『ギター女子』

いったいこの娘は、なんだ?
ギターを抱えた高校生くらいの女子が、
浜辺でギターを抱え大声で歌っている。
いや、いい。
浜辺で女子高校生がギター抱えて歌うなんて、
とっても、素晴らしいシーンじゃないか。
・・・ただ。この真夏日に、ギターが可哀想じゃないか?
「フランシーヌの場合はあまりにもお馬鹿さん・・・」
って、歌も古いし。
「あの」
ギター女子が怪訝そうな顔で振り向いた。
「はい?」
しかも、可愛い。
「ほ、ほら、浜辺で練習はいいんだけど、
直射日光でギターだめになっちゃうよ」
「・・・おじさん、ギターやるの?」
「えっ、あぁ、少し。昔ね」
「ふーん、見えないね」
ギター女子、そう言うとケラケラと笑う。
(ムカッ!湘南のクラプトンに!)
おいらはギター女子からギターを取り上げると、
「あっ、おじさん、いいや。彼、来たしぃ」
7月だと言うのに、もう日焼けして蜥蜴タトゥシール貼ったのが駆けてくる。
「かをり、どうした?」
「ううん、なんでも。じゃ、おじさん、また今度ね」
(ちっ)。
ふたりは海岸沿いの道路を器用に信号無視して渡ると、
ラブホに入った。
(まぁ、あそこならギターもクーラーで爽快だな)。
「ん?」
指で何気に遊んでいたピック。
(ギター女子のか)。
ピンキッシュな地にゴールドで「湘南スプラッシュ」という文字と電話番号。デリバリー?
「・・・馬鹿が。やめろよな。ギターなら教えてあげたのに」
ピックはひらひらと宙を舞い、熱い砂に吸いこまれていった。

「おじさーん!」
「?」
ギター女子がラブホ玄関から手を振っている。
「なによ?」
「・・・勘違いしないでよ!そのピック、友達のだしぃ。
そのお店も去年の話なんだからぁ。でさぁ、明日もこの時間に来てよ。
Fが弾けないんだよね。教えてくんない?・・・あぁラブホはなしよ」
「高いぞ!」
「べーだ!じゃぁ、待ってるから絶対だよ!」
まっ、いっか。
その夏。おいらはもう決して来ないであろう青春を少し味わった。
蜥蜴タトゥシールに勝ったのだ。「なにを?」ってリードギターの座を奪ったのだ。
それ以上なにがある?・・・あったりしてね。ふふふっ。

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