NASAの火星住宅コンテストで優勝!氷の家を考えた宇宙建築の仕事
【仕事内容】昼はオフィスや住宅などの実務設計、夜は未来の建築にむけたプロジェクトに携わる
公共建築、店舗、オフィスや住宅などの実務設計を行う傍ら、宇宙建築等の提案と、宇宙建築のアイデアを取り入れた新しい形の地上のプロジェクトの設計を行っています。
火星の住居コンペをきっかけに徐々に私たちの提案が認知され、現在はそれが新しい形の具体的なプロジェクトとなって業務の3つ目の柱となって来ています。
まず4名がわずかか93㎡で一年間滞在するという設定です。
この時、建設材料は現地素材を利用する事が条件の1つでした。
そして放射線の強い火星表面で宇宙飛行士が到着してすぐに安全で効率良く作業できるよう、無人機を送り3Dプリントにより自動建設を行うという条件で提案が求められました。
わたしたちのチームは、氷を使った「MARS ICE HOUSE(火星の氷の家)」を提案し、優勝しました。
水(水素)が、宇宙放射線遮蔽に大きな効果があるという実験結果を見つけました。
ただ、気圧の低い火星では氷は地球のドライアイスのように昇華して、時間が経つと消えてしまいます。この点もさらに調査と検討を重ね、NASAがすでに宇宙で使っている実績のある素材などを改良・補強して採用する事で、必要な条件をクリアできる事がわかりました。
コンペは大手事務所も参加していましたが、私たちのような小さな事務所でも、革新的でクリエイティブなアイデアが評価されたのはとても嬉しいことでした。
これをきっかけにNASAのLangley 研究所の研究チームと共同で、この氷を用いた火星住居のコンセプトを発展させた「Mars Ice Home」の設計を進めています。
NASAとの共同設計の「Mars Ice Home」については、光が入り眺めの良い空間にするため、氷を外壁として使うコンセプトはそのまま、より効率的に放射線を遮ることのできる建物の形を考えています。
すでに性能が確立している素材や技術を用いて、より安全で効率的に施工できるように計画しています。
現在は材料をISSの外においてどのくらいの劣化が見られるかの実験(曝露実験)が終わったところです。
また、宇宙建築のアイデアを地球に逆輸入したプロジェクトもあります。JAXAとANAが共同で立ち上げた、遠隔ロボット“アバター”の技術を発展させるプロジェクト「AVATAR X(アバターエックス)」で2018年に宇宙開発関連研究施設とキャンパスの提案を行いました。
主催者側からは特に宇宙や未来をイメージし、体験出来るものがほしいというリクエストがありました。
なので、宇宙建築の技術や設計手法を逆輸入する事を考え、”浮いている建築”を提案しました。クレーターの端にケーブルを4箇所から張ってダイヤモンド型の建物を浮かせています。
この方法で建築することによって、地球上での通常の建築のような平らで安定した場所を探し土台を作るという手間が省けます。
コロナ渦の前はオフィスに行って仕事をしていましたが、最近はリモートがメインになっています。また、子供がいるため、朝の時間を活用したスケジュールにしています。
早朝4時~6時にメール対応等の事務的業務から始め、学校の送り迎えを終えた9時頃から本格的に業務開始です。メール対応、図面作成、3dモデルや模型作成などを16時までやります。その後の時間は、子育てと家事に時間を使っています。
以前は年に数回日本に出張で来て、打ち合わせや現場回り、時々レクチャーをしていました。
パンデミックで、ニューヨークの経済は一度止まったのですが、日本の経済は止まらなかったこともあり、遠方の日本の案件はリモートで継続できました。
リモートという選択肢ができたことで、遠隔地プロジェクトとの距離が相対的に近くなり、リモート前提での新規設計依頼や新しいタイプのプロジェクトの依頼が増えるなど、仕事の幅が広がったと思います。
今年は3年ぶりに日本出張も再開しています。
基本は夫の曽野正之と、オスタップ・ルダケヴィッチと私の3名です。曽野正之とオスタップが2010年にニューヨークで事務所開設、私は設立当初は大学院生でプロジェクトベースで働いていました。
意匠設計、実施設計、レンダリング(デジタル図面)や模型作成など設計に関わることをすべて3人で行なっています。
プロジェクトが立て込んでくると、3dモデルや模型作りなどをインターン生に手伝ってもらうこともあります。
火星住居コンペの時にようにアメリカはおもしろいアイデアであれば、規模や過去の実績関係なく採用する文化があります。アイデアが形にしやすい点においては、非常にやりがいを感じます。
