白杖使用者の「これをされると困る!」こと

視覚は人間(特に現代人)にとって、外界の情報を取得判断する8割以上を担っているといわれます。
つまり、「視覚優位」で生きているひとと、「視覚以外の感覚」で生きているひととでは、「異文化にいる」と言っても過言ではないほど、かなり常識的な部分が異なります。

更に、現代の日本社会は、晴眼者が作った晴眼者ベースの、「晴眼者が視覚優位に使って便利な(やりやすい)」社会となっています。
(セラピスト的感覚からも更に言ってしまうなら、現代の社会システムはどんどん晴眼者が「視覚以外の体感」を鈍らせるよう感じなくなるようにも進ませようとしている側面があるので、「視覚」を使わないと他の感覚だけでは非常に難しい仕組みになっていることや、「視覚のみ」でしかわざわざできないようになっていることすらも、どんどん増えています。)

まあ、本日の記事はそんな話題ではありません。

そんなわけで、晴眼者から見たら当たり前でついつい良かれと思ってやってくださることでも、視覚障害者にとっては寧ろ危険に放り込まれるという場面、実はものすごくたくさんあります。

そんな記事も、「白杖使用者の「これをされると困る!」こと」として、発信してみようかなと思います。
マガジンにもわけてみようと思いますので、ぜひご活用いただけたら嬉しいです。

さて。今回は、とある体験をもとに、いくつかの例をお話してみたいと思います。
本日の内容は主に…

・無言離席、その逆(無言でいつの間にかそばにいる!)は非常に困る!
・白杖使用者をつかんで引っ張るのは恐怖だし危険!(増してや持ち物や服は論外!)
・空間に放り出さないで?!(特に不安定な場所や場面は論外!!)

です。


ある日、地下鉄の改札で、駅員介助をお願いしました。
係の者を呼びますねと言って少し待ちましたら、他の駅員さんが来てくださり、ホームの電車の乗り口が目の前にくる場所まで連れて行ってくださいました。

「ちょっと待っててくださいね」と、声をかけてから先方の駅に連絡しに行き、これは大変ありがたかったのです。

が、その後、駅員さんが真横に帰ってきたのに気付かずぼけーっとしていたら、突然また真横から

「またちょっと待っててくださいね!」

驚いて飛び上がってしまいました。(笑)


はい、私はあなたがお帰りとも気付かずずっと待っておりますです、戻ってきたことも知らせずに、「またちょっと待っててください!」だけ叫ばれましても!笑

職業柄もあり私は身体反応や行動など非言語にはびくっとしたのはあまり出ませんので、恐らく駅員さんには何も気付かれておりません。
しかし、実はかなり飛び上がりました。

白杖使用者は、しかも周りの騒音が大きくてあなたの足音や気配を聞き分けることが難しい場合や、「離席」を声かけてくれたのに「戻った」ことの声かけがないというのは(無論その逆も、どちらもない、というのも)、ものすごく心臓に悪いです。
びっくりしますし、一緒にいる人が突然知らない間に自分のそばから消えていたり、いないと思っていたのに突然いて実は真横や真後ろや正面からじーっと見ていたりするわけですから、恐怖ですし信用問題にすら響きます。

白杖使用者と一緒に時間を過ごしてくださる場合は、
「そばを離れるときや戻ってきたときは、必ず声で白杖使用者に伝えて」ください。お願いします。
私はホームで、駅員さんに「待っててくださいね」と言われているのかいないのか、騒音の中ではっきり聞き取れていない状態でそばをしばらく離れられることも実は多いのですが、これ、場面によっては、ものすごく危険です。


そしてこの後、もう一つ、かなり驚いたことが。
ホームの乗り位置まで連れて行ってくれた時はこの駅員さん、私が背中に触ってついていく形でなかなか安心誘導してくださったのですが、電車に乗る時、「はい、進みますよー」と声はかけてくれながら、なんとまさかの、私のダウンジャケットの裾を掴んで車体へ接近!

