『物質文明・経済・資本主義　15-18世紀　日常性の構造』(フェルナン・ブローデル) ‐食の贅沢の探求が世界を動かした？-

フランスの歴史学者、ブローデルの「日常性の構造」を読んでいくオンライン読書会の第7回目。今回は「食」。

日常性の構造1 物質文明・経済・資本主義―15-18世紀

【概要】
欧州における食文化の発展は世界の他の地域に比べると遅かった。中国では5世紀頃、中東でも11-2世紀頃だったが、欧州ではイタリアの富裕な都市でなおかつ富裕層の間で15世紀頃になってから発達し、フランスでは16世紀くらいから儀礼的な歓待の場などに合わせて調理法だけでなくマナー、ナイフとフォークの登場も含めて発展し、18世紀後半-19世紀前半で現在のように完成した。そうなるまでは基本的に肉を中心にしかも手づかみで食べるという状況だった。
そして、そういった発展に至るまでは庶民も含めて贅沢＝肉であり、贅沢＝量だったのである。中国料理等では肉と野菜を調理していたが、肉が少ないということで下に見る傾向もあった。そのため欧州全域では酪農国から肉が西部の国々にもたらされるという状況が続いていた。この肉をたくさん食べるというのは黒死病により人口が減少したこともあって庶民も同様だった。人口が回復すると、量の割当が減るのでそうもいかなくなったが。

肉の次に贅沢とされていったものがある。多様な食材と調味料である。16世紀以降の料理方法等の発展もあり、肉と量が贅沢という状況から乳製品や海の幸、卵等など、そしてさらに調味料（胡椒、塩、砂糖など）が金や奴隷と同等に取引されるようになっていったのである。胡椒は古代ローマ帝国の次代から保存料として珍重されてきたし、こういった欧州では手に入れることができない貴重な調味料を巡って、経済が動き、世界が動いていった。ヴェネツィアは東洋からの調味料で莫大な富を築くことができたが、それが大航海時代ももたらした。そして植民地が広がることによって、カリブ海地域からの砂糖などももたらされていった。
こういった調味料（が生み出す富）を巡って国家間の歴史は動き、革命にも結びついていった部分もある。

【感想】
これまで読んできた「穀物」と異なり、欧州では「肉」がいかに大きな位置を占めていたかが感じられる内容だった。（そんな欧州では現在ビーガンも増えているということが一方で興味深い事実でもあるが）。調理法が発達し、マナーも発達し、調味料をより求めることになっていったことが世界における植民地開拓やプランテーション農業などを進め、今につながるような格差やそれらの旧植民地国家の経済状況につながっている遠因でもあると考えると、人の食への贅沢の果てなき探求は一部の人の幸せのために他の人たちの幸せを搾取するという状況になっているのか、と感じざるを得なかった。