白杖使用者の冒険―まるで思わぬ奇跡のご縁

本日、非常に面白いご縁。

午前中に一件、出かけの用があり、その後、最寄り駅まで帰ってきてから、歩いて隣町へ。
この時、途中まで(非常に短い距離ではあったものの)試しにバスを使い、下車後、そのまま向かうと1時間弱も早く着いてしまう、時間が中途半端だった。
かといって一度帰宅をして食事をとるほどの合間はなかったため、ではバスを降りた辺り(何度か歩いてきたことはある場所だったので土地・道という意味ではそれなりに知ってはいたが)で、知ったチェーン店があるのでそこで食事をしていこうか…、と、思ってはいた。
ただ、ひとりで入ったことはないし、店内も広く、品書きも多く、チェーン店であるのでどれほど対応してくれるかわからず、不安はある状態で、とにかく行くだけ行ってみるかという心持ちだった。

バスを降りたあと、どの辺りに停車したのだろうと思いながら目的の方向に歩き出すと、横からすっと入ってくるように「どこに行くんですか、一緒に歩きましょうか」と女性。下町の気さくなおばさまという雰囲気。

少し歩いた先の大きな横断歩道が、音響もなくわたりにくいものだったので、そこまで連れて行ってくださった。
そして、私の立ち寄ろうとしていた店がその辺りにあったので、「実は目的地は更にここを真っ直ぐ行くのですが、約束の時間まで余るのでこの辺りで食事でもしようと思って…この辺りに確かファミリーレストランがあったなと。ですのでもう大丈夫です、ありがとうございました。」
と言うと、
「ああ、食事して行かれるんですか。ファミリーレストラン…ああ、そこ(行く方向の道路より少し左にそれたところ)にありますね。そこまで一緒に行きましょうか。ちなみに私はここから道路沿い(本来行こうとしている目的地の方向)10Mくらいのところのお蕎麦屋さんに行きます。ああ、そのお蕎麦屋さんの先にはとんかつ屋さんがあります(笑)」

なんと。ガイドさんかこの人は。

下町人情ありがたく、私がとりあえずどこか立ち寄れそうな店を探していることを知って、そして自分もこれからひとりで食事をしに行くというところで重なったため、教えてくださったのだろう。

そこで成り行きでどんな蕎麦屋か教えてもらうと、小さな老舗で店員も愛想がとりわけ良いわけではないが親切だし、常連が多く、男性でもお腹がいっぱいになる量の割にリーズナブルだと言って、いくつか品書きと値段まで教えてくださった。(よく覚えている…笑、と思ったら、この方も良く来る常連の域の客のようだ)
会話の中で、知らない店に入るのは心配がある、そのファミリーレストランも知っているから行こうかと思ったけれど、何年も前に1度入っただけで、というような思いも出し、しばらく会話しながら迷った挙句、どの道ちょうど地域に繋がりを広げたいというところでもあったし、せっかくなのでその店を案内していただくことに。

その方、なんと(ガイドさんなどではなかったのだが)、じゃあ一緒に行きましょう…と歩き出してすぐ気付いて、わざわざそこの誘導ブロックから伝って、ここに水道管のフタがあって、3歩くらい歩いて…あ、そこでちょっと左側を探ってみて、マンホールがあって(要するになんと路面情報での目印を一緒に探して教えてくださっている)、そこから3歩くらい進むと左側がもう扉です。
扉、ご自分で開けてみます?…はい、うん、そこのもうちょっと右に取っ手が、そう、それです。

店内に入ると、すぐ右手の扉に一番近いテーブルと椅子に触れさせてくれ、そして一度この方は別の席に座るため離れた。
やはりしっかり常連さんだ、店員さんが見知った口ぶりで、「あ、別々だったんですね」「そうなの、案内してきちゃった」「ありがとうございますー」というような会話。頼むものもいつも決まっているようで即座に注文をした後、私のテーブルのところへまた来て、「メニュー読みましょうか。読みますね…」と。そのうちすぐ店員さんも来てくれ、メニューの説明をしてくれ、無事注文。
そしてそんなうちに、成り行きで相席に。結局私の前に「じゃ、今回は相席ということで、失礼していいですか?」と気さくに笑いかけながら座ってくださった。
その後も、私の行く先やどれくらい歩いたら着きそうかなど聞いたり携帯電話で調べたり、店員に聞いてくれたりなど。
注文した料理が運ばれてくると、「あ、そのまま右に手を伸ばしてください、もうちょっと、そう、そこにね、割り箸立てがあります」と口案内で教えて自分でとらせてくださり、「七味、使います?あ、七味はちょっと遠いから…今回は私がとりますね。これがその容れ物で、上側触ってみて…そこが出てくる口です。」