表情や反応に出ない流石の私も慌てて、「すみません!掴まらせていただけると…!」と、駅員さんの肘を掴みなおしました。
しかしこれ、既に電車が目の前でとまって、ホームドアがあったからまだ良いものの、中から大勢の人も出てきている中で、すぐ至近距離の車体に近づいている、しかも既に歩き出しているときのことです。
ものすごく危険なシチュエーションです。

白杖使用者の腕などの身体を掴んでロックしたり(=何かあったとき本人が自分の身を守るための咄嗟の動きが封じられる)、更にはそれをひっぱったりすることは、”やってはいけない”とか”こわい”とか以前、以上に、「当事者・誘導者ともに大変危険である」ということは、既に今までの記事でも何度か書いています。(ぜひマガジンの「視覚障害の歩き方」に振り分けている記事などもご参照ください。)

増してや、白杖をつかんだりすれば、まるで晴眼者にとったら眼球をがしっと動かせないようロックされたり突如目隠しをされるようなもの、持ち物をつかむなんてことも、身体以上に論外です。
目隠しされてリュックの取っ手やら服の裾やら掴んでホームのほうへ引っ張られたら(しかも「生まれて”見た”ことのない、自分がどこにいるか、車体までの距離などもわからない、足元に何があるかもわからない」場所で)、どう感じますか。
恐ろしいばかりだけでなく、服の裾や鞄を、つかまれているかどうかもはっきり認識できないような状態で(服や鞄には神経感覚はありませんからね!)ひっぱられて、もし足元の何かにつまづいたり、片足が電車とホームの隙間や段差などから落ちてしまったら。そして「つかまれている」ために、私から手を離すこともできない。白杖使用者側だけでなく、誘導者も道連れに2人とも大けがや命の危険にすら繋がるのです。

白杖使用者と一緒に歩く際は、
「必ず白杖使用者側にあなたの肘や腕や背中などをさわらせて」ください。


さて、実はこの次、電車に乗り込みました。
乗り込むと、座席どころでなく手すりにすら触らせてくれず、私が車内に入った、というだけのところで、「では、お気をつけてー」と、手を離されました。
実はこのとき、私からすれば、何もない空間に放り出された状態だったのです。
まるで雲の上に放り出されたかのようだ!

安全確保のため、とにかく斜め後方(ドア横のあたり)へ腕を伸ばして手すりを探したら、乗客の男性が、「良かったら座ります?」と声をかけてくださり、一番近い端の座席に座らせてくださり、やっと安心しました。


誘導していただいているとき、「ちょっと待っててくださいね」とか、別れ際に、突然、(白杖使用者の感覚からしたら)平坦な地面以外何もない、正確な自分の身体の向いている方向もわからない「空間」で手を離されることがあります。
これは、非常に怖いですし、やはり、ここまで善意で助けてくださったのに手を離してくれた次の瞬間、私が一瞬の動きを誤り事故にあってしまうなどという可能性があります。

お願いです。
白杖使用者の誘導では、
数分以上そばを離れるときや別れ際は、空間でいきなり手を離さないでください。」
「数分以上そばを離れるときや別れ際は、白杖使用者自身が自分の場所や身体の向きを把握できているか、コミュニケーションの中で確認してから」離れてください。
もしそうでなければ、「今〇〇の場所で〇〇の方向を向いていますよ」などと軽く説明しながら、壁や手すりなどわかりやすいものに触れさせてくださるというかたちでもかまいません。もちろん、必ずしも壁や手すりでなくとも、誘導ブロック上の位置を確認させてくれるでもかまいません。
あくまで、あなたからも「白杖使用者が安全に行きたい場所へ移動できる」ために誘導してくださっているのでしょうから(まさか「目隠しをされた人を本人が知らないところに連れて行く」つもりではないでしょうから)、「本人が自分のいる場所や自分の身体の向きがわかっているかどうか」がゆいいつのポイントです。
晴眼者同士でも、知らない所へ連れて行ったら、わかれるとき、本人がわかる場所や、「この道をこの方向にまっすぐ行ったら〇〇だからね」などとお互い確認してわかれますよね。ただ、「視覚での情報取得ではない人」は、そのために”必要な情報”の種類が、ちょっとあなたと違う可能性がある、というだけなのです。



何の気なしかもしれませんし、もしかしたら別の考えで「良かれ」と思ってやってくださることもあるのかもしれませんが、白杖使用者側は、「こうやるものだから」とか「ルールだから」「視覚障害は神経質なんだな、やっていけないこととか、気を遣ってやらないと」などではなくて、「手伝ってくださるからこそお互いが安心安全に、そして手引き者側も白杖使用者側もやりやすい方法でできるため」に、こうしてくださいと提案したり、発信しています。
表面的な印象でたいしたことがないように見えても、「実際どうなのか」を知っているのは、体験しているのは、当事者たちです。しかも我が身の安全のためだけではありません。

どうか、あなたがもし困っている人を見かけてはっと駆け寄ってくださったときにご自身の安全を守るという前提的なことができるためにも、あなたのホスピタリティが本当に「犯罪や危険行為」ではなくて「ホスピタリティ」として伝わりあたたかい交流やあなた自身の人生・こころにも暖かい火がともりながら生活できるためにも、もし少し興味を寄せてくださって、知ってくださったら、大変うれしいです。

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