視覚障害者にとっての”正面”ー音声会話なのにも拘わらず視覚障害者に起こる「コミュニケーション困難」
これも、最近あるかたと話にのぼりましたので、共有させていただきたいと思います。
ヒトの五感の中では、「視覚情報」は、外界の情報認知の全体の8割を占めるといわれています。…とはいえ、その視覚情報も、数パーセントしか受け取っていないのではありますが…。
つまり、言ってみれば、晴眼のかたの場合は、日常では聴覚情報よりも視覚情報に頼っているのです。
研究においても、例えば「ga」(口が開いたまま)と発音した音と同時に「ba」(唇が一度閉じる)と発音した口の形の映像を見せると、多くのひとが視覚情報に左右され、「da」(口の中の一度閉じる接地位置がgaよりも前であるため、唇を閉じた時の音に少し近い)と聞き取ったり「ba」と聞き取ったりするという結果もあります。
つまり、目の前の人がしゃべっている話声の音声すらも、ひとは視覚重視で頼っているのですね。
そして、そのため(同時に教育もありますが)、晴眼のかたは、人と話すとき、相手の目や口、顔を見て話すことでしょう。
つまり、例えば喫茶店などで相手と向き合っておしゃべりをしていれば、相手の顔を向くことが、”正面”(正面を向いている自覚)となるわけですね。
そんなこと、当たり前だろう、と、思うでしょう。
視覚障害者は…いや、もちろん人によりますから全員が全員そうとは限りませんが、しかしきっと多いのではないかと思っているのですが、私は、向き合っている人と話すとき、大抵自分がその”正面”を向くことができていない、寧ろそれを保持すると大変・苦しい・会話自体がしにくい、ことに気付きました。
これまた、言われないと気付きにくいことでした。
結論から話しますと、
私はオンラインのZOOMでカウンセリングなどしていることが多いですが、この時、どうも私はまず、画面(PC備え付けのカメラ)の方を向いていません。
まあ、これは常にPCカメラの位置を視覚で意識できないのである意味当たり前なのですが、ではどこを向いているかというと、
「(多くの場合)私の利き耳」が、「スピーカー」の方を向いているのです。
私の場合、手や足も恐らく左利きなのですが、なぜだか右耳を相手に向けていることが多いようです。
そして、オンラインの場合はなおさら相手の気配もなく、ただただ相手の声がスピーカーから聞こえてくるため、気付けば私は耳をスピーカーの方へ向けている、そして私としてはそれで、相手と真正面同士で向き合っているつもり(感覚)になっているのです。
対面の場合も同じで、どうやら相手が向かい側にいる場合、気付くと耳が相手の方へ向いています。なにせ、それで「相手の方を向いている」つもりなのです。
そのため、どなたかと喫茶店や食事など行くときは、隣のほうが向き合っている感覚でお話しやすいです。しかも、テーブルなどを挟んで向かい側にいると、気配が遠くて相手が何をやっているのか感じにくいというところもあります。
なにせ、私にとっては「顔の前面」では匂いくらいしか感じ取ることができませんから、どうしても”顔を相手に向ける”ことが難しいようなのです。
気付いてみれば、道端で通りすがりの方に声をかけていただくときも、真正面から声をかけられると、自分に声をかけられているのかどうか、よくわからないときが多い。真横から真っ直ぐ耳めがけて声をかけてもらえると、「ああ、自分に向けて話しかけられている」とわかりやすく、反応しやすいのです。
私にとって正面は、「耳」なのだと、改めて気付きました。
もうひとつ、この記事で気付きをお話したいと思います。
晴眼のかたで多くのかたは、きっと「視覚障害者は耳は大丈夫だから、音声での会話なら問題ないはず、円滑にコミュニケーションできるはず」と、思うでしょう?思いませんか?
最近、3名以上でお会いすることが増えています。
喫茶店などで例えば向かい側に2人座って3人で会話していると、どこを向いていいのかわからなくなります。(笑)
気が付くと勝手に耳が声を追ってあっち向いたりこっち向いたりしています。
ずいぶんきょろきょろしているなと、慣れていないかたには思われるかもしれません。
そして…3名以上での席だと、私に何か話しかけられたり聞かれたりした時や、私のことについて話をされているとき、話が良くわからなくなったり、数秒ついていけなくなることが多い、ということもわかってきました。
いや…思えば昔からたまに大勢で話すときにはそもそもまったく話についていけずぼけーっとしていたなと思うのですが。恐らくそういうことだったのかもしれません。
晴眼者同士の会話では、例えば無意識に当たり前のように目配せやら手ぶりなどで誰のことを話しているかわかったり、目線で「自分に向けて話しかけている」とわかるのでしょうね。3名以上の会話だと、いちいち話の内容で誰のことを話しているのか、その人の名前で言ってもらわなければ誰の話だか良くわからないまま通り過ぎて行ってしまったり、自分に話しかけられたときに反応できなかったり、そんなことが多いのだな……そしてそんなことを知らない間柄だと、それは耳の問題だとか脳の反応速度の問題だとか、「視覚以外」の問題だと思われても無理がないなと、感じたのでした。
実は視覚情報取得困難による、コミュニケーション困難なのです。