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最近の化粧品における美容成分濃度と有用性の議論について思うこと

こんにちは、コスメ学長です。
最近は美容成分とその濃縮度合いや浸透性を強調する風潮がより高まり、「成分をどれだけの濃度で配合しているか」をアピールする化粧品が増えていますね。また、高濃度であることの重要性をめぐる議論も盛んです。
そこで今回は、化粧品における美容成分の濃度とその効果の関係について、私なりの考えを書いてみました。現在2025年1月5日(日)の23:00頃です・・・明日からまた通常勤務で研究開発業務が始まります。


化粧品の定義について

まず初めに、化粧品については効果を追求する議論やさまざまなロジックが生まれていますね。
YouTubeなどでは、驚くような効果が期待できるといった表現もよく見かけます。そのため、化粧品の本質的な定義について改めておさらいし、皆さんに正しく理解してもらいたいと考えました。
化粧品は、法律で次のように定義されています。

「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なもの」(医薬品医療機器等法 第2条第3項より)

目的は理解できると思いますが、重要なのは最後の言葉です。
「人体に対する作用が緩和なもの」とは、つまり、化粧品にアンチエイジングや美白などの高い美容効果が求められているわけではないということです。極端な言い方をすると、化粧品は「効かなくても法律違反にはならない」という性質を持っています。
化粧品で謳える効果や効能の詳細については、以下の記事を参考にしてください。

化粧品と医薬部外品で謳えること

化粧品を開発している化粧品技術者は、このような法律で定められた「ふわっとした」化粧品の定義の中で、いかにして美容効果を発揮させるかを日々追求しているのです。

そんな開発現場では、「本当に皮膚に浸透させて効果を発揮させたい」という思いと、表現の制限の中で「あたかも効果があるように見せたい」という意図が、まるでヤジロベエのようにバランスを取りながら製品作りが進められています。

「化粧品の浸透」に関する表現でよく使われる「角層まで」という言葉も、日本化粧品工業連合会の「化粧品等の適正広告ガイドライン」で許容されているボーダーラインです。
この表現は、「化粧品は生きた細胞が存在する角層より深い部分には浸透しない」という前提に基づいています。ただし、法律上で「浸透させてはいけない」と明確に禁止されているわけではありません。この点が誤解されることも多いのが現状です。

結果として、角層より下に浸透するとは謳っていないものの、実際には生きた細胞域にまで浸透して作用する仕組みを説明している化粧品も存在します。これが、業界内で暗黙の了解として許容されている状況を生み出し、効果や効能に関する議論に歪みをもたらしているのです。

近年、化粧品では成分や配合率を強調した製品が目立つようになりました。例えば、「ビタミンCを○%配合」といった広告を目にすることも増えています。正確にはデザインで濃度を遠回しに表現しているのですが。
しかし、化粧品は基本的に作用が緩やかで、成分の濃度保証や安定性の維持を求められるものではありません。つまり、そもそもその濃度配合しなくてもよいし、たとえ製造直後にはちゃんと○%であったとしても、時間の経過とともに成分が分解し、濃度が低下していても、法律違反にはなりません。さらに、わずか(例えば、0.0001%)な配合でも全成分表示に記載できるため、メイン成分のように高濃度で配合されている、もしくは高い効果があるように見せかけている場合も少なくありません。
このような現状を皆さんには知っていただきたい。

化粧品の有用性

これも、皆さんに理解していただきたい概念です。効果ばかり追求すると、この考え方を忘れがちになり、結果、肌に負担をかけたり皮膚トラブルを起こすことにもつながります。
化粧品や医薬部外品の美容効果を評価する際には、しばしば「有用性」という概念が用いられます。化粧品の有用性は、われわれ化粧品技術者のなかでは以下のように考えられています。

有用性 = 有効性 + 安全性

効果の高い成分や高度な皮膚透過技術は、美容効果を高める一方で、安全性にリスクを伴う可能性があります。たとえば、皮膚細胞に強く作用する場合、細胞が通常とは異なる刺激を受けることで良い効果が得られることもありますが、同時に過剰な活動を強いる結果になることもあります。さらに、良い効果が過剰になると、かえって問題を引き起こす可能性も否定できません。

特に、皮膚透過性を高める技術には注意が必要です。
一部の技術では、皮膚バリア機能を一時的に緩めたり低下させたりする方法が取られています。本来、外界から体を守るバリア機能を介して成分が浸透するということは、そういうことになります。また、マイクロニードルのように角層バリアに直接穴を開ける技術も存在し、これらは皮膚にダメージを与えるリスクを伴う可能性があります。

そのため、美容成分や技術の「有用性」を考える際には、有効性と安全性のバランスが極めて重要です。理想的なのは、高い安全性を確保しつつ、有効性を十分に発揮させることです。

近年では、高濃度や原液タイプのコスメが登場し、美容成分を純粋かつ高濃度で肌に塗布する製品が増加しています。しかし、効果を追求するあまり、安全性が軽視されているケースも見受けられます。有効性が大きく「プラス」であっても、安全性が「マイナス」となるような製品では、結果として安全性リスクが高まることになります。

