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ノクターン
「本当に覚悟出来る?
人間として生きることを断つことになる。シホはそれでいいの?
すべてに対する嫌悪が前よりさらに増してる。」
「…そうだね。あの歌詞と同じ。」
「本当に俺との生活を覚悟出来る?当然、精神はさらに乱れやすくなると思う。」
「人間には見えないから?」
「そうだよ。それに他の人間と同じ生活じゃない。」
「うん…。
…すごく不安だよ。途中でやめたいって思うかもしれない。悲しみや苦しみに耐えられるか自信なんかない。
だって辛いのわかってる。
毎日泣くことになるかもしれない。胸のつかえはずっと取れないだろうし。
それでも、メイサと一緒に居たい。」
「俺だって不安でたまらないよ…。
難しいことは分かりきってる。不安にさせられるきっかけなんて山ほどある。
それに、あの人間の男に嫉妬心を持ちたくない。でも、どうしても敵わないっ。あの男は肉体を持ってる。
本当に羨ましい。悔しくて…たまらない。」
「たしかに彼のことは好き。嘘じゃない。でも頑張らなきゃいけない。笑っていなきゃ。
彼にすべては晒せない。
まして、私の今までの経緯を話しても理解なんか出来ない。理解して欲しいとも思ってないけど、彼は優しいから聞いてくれるし受け入れてくれるだろう。でも、分かち合うことは出来ない。」
「この先もシホの苦しみや悲しみ、葛藤を人間が理解するのは難しい。それでシホは…」
「だって仕方ないじゃない。気づいてしまったんだから。彼じゃ、たぶん無理。
唐突に感じたのよ。あの人じゃない…違うって。彼じゃなかった。
メイサだって気づいてしまった。」
「…シホは確信してた。人間の中に心から愛する存在を見つけるのは不可能だって。」
「だって本当に難しいと思う。人間はみんな演技してる。自分を偽ってるって気づかないまま死んでいく人もいる。
自分の真意を心の内を声を人間同士が晒すことってかなり少ないんじゃないかな。
でも、だから生きていけるのかもね。知らない方がいい。」
「………。」
「でも、何が起こるか解らないのが人間だね。彼の変化が思ったよりも早いから驚いてる。」
「あの男の成長にはたしかに驚いてる。シホの愛を受けて変化してる。」
「この先どうなるかまったく解らない。急成長してるけど、本当にお金の苦難が彼を襲うかもしれない。そしたら彼は精神を乱して真っ先に関係を断つかも。そうされてもおかしくない関係だしね。
でもいいの。私は今ちゃんと彼を好きだし、彼が求める時に彼の近くにいる。目の前で起こった事に対応していく。何より私の中心にブレない存在を持った。メイサが真ん中に居る。
だから大丈夫だよ。」
「あの男のシホへの想いが増す度にシホが苦しむことになる。シホもあの男もお互いに期待してない。どうしようもないって思ってる。」
「そりゃそうだよ。笑」
「常に状況は変化していく。未来はわからない。俺にも…不安だよ。」
「手を繋いでいよう。」
「シホに触れたい…。」