「2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望」(落合陽一著)
「カレーは飲み物」と言う研究者、大学教員、博士(学際情報学)、メディアアーティスト、実業家、写真家、随筆家の落合陽一氏が今後への展望を著した本。
豊富なデータに基づく論理的な考察が世界的な視点で書かれており、今後の世界が向かっていく方向性が極めてわかりやすく書かれている。2030年という「ちょっと先」に向けて世界がどう変わっていくのか、あるいは変わっていかないといけないのか、日本はどうすべきか、そしてそこで生きる一人ひとりはどう考えて行動していけば良いか、その考えるための視座を与えてくれる。
個人的に特に印象に残っているのが特にアメリカ、中国、欧州とそれぞれの極がグローバル社会において、軸を持って存在を確立しようとしている動きにおいて、日本はそれらの競争状態に入るわけではなく独自の価値観を提示していくことで世界に貢献し、存在を主張していけるのではないかというところだ。本の最後の方では「デジタル発酵」がそのキーワードとして挙げられていたが、少しわかりにくかったかもしれない。
日本に古来からある美意識「侘び寂び」の再定義を通じて、人工と自然が融合した新たな自然論(デジタルネイチャー)ということをSXSW2019において行われたプレゼンテーション「Nature and Aesthetics: New Theories from Japan(自然と美:日本からの新しい理論)」(音声のみ視聴可)として語っていることから、本質的にはこういったことを伝えたかったのだと理解できる。
日本は、地政学的にも過去の歴史的にも、世界の中で共通スタンダードとして通用するようなものは生み出しにくい。議論や競争、発信の核からは遠いところにいるのだ。
しかしながら、様々なものを受け入れ、合わせていき、まさに「発酵」させて独自の文化として洗練・昇華させていくこと、そしてその根本にはある自然への畏敬の姿勢はこれからの世界にとって発信すべき・役立てるべき価値観であるだろう。そして、ハードな世界において、そういったソフトな姿勢での立ち位置を日本が守ることによってこそ日本の存在には意味があると思う。