「やるのか、やらないのか」
『 何事も挑戦するべし 』 という考えは、僕が箔押しの匠 佐藤勇から学んだ大きなことの一つ。紙に箔を押すことも挑戦と調整の繰り返しです。
「 図案が複雑過ぎて、箔押しの仕上がり予測がつかないもの 」
「 経験のない素材( 紙 )に箔押しする時 」など、
ドキドキする以上に 「 失敗したらどうしよう 」 という恐怖心が未だにあります。 例えそれが校正( テスト )だとしても、やはり怖いのです。お客様に喜んで欲しい気持ちが大きければ大きいほど恐怖心も膨らみます。
箔押しの匠 佐藤はそんな時も 『 まずは押してみる 』 ということを、僕が匠とはじめて出会った時からずっと大切にしてました。
「 押してみなくちゃわからないよ 」
「 成功も失敗も、まずはやってみなければ始まらない。やらなきゃゼロなんだから。 」
これは箔押しに限らず、僕らの日々の生活や仕事全般にも言えることだと思いますが、「 まずは一歩踏み出してみる 」「 まずは自ら挑戦してみる 」 という、シンプルな事だけれど難しい行動は、考えさせられることが非常にあります。
匠のそばで、仕事や困難に向かっていくその姿を見続けて感じた、失敗を恐れる心に立ち向かうためのキーワードは 『 相手( お客様 )が喜んでいる姿を想像できるか 』 そして、『 自分自身が仕事にどっぷり浸って熱狂しているかどうか 』 ということでした。
むずかしい箔押しを前にして、お客さんの喜ぶ笑顔を想像して、毅然とした一歩を踏み出す。
簡単なようでいて実は難しいことです。
成功や上手く出来たことは一瞬のことで、その前には山のようなトライアンドエラーを味わってきました。しかし、思い返せば、その失敗こそが困難な仕事に向き合い 『 挑戦 』 し続けた者だけが得られる貴重な財産のように思われます。
僕は 「 やるのか、やらないのか 」 という選択肢を突きつけられた時に、ちょっと勇気を出して踏み出し、挑戦してみることで、多くの失敗とほんの少しの成功を、箔押しの匠 佐藤と共に体感することが出来ました。
「 何もしないでゼロ 」 じゃなくて良かった。
うまく行かなかった時、たくさん失敗した時、匠は僕ににっこり笑って 「 すまんな。また別の方法考えてみるか。今日は一緒に呑んで帰ろう 」 ということもありました。
しかし、絶対 「 もう無理 」 とは言ったことがありません。
顔では笑っていましたが、意外と負けず嫌いな匠は心の中では悔しがって泣いていたかもしれません。
こうして思い出してみると、一歩一歩、あがいていたなぁ、ゼロじゃなかったなぁと込み上げてくるものがあります。挑戦し、数多くの失敗を経て、その都度反省や軌道修正を繰り返し、一瞬の成功を手にする。
僕と匠の仕事はこんなことの繰り返しでした。
何年かすると、未経験の箔押しでも経験則から 「 失敗か成功か 」 がなんとなく予測できるようになりました。失敗する可能性の高いものを避けて通ることもできるでしょう。しかし 「 やるのか、やらないのか 」 と問われたとき、僕はできるかぎり 「 やる 」 と答えたいと常日頃思っています。
僕は、失敗を恐れて挑戦をやめてしまうのは、失敗を繰り返す以上に苦痛だと感じます。挑戦の先にあるほんの一瞬の成功と、お客様の喜ぶ笑顔は、今や僕がこの仕事を続ける上でも大きなモチベーションのひとつになっています。
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