見出し画像

ニュージーランドから日本のあなたへ

旅の友はうんとこさ古いHONDAプレリュード。もちろんノーマルタイヤ。雪道の運転において、脳内のイメージトレーニングは万全でした。


Wanakaへの道のりの途中、突然辺りが雪景色になった。

私はどんどん北ヘ向かっているところだった。まっすぐにのびた道路。その向こうに連なる雪山。そして、両脇にはうっすらと雪が積もった牧場。心を奪われる美しさだ。私は車を停めて、外へ飛び出した。空気が冷たすぎて、息をすると空気が体の中に吸収されていくのがわかる。耳をそばだてる。何一つ音のない世界。空気も音も澄み渡った世界がそこにあった。数枚の写真を撮り、車に戻った。走っている間も、外の景色はどんどん変化していった。そのどの景色も美しく、感動で胸がいっぱいになる。

途中でお腹が空いてしまった。この辺りで店など見つかるだろうか。そもそも民家すら見つけるのが難しいというのに。

そんなことを考えながら運転していると、Atholの町で『HOME MADE』という看板を目にする。どうも私は昔から、HOME MADEと"田舎風"には弱い。ついつい興味が湧いてしまうのだ。

木造の店内には、薪ストーブが薪をぱちぱち鳴らしていた。角のテーブルには、若い男性の二人組みがこちらを見ている。キッチンでは、中年のおばさんが暇そうにコーヒーを飲んでいた。私はおばさんと軽く世間話をした後、フィッシュ&チップスとコーヒーを注文した。全部で6.20ドル(約450円程度)。実に安いランチである。これでも、貧乏な旅人にはなかなかの贅沢なのである。

腹ごしらえも出来たので、そろそろ出発することにした。

Wanakaは、クィーンズタウンの先にある。クィーンズタウンがどんな街かは知らないけれど、ずいぶんと大きくて、英国調だということは聞いていた。だから、今回はクィーンズタウンには寄らずにWanakaへ直行することにしていた。大きな街は嫌いだ。しかし、クィーンズタウンが美しい街だというのは、認めざるを得なかった。シティセンターまでは行かなかったが、クィーンズタウン周辺の雪山と湖の景色は、絵葉書のような光景だった。キラキラと光る水面に大きな雪山、そして青い空。時間さえあったら、いつまでもその景色を眺めていたことだろう。

しばらくすると、標高が高くなり、しばし道路状態が悪くなってきた。間違っても、ブレーキを踏みながらハンドルなんか切ってはならない。と、気をつけているにも関わらず、車がつるーっとすべってしまった!!ややや!ここで慌ててブレーキを踏んではいけない。ハンドルを切る。車が反対にお尻をふる。そこでまた逆にハンドルを切り、カウンタを当てる。人が見てる。だからこそ、かっこ悪いところは見せられない!!私は左右にカウンタをあて、なんとかその場が凌げてしまった。すごい、私!そしらぬ顔をして道を下る私。しかし、後続車は妙に私との車間を空けていた。

ようやくWanakaに到着した。
Wanakaは大きな湖と雪山が美しい、スキーヤーが集う街として有名な場所である。小さな街なのにやけに人が多いし、店もおしゃれだ。道行く若者はみんなスキーヤー。それもチャラチャラスキーヤーじゃなくて、ガツガツスキーヤーだ。男も女も、顔に『スキー大好き!!』って書いてある。スノーボーダーも多いようだ。今まで見た街の中で、一番ファッションセンスがいいかもしれない。それに、日本人が多い。

前回、Invercargillで会ったゆかりさんのお勧めするバックパッカースを探し当て、2泊の手続きを済ませる。なんだか、アットホームな感じのバックパッカースだ。宿には、たくさんの人が宿泊していた。どうやら私はギリギリセーフで宿に泊まれたようだった。後からたずねてきたバックパッカーの人やかかってきた電話をおじさんが丁重に断わっていたから。夕飯時は、狭いキッチンに人がごった返していた。うーん、コンロの取り合いだなぁ、これは。

私はピーク時に料理をするのはやめることにした。
なんとなく寛いでいると、日本人の女性二人組と単身の女性と話すことになった。二人組みの女の子達は、幼馴染の二人でやすこさんとキヌさんという。一人で宿泊している女の子の名前はのぞみさん。皆、似たような年頃だ。

やすこさんとキヌさんはなかなかいいコンビで、おっとりしているようで笑いのつぼを知っているキヌさん(美人)などは、さすがに関西の血が流れているなと思わせた。のぞみさんはスキー命人間。スキーのために働き、スキーのために生きている!という人だ。体が小さいくせに、何気にパワフルな人だった。

皆、寝静まってしまった頃、私は外の空気を吸いに表へ出た。空を見上げる。

あ、あれれれれ!!!???夕方には、山際でまん丸のお月様が出ていたはずなのに、なんだかお月様の右上がきれいに欠けてるぞー?辺りに雲は見えない。じゃ、なんだ、あれか?げ、げ、げ、月食ってやつかーっ!!!

生まれて初めての月食。誰かに見せたくて、すぐに建物の中へ入る。でも…みんな寝静まってて、誰もいない。ちょっと寂しい。また外へ出る。やっぱり、月食だ。あ、中の廊下を誰かが通ってる!捕まえなくちゃ!!

「ちょっと! ちょっと! 月が! 月が!!」

新婚でここに泊まっているだんなさんだった。慌てて外へ出る。

「そうだ。今日は月食の日だったんだ。深夜にはピークを迎えるってテレビでやってたよ」

そ、そうだったのかー。テレビなんか見ないから、知らなかったよー。でも、偶然に発見できてよかったよー。そこで、私はひらめいた。今、ニュージーランドでも見えてるってことは、日本でも見えてるんじゃない?南半球と北半球じゃどんなふうに違うのかなー。

さっそく、私は日本に電話をした。

「今、月食なんだよ。外見てよ。ほら、月食月食!!」

「あー、ほんとだー。左下が欠けてる」

なに?左下?そーかーーー。南半球で右上が欠けているってことは、北半球じゃあ、左下が欠けているように見えるんだー。なんだか同じ月食を見ているはずなのに、欠けている部分が違うなんて地球の不思議。こんなふうに電話をしながら、どんなに離れていたって、同じ光景を見ることもできるんだ。

私がどこにいたって、ここは地球なんだもん。ほら、私はここにいるよ!って叫びたくなる。

もしかしたら、月に反射して私の声が日本へも届くかもしれないじゃない。聞こえなくても、誰かが私を思い出してくれたりするかもしれない。
ね、あなたは私を思い出してくれましたか?

(つづく)


南半球と北半球で同時に月食を見るという貴重な体験をした私。本当に空はひとつで、どんなに離れていてもみんなと繋がっているのだと実感しました。そして、どんなに離れていても生きてさえいれば、この地球から見る空や大地に吹く風の中に、その存在を感じることができるという安心感を抱きました。

次回は、私が若者らしく苦悩している巻です。

#地球は丸い #結局繋がっている #例え真逆の中にいたとしても

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?