ファンデルヴァーの失われた鉱山 PCの活躍を伝える試み 第 十 五 夜 屍食鬼の晩餐
ぐっすりと眠り、しっかりとした休憩を取ったヴェイト、ウルリッヒ、ムサシ、アリスの四人は、シルダーやロックシーカー兄弟に見守られ、再び波音の洞窟の探検へと乗り出した。
初めは左手の法則で北側と西側を見て回ったが、今回は東側へと続く道、右側へと進んで行く。
寒くてじめじめしており、驚くほど風が通る吹き抜けのようなグンドレンたちが開けた風穴を抜けると、聞きなれた打ち返す波音のような規則正しい木霊が耳を穿つ。
はっきりとわかる微風がねっとりとヴェイトや先頭のムサシの頬をなでるが、こちらの洞窟の先は左手に礼の掃除屋がいそうな区画が見え、真っすぐ先には自然洞窟をくり抜いたドーム状に広がるチョットしたエントランス状の区画となっていた。
壁には今なおドワーフやノームの鉱夫たちが採掘しているレリーフが所々窺え、その端々に槍や矢じりの残骸がかつての激しい戦闘の名残を伝えるようであった。
床にも歩くたびにバキバキと踏みしだいてしまう乾いた骨が散乱し、ここで必死に押し留めようとしたドワーフ達と突破しようとしたオーク共の攻防の凄まじさを残したままだった。
洞窟の上部のドームの部分はデコボコと粗削りで、長らく火のついていないランタンもライトの明かりを反射するように鈍く誇り交じりの反射を薄暗い部屋に投げかけていたが、そのチラチラと揺れる灯りを眩しそうに、天井から奇怪なグロテスクな蚊のような顔をこちらに向ける蝙蝠のような生き物が何匹もぶら下がっていた。
部屋に入るなり一斉に飛び降りてくるそのスター時の群れに、手ひどい歓迎だとため息をつくムサシが二本目の剣を抜くと、その最中にもアリスが2匹のスタージを射止めてみせる。
ヴェイトも急降下してくる二匹を切り伏せるとふたりとも手狭な通路から部屋の中央に躍り出ていく。
するとその瞬間、部屋の奥の方からも大量のスタージが暗い天井から飛び立ち、たちまち大群に取り囲まれてしまう。
「いかん!!」
払いきれず次々と体に引っ付いてゆき、その鋭い嘴のような口を突き刺して血を啜り始める蝙蝠に包まれていくヴェイトとアリスの二人を見てウルリッヒが大声で叫び、急いで魔法を唱える。
ヴェイトとアリスの間で爆音が響き、バタバタと爆風と爆音にスタージが床に落ちていく。
からくもその爆音魔法の範囲から逃れていたスタージも、ムサシが切り伏せると、難を逃れたヴェイトとアリスの二人が感謝の言葉と共に早くもやつれた顔をしてみせる。
前途多難だな、と剣を振って辺りを窺うムサシに、迷い込んだ生き物もこれ以上奥に行くのをためらってたむろしていたと思えば、一仕事終われて良かったという考え方もありますよ、とウルリッヒが涼しい顔で流し、気を取り直す余裕を3人に与えてくれた。
じゃあとっとと行こうかと、東西南北に延びる道を南へとムサシが進路を取ると、この洞窟の本来の入り口であったはずの通路は、大きな破壊と土砂崩れによって塞がれた行き止まりでふさがれ、その行き止まりの左右に続く扉まで続いていたドワーフやオークの死骸の山を避けるように進まねばならないほどだった。
左右の扉を開いてみると、西側は守衛室のようだったが、ここには通路以上に大量に折り重なっていた亡骸が、連綿と続く強い思いからか部屋に入ろうとしたムサシの気配でカチャカチャと何体もの骨がスケルトンとして立ち上がってきた。
行き止まりと判断したムサシは静かに扉を閉め、反対の扉へと回ってみた。
こちらは事務所のようなカウンターと何かを収めておく棚が奥に並んで陳列された部屋で、ファンダリンの交易所を思い出させる室内だった。
埃をかぶり、錆びて動かなくなった天秤がカウンターで鉱石の鑑定所であることを示してくれていたが、今は何も動くものがない静かな場所と化していた。
ふと気になってムサシが奥の棚に近づいてみると、カウンターの裏側から紙束が盛大に散乱していたが、その奥の物影に隠れるように金庫があり、頑丈そうな鍵がかかっていた。
これはこれは、俺を待っていてくれてありがとうと、芸術的な手並みで頑丈なカギを素早く開錠して金庫を開け放つと、金貨や銀貨を見つけて喜ぶムサシの目の前に、雨漏れのような液体が天井から滴り落ちてきた。
思わず見上げたムサシの目に映ったのは、うねりながら四方に広げられた、まるで蛸の足のような触腕。
そしてその触手の中心に鳥かイカのような鋭く大きな嘴がカッと開かれた大口だった。
慌てて入り口まで駆け出すと、天井から降りてきた巨大な芋虫の頭をゲソにしたような怪物は、音もたてずにこちらへと近づいてくる。