事務所が小さいので、きっちり役割分担をせず全員が全ての業務をこなす必要があります。
同時並行でいろいろなプロジェクトを進めているため大変ではありますが、その忙しさも楽しい部分ですね。
【きっかけ】京都・町家の空間に感動したことがきっかけ
京都出身なのですが、中学時代に市内中心部の商家の友人の家に行き、古い町家を見てとても感動したんです。
町家は、外から見ると間口が狭くて小さく見えます。
でも、一歩入ると土間、大きな吹き抜け空間の通り庭や坪庭と、限られたスペースに豊かに積層した空間が広がっていて、そこに感動しました。
今思えば、限られた空間に機能と人間の住む豊かさの両立を考える宇宙建築に通じるものがあったかもしれません。そこから空間を創る仕事をしたいと思ったのがきっかけで、大学で建築の道に進みました。
大学卒業後に数年住宅設計をした後、アメリカのデザイン教育の幅広さや建築家としての職能の違いに触れ、建築活動の場をアメリカに移すことに決めました。そこからニューヨークのコロンビア大学院を志し、2015年に修士を修了しました。大学院在学中と卒業後、Clouds AOの他にも、ニューヨークの複数の建築デザイン事務所に勤め、設計を身につけました。
子供の時から宇宙は好きで、小学生の時は星座や宇宙の図鑑をよく眺めていました。その時は宇宙はまだ遠く、自分が行ける場所と思っていませんでしたが、はじめて自分達のような一般の人も行けるかもしれないと感じたのは、コロンビア大学院での授業でした。
在学の3年間のうちに6つのスタジオプロジェクト(設計課題)に取り組みましたが、そのひとつで宇宙建築をテーマに選びました。宇宙空間での設計は、重力等の地球上では当然だった条件を見直し、建造物や人間が住むことが可能なのミニマルな空間は何かなど、建築をゼロから考えるので、とても面白かったんです。
【プライベートについて】いろいろな土地に行き、人や建物を見ることがリフレッシュ
プライベートは子ども中心ですね。私は職業柄、いろいろな場所に行って人や建物を見て気分転換をすることがリフレッシュになります。今回の来日では福岡、東京、名古屋、和歌山などに行く予定です。
子どもたちの好きなことを伸ばしてあげたいなと思っています。2歳と5歳の子どもがいるのですが、5歳の息子はロケットが大好きなんです。
特にSpaceXのロケットがとても好きで、ロケットの種類や違いについて私にいろいろと教えてくれます。笑
家庭内でも宇宙開発のニュースを話題にすることが多いので、宇宙に関する情報に触れることが多いのも影響しているのかもしれません。
子どもが好きな事を自分で追求できるよう、さりげなく子ども用のロケットの本などを増やしてあげたりします。
仕事や家庭において、何かタスクがあればその時々にできる人がやれる事をやるという役割分担意識をそれぞれが持っていると思います。
また、お互いに一人の時間も大事にしています。
小学生の時は、近所の男の子と鬼ごっこするような活発な性格でしたね。
家の中や外に秘密基地もよく作っていましたし、工作も好きでした。子ども時代の環境も今につながっているのかもしれませんね。
【これから宇宙を目指す方へ】
宇宙建築の提案を今後も進めていきますし、宇宙建築で得た知見を地上の建築にも生かし、どちらの分野でも新しい建築を提案していきたいと思っています。宇宙建築を通じて、地球のことをさらに深く知ることもできます。
これからは誰もが宇宙に行く時代になってきています。
建築業界に限らず、いろんな業界での活躍がこれからの宇宙開発に繋がっていくと思います。
ぜひご自身の専門分野を生かして、宇宙に関わっていって頂けたらと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〇宇宙のお仕事図鑑とは?
このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。
宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。
文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで、「宇宙のお仕事」をこのnoteで発信していきます。
〇コスモ女子とは?
「コスモ女子」は、宇宙業界で活躍したい女性中心のコミュニティです。
宇宙に関する知識を身につける「宇宙の基礎講座」や、宇宙に詳しくなくても楽しめる交流会などのイベントを毎月開催!
コスモ女子から発足した、コスモ女子アマチュア無線クラブが人工衛星を2024年に打ち上げる予定です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?