のんちゃん荒野を行く
さぁ、ニュージーランド南島一人旅の始まりです。
ウェリントンはニュージランドの首都で、北島の南端にあり、南島と隣接しています。それまで牛か人かみたいな場所で過ごしていたので、都会の人達に物怖じしていたのを覚えています。日本にいる時にはコンクリートジャングルにいたっていうのに。
Taupoよりも南側の景色は初めてだった。
目の前にはアルプスのような岩山が、雪の薄化粧姿でドドーンとそびえていた。Taupoを境に景色が壮大になっていく。午前中からずっと走り続けて、ようやくタウポの先までやってきた。お昼ご飯も抜いて、どこにも停まらず走りつづけている。ウェリントンまでの道のりは長く、そろそろ太陽も傾き始めてきた。
暗くなる前に宿を決めておかないと面倒なことになるなぁ。峠を走りながら考える。耳がツンとして、車の中がヒンヤリしてきた。高度が高くなるにつれて、周囲の景色も草木がなくなってくる。そして、ついに窓から見える景色は牛も羊もいない、赤い土の荒野だけになってしまった。荒野の間を延々と続く道路。道は上下にウェーブしていて、その果てには薄暗くて分厚い雲が待ち構えている。まるで、不吉な悪魔の巣窟に進んでいっているかのようだ。荒野はいつまでも続き、私の心は落ち着かない。
天気が悪くなると、暗くなるのも早い。
このままだとウェリントンにつくのは、5時半か6時というところだろう。辺りは完全に暗くなっているに違いない。しかも、都合の悪いことに、ウェリントンはニュージーランドの首都だ。交通事情はオークランドがそれ以上ということが予想される。あいにくウェリントンの地図は持ち合わせていない。街のインフォメーションセンターで手に入れようと思っていたのだ。しかし、私がウェリントンに到着するころには、インフォメーションセンターはとっくに閉まっていることだろう。まいったなぁ。もっと早くオークランドを発つんだった。
ウェリントンは遠かった。走っても走っても、一向に到着しない。景色は荒野から海へと変化し、今は夕日に反射した金色の光りが、私の目を突き刺していた。背の低い私には、車のサンバイザーは役に立たない。サングラスをかけると、景色の本物の色がわからなくなるから嫌なんだけど、なにも見えないよりはましだ。ああ、ウェリントンって遠い街なんだなぁ。
ようやくウェリントンに着いたときには、予想通り辺りは真っ暗だった。幸い車と人の通りは激しい。高層ビルの赤い点燈が、皇居から銀座にかけての景色を思い出させる。
今日はお昼ご飯も抜いちゃったし、早く食べないとレストランとかも閉まっちゃう。どこかのビルのレンストラン街を探さなくちゃ。
お腹が空いている時には、ご飯に限る。ということで、私は中華バイキング(のようなもの)を選択した。3種類のおかずを皿てんこもりに盛ってくれて、7ドル。もう、安いんだか高いんだかよくわからない。ついでに、ここの店員のおばさんにバックパッカースの場所を聞く。すぐそこよ、と高層ビルの辺りを指差す。...エリアが広すぎて、わからないよー。
飯を食った後、地元の地理に詳しいであろうガソリンスタンドに寄ってみる。インド系の店員さんは、やはり中華のおばさんと同じ方向を指差す。おじさんは、とにかくその道をまっすぐ行け!そうすればわかるよ!と叫んでいる。わかったよ。とにかく行けばわかるんだね。
白い息を上げながら街の灯りの中を走る。ああ、寒い、心細い。
バックパッカースは、おばさんとおじさんが指をさした辺りにあり、バーがバックパッカースを兼ねて経営しているようなところだった。バーの中の赤いランプの下で、髭を生やしたおじさんが私をじっと見ている。いかにも悪い人が集まりそうな気配のバーだ。一瞬、やめようかな、とも思ったが今日はもう寝るだけだし、明日の朝は早朝の5時半には出なくてはならないのだから、とあきらめることにした。
通された部屋は、いかにもラブホという感じの、かつてはゴージャスだったに違いない薄汚れた壁のクロス(ところどころ剥がれている)が私の思考を更にネガティブな方向へと誘う。風呂は各部屋についているが、絶対に裸足では歩きたくないタイルとバスタブ、そして、蓋のないトイレが、刑務所に閉じ込められた気分にする。トイレはぼろいというよりは滑稽に近いくらいで、壁際ギリギリに設置されている。太った人が座ったら、壁側の腕を挙げなくちゃいけないに違いない。いやいや、お尻だってどうしたものか。半ケツ覚悟で用を足さなければならないだろう。
このバックパッカースには、暖炉もなければキッチンもないし、水飲み場もない。私はバーで、ビリヤードで遊ぶ人々を観察しながら、ビールを飲んでいた。カウンターに立つ人達がこちらをじろじろと見る。話しかけられる前に、この場を立ち去ろう。ああ、神様、ここは良くない場所です。
とっととビールを飲んで、バーを出る。背後から何か冷やかす声が聞こえたが、振り返らず立ち去った。
部屋に戻って、目覚まし時計を4:50にセットしてベッドに入った。
明日の午前中には南島だよ。さよならウェリントン。またくる時には、もっと違う表情を見せてちょうだい。
長時間のドライブと近頃の寝不足のせいで、泥のような眠りへとまっ逆さまに落ちて行った。
(つづく)
翌朝、私は南島に向かう船に乗ります。南島までは3時間。さて、どんな旅が始まるんでしょうか。
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