気持ち悪いと扉を閉めようとするアリスに、ムサシは慌ててまだ俺がいるだろうと叫びながら何とか部屋から脱出し、肩で息をしながら散々だぜ、と金貨の詰まった袋を握りしめながらつぶやいた。
スタージの巣くっていた部屋に戻った4人は、北西にゼラチノスキューブがいた事から北ではなく東のルートを辿ろうとするが、洞窟が分厚い緑の絨毯に変わり、埃っぽい光を放つ緑色した空間に出ると、ところどころにみえる蛍光色に光る緑のキノコとその胞子を警戒して先に行くのを断念した。
残る最後の道、北側へと向かうと、十字路の正面に半開きの扉があり、警戒して左右の通路を見てみると、左側の通路は例の鉱山区画につながっているようで、右側はさらに折れ曲がって北へと伸びる通路となっていた。
ムサシがこっそりと半開きの扉に近づいてみると、中から微かに何かをかじっているようなゴリゴリという音が聞こえ、部屋の暗がりに何かがいる事が伝わってきた。
後から挟み撃ちになって大事になっても困るが、何も知らず通り過ぎて再び戻ってこねばならなくなるのも困ると扉をヴェイトと二人で開け放つと、そこにいたのはカサカサになった死骸の骨皮にしゃぶりついている腐肉食らいの姿で、扉の音に引き裂いた骨をかじりながらも一斉に立ち上がってこちらを振り返った。
4体のグールは即座にこちらに襲い掛かろうとするが、ヴェイトが扉を閉めると、閂でもかけて閉じ込めようかとグールが押し開けようとする扉を押し留めるが、グールは開かないと判断するやすぐさま引き返していく。
そういえば左側にも扉があったな、中を見た時の情景を思い出してヴェイト以外の3人で左側の通路へと急いで走ると、ちょうど部屋からグール共が飛び出してくるところだった。
急いでアリスが弓を構えたその瞬間、20フィートほど先の十字路に入ったグールが、ぼっちゅうっと奇怪な音を立てて何かに飲み込まれた。
一瞬、透明すぎて何が起こったか分からなかったが、二体に続きもう一体もそれに飲み込まれると、グールも何が起こったか分からない様子でもがいているのが3人の目の前で演じられる。
ゼラチノスキューブ、その通路いっぱいを占める粘体の壁から出る事も出来ず、なすすべもなく動く掃除屋と共に通路の奥へと消えていくグールを眺めながら、曲がり角より奥へは絶対に行くまいと3人がそのままヴェイトの元へと戻ると、もう大丈夫だと肩を叩いて狐につままれたような顔をするヴェイトを扉から引きはがし、何も語らず先に進むことを告げた。
道の途中、右手に廃墟と化した貯蔵庫もあったが、瓦礫の山と化した風景に行き止まりで何もないと判断して真っすぐ北へ向かい、開けた部屋へと出てみる。
かつての大食堂、鉱夫たちの胃袋と娯楽を満たす大宴会場、そう見える大きく開けた空間は、やはり大小さまざまな死骸が横たわり、中にはオーガの骨も散見できるほど大混戦を繰り広げた古戦場の雰囲気を今も絶えず発散していた。
それにさらに陰惨な花を添えているのは、先ほど出会ったグール共。
今度はあちこち集団で骨を物色しては満たされぬ飢えから逃れようとガリゴリと歪な音を波音の反響に不協和音として加えていた。
見るに堪えぬ、そうウルリッヒがつぶやくと、轟音とともに大きな火球が中央の朽ちたテーブルごとグール共を吹き飛ばし、血肉に飢えて判断を誤ったグールは襲い掛かろうとして怒りの反撃を繰り出したヴェイトに打ち倒された。
這う這うの体で退散していくグールたちをみて、四人は西に逃げたグールには憐れみを向け、北と北東の通路へとに逃げたグールには、溶鉱炉のあった部屋が今はどうなっているのかと注視して見守ったが、暫く立っても三方向どの通路の奥からも物音は響いてこなかった。
念のためと、北東の通路の先をヴェイトが窺うと、やはり溶鉱炉の部屋には揺らめく炎に包まれたフレイムスカルが宙に浮いており、ゆっくりと刺激しないように後退して帰ってきた。
その間に北の通路の様子を窺ったムサシは、バグベアの元いた部屋に誰もいない様子に加え、溶鉱炉の部屋に全滅させたはずのゾンビの姿も見て、静かに戻ってきた。
西側は静かなものだったというアリスとウルリッヒに、4人は危険を避けてムサシの通った北側の通路から何度か休憩をした部屋を通り抜け、前回は見て回らなかったデュマイソン神殿の東側へと足を延ばすことにした。
もちろん、休憩はまたもバグベアの元いた部屋。
ここならムサシのおかげで鍵もすぐかけられるし、フレイムスカルたちも部屋を守っているのか通路より先へは出てこないようだったからだ。
しばし休息と食事をとって、今回こそ北側から一気に核心に迫れれば良いのだが、と4人は思いを一つにして部屋から旅立つことにした。
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