 」 と、 「 スッ 」 と…!など )、某キャラクター( 白いマシュマロを重ねたような )を例に出したりもしました。
ポスター加工で使用した彫刻エンボス版
ムラなく均一にエンボスをかけるために、部分的に薄紙を挟むことで圧のかかり方を調整しています。
封筒のきほーしくん3種( ライト ラフ・ミディアム ラフ・ディープ ラフ )は、がっしりとした存在感があり、封筒としては厚手な分、くちの中に手紙や小物をしっかりと包み込んでくれます。
目の部分にはDMとは異なる仕様のエンボス版を使用することで、また違った印象の盛り上がりになっています。
半開きの「 くちのかたち 」の表情もお楽しみください。
【 箔押し加工 】
有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
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