ここまで親身に、ここまで自然な当たり前のこととして説明してくださると、私も、ああ、気にせず私の自然で私のやり方で自分でやっていいのだと、骨の髄からじんわりしながら、
……ん、七味はどうやって入れればいいだろうか。よし、と、アルコールと紙で手を消毒してからそこにあったレンゲ(蕎麦屋の大きい匙はなんというのだろう…)に七味を、指先でどれだけ入ったか確認しながら入れていると、「ああ、なるほどそうやって入れるのね~。教えて頂いたわ」と。

そこからまた、「いや、私も習ったわけでもないので自己流なのですけれど。料理中の調味料とかだと手のひらにとって入れるんですが、外食だと手のひらで直接計るのはちょっとやはりね…」などとまた会話が進み、その食事中、私がここ数年、桜見と山菜調達で恒例となっているところの近くにお住まいだったために、そこの商店街の話題や桜の寺の話に。そこに行くにも商店街の人混みを避けた上で更に美しい景色を堪能できる行き方や、行くにしても夕日の頃がいい、西向きの坂にあるからその光で桜が一層濃くなってすごく美しいの。そしてその頃には観光客も大抵帰っちゃう時間。地元民だけが知ってる、穴場です。近くにこういう寺もあって、そこの桜も絶品、ここもね、穴場♡

…などなどと、まあまあ、流石下町ではあるが、なんとこんなところで、何とも初対面の方と初めての食事処へ行き談笑しながら食事をしてしまった。

「道で助けていただくことはあるけれど、まさか食事処を教えていただいたのは初めてです(笑)」
「私も、自分のマンションの下がちょうど分かれ道になっていて迷っているらしい人とか良く見かけるし、駅とか横断歩道とかでお声かけることはあるんですけど(道理で手引きが当事者目線で親切なはずだ)、こうしてお店に連れて行ったのは初めてです(笑)」

これから向かうのは精神障害者用の支援センターで、身障者認定はされていないのだというような話も成り行きで出していたので、「良い情報に出会えるといいですね」とか、ちょくちょく「おしゃべりな人に当たっちゃってごめんなさいね」などと仰っていたのだが、
「いえいえ、とても楽しいですし、思わず今日はとても良い情報を得られました。こんなお店がこんなところにあったなんて(笑)」というところが実際本心の感想だ。

そこまで頻度は多くはないが歩いて来るところだし、そもそも今後とも支援施設に通うことがあれば通り道だ。
しかも小さな老舗で常連も多い(実際、下町らしい雑談のような会話が店員と客の間で飛び交っていた)ところであれば、店員にも他の常連さんにも覚えていただきやすいだろうし、もしかしたら地域に根付くためのご縁にも繋がるかもわからない。
何より、店を出る時(相席のおばさまは先に去って行かれたのだが)、ぜひまた来たいと言うと「ぜひまたどうぞ。ご案内しますので。」と言ってくださった。

実を言えばまさにちょうどこの辺りで、1年程前からか、地域に繋がることができるような行きつけの店でも作りたいと、探していた時期すらあった。
この店のまさにすぐ裏の通りのカフェに一度行ってみて、ここはあまり来ないだろうな…それにあまり関係性になりそうにないななどと、やっていたくらいだ。
下町の良い関係は、やはりインターネットやら外側からよそ者のように探す情報ではなく、下町の暖かい心の中で経由して繋がるものだ。

その後の支援センターも、事前の電話で頼りなかった割に、私にとってはある方向では随分、整理や安定のための助けとして利用できそうな印象を受けた。
しかも、少し遠いと思っていたが、その遠さが、逆に、散歩にちょうど良い。しかも、土地としても散歩や散策に良い場所の上、家から良く知っている誘導ブロックもある大きな通りの一本道であるので、”定期的に自分で行くと決めて”時々散歩がてら通うには、誂えられたようなものだ。
視覚もあれば性格もあり生活上もあり、極力外出をしない生活になってしまっていることは精神面でも生活面でも課題であったのだから。考えようによってはまさにその対策、その改善のために用意されたようなものだ。

更には今回のような思わぬご縁で嬉しい印象を紐づけられ懐柔されたら……(笑)

時間が中途半端になったことも、すべてすべて含めて、このために、準備し、導いてくれたのだろう。

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