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kosuketsubota
そんなこともある
診療所の待合室でテレビを見ていた私に一人のお年寄りが話しかけてきた。
「アンタはホントに人間に興味ないね」
いきなり失礼な物言いをする知らないお婆さんに面食らいつつも
「そんなことないですよ」
と言うと、その婆さんはフフンと鼻を鳴らして帰っていった。
引き留めて理由を聞くほどでもないから放っておいたが、好きに言うだけ言って去っていったことに少しばかりムカついた。
人付き合いが悪そうに見えることは否定しないし実際苦手な部分もある。
だからと言って自分勝手な言動や自分の意見を人に押し付けるようなことはしていない。
いつも周囲や人のことを考えているつもりだ。
とは言いつつも 私には親友と呼べるような友人はいないし 一緒に暮らす家族もいない。SNSの中にですら仲のいい人はいない。
婆にムカつきながらも「孤独」が服を着て歩いているのは確かなようだ。
そしてその原因が自分にあることも……
だからと言って何故ババァにはそれが分かり わざわざ言ってきたのか。
そんなことを考えている間に自分の名前を呼ばれたので診察室に入っていった。
先生は私より一回りくらい年上で実家を出てからも診てもらっている。
開口一番、先生はこう言われた。
「お母さん、だいぶ具合が良くなってきたね~」
「あぁそうなんですか、長いこと会ってないので全然分かりませんが……」
「あれ?三人くらい前に診たけど会ってないの?」
「見てないです」
そこまで言ってふと思い出した。
待合室の隅の方に座っていた年寄りが母に似ていた気がする。
いやいや年寄りなんてみんな似てると言っても母親に気づかんことはないだろう。
「まぁいいや」
先生はそう言った。
「さっきヘンなことを言ってきた年寄りがいたんですけどね……」
そう言いながら私は「しまった!」と思った。
…これは ”罠” だ。