具体例として、ニコチン酸アミド(ナイアシンアミド)を挙げてみましょう。この成分は、2007年にP&Gによって美白有効成分として厚生労働省に承認され、2017年にはコーセーによってシワ改善有効成分としても承認を受けました。これらは、規定の濃度であれば安全性が認められていることを示しています。

医薬部外品の有効成分の濃度は、どのように決まるのでしょうか?それは、効果が確認された濃度であると同時に、ヒトを対象とした臨床試験において安全性が確認された濃度でもあることを示しています。
しかし、承認された濃度を超える使用では十分な臨床試験が行われておらず、どのような影響が生じるかは不明です。高濃度の安全性には懸念があるとの見解を持っているメーカーもある中、市場ではナイアシンアミド高配合化粧品も多数見られますよね。
個人的には、医薬部外品有効成分の濃度を超える化粧品を使用する場合には、そのリスクを十分に理解した上で選択することが重要だと感じています。
この点は、他の医薬部外品有効成分についても同様に当てはまると考えられます。

皮膚透過性の影響

化粧品や医薬部外品を含む外用剤の成分が、塗布後に角層を突き抜けて生細胞が存在する層にまで到達する度合いのことを「皮膚透過性」と呼びます。この透過性には、成分の配合量だけでなく、分子量や油水分配係数(n-オクタノール/水分配係数)などの物理化学的パラメータが影響を与えます。

一般に、分子量が500Da(ダルトン)以下の物質は皮膚に浸透しやすいとされていますが、その成分の性質(油溶性なのか、水溶性なのか)によっても左右されますので、一概には言えません。
また、角層が疎水性(油溶性)であるため、疎水性の成分ほど角層への浸透性は高いといわれています。しかし、その下にある生細胞が存在する層は親水性であるため、生細胞域にまで浸透して作用を及ぼすには、成分の性質だけでなく、化粧品製剤への浸透技術の工夫が必要です。

皮膚透過性の研究については、城西大学の杉林氏や藤堂氏のチームが先行して取り組んでおられ、我々も概念的に勉強させていただき、製品開発に生かしています。興味のある方は関連文献を読んでみると良いでしょう。

私たち化粧品開発者は、美容成分の濃度に加え、時間が経っても劣化しない成分の安定性を確保する技術、効率的に皮膚へ浸透させるベース処方の開発、そして安全性を損なわない配慮を総合的に検討しながら日々製品開発に取り組んでいます。
しかし、市場には、人気の美容成分を高配合することだけに重点を置き、安全性への配慮が十分とは言えない製品も見受けられます。中には、濃度ありきで「この美容成分を高配合するために、ここまでやるの?」と思わず驚くような製品も存在します。

お伝えしたかったこと

世間では「濃度合戦」ともいえるような議論が目立ちます。「〇%が高濃度だ」「これが適正濃度だ」「濃いほうが効く」など、さまざまな意見が飛び交っています。しかし、実際には成分の濃度だけではなく、それ以外の要素によっても化粧品の有用性が大きく左右されるのです。
この点をお伝えしたいと思い、以下にまとめました。

適正な塗布量の重要性

また、適正な塗布量を守ることも非常に重要です。皮膚刺激が気になる場合でも、何度も重ね塗りをすると、塗布量が必要以上に増え、成分が過剰に肌に作用することで刺激を引き起こす可能性があります。適切な使用方法を心がけることが、肌トラブルを防ぐための第一歩です。

有用性の評価基準

成分の有効性と安全性のバランスは、有用性を評価する上での重要な指標です。しかし、一部には有用性を優先するあまり、安全性が大きく損なわれている製品も存在します。肌への負担や刺激のリスクを考慮した上で製品を選ぶことが大切です。

成分濃度と浸透性の関係

近年、成分濃度だけが注目されがちですが、実際には浸透性の制御によって成分の効果や肌への影響は大きく変わります。
そのため、成分濃度だけを基準にするのではなく、製品全体の設計を総合的に評価する必要があります。

今回のテーマはやや概念的な内容となり、「では、具体的にどの製品や成分濃度のものを選べば良いのか?」という明確な指針をお示しするには至らないかもしれません。
しかし、重要なのは、私たちが伝える知識と、皆さん個々の経験を基に、皆さん自身が見極める力を養うことです。そして、何よりもご自身の肌と向き合いながら、成分濃度だけに偏ることなく、安全性が確保された高い有用性を持つ製品を選び、最適な化粧品に出会っていただけることを願っています。
皮膚透過性については、さらに専門的な内容も盛り込みながら日々の開発業務を行っていますが、今回はそのアプローチが存在することを知っていただくことにとどめました。
今後、関連するトピックについて紹介できる機会があれば、また記事にしたいと考えています。

最後に

明日から仕事始めの方も多いかと思います。
私もその一人で、明日から再び皆さんのお肌に役立つ高い有用性を持つ化粧品の開発に取り組みます!
これからも多くの方に手に取っていただける素晴らしい製品をお届けできるよう、全力で研究開発業務に励んでいきたいと思います。

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