見出し画像

#9 地球の裂け目を見た

16歳の時に初めて渡ったアメリカ。その時はシアトルの小さな街にホームステイしたのです。その時、ホストファミリーからさんざん「グランドキャニオンは素晴らしいよ」と聞かされていた私は、このチャンスを逃すまいとグランドキャニオンに向かったのです。


16歳のとき、グランドキャニオン(Grand Canyon)は、ずいぶん遠いところに思えた。一度は見るとよい、と言われても、それが現実になるのは、遠い先のことのように感じていた。

そして今、私はグランドキャニオンの絶壁に立ち、その雄大な姿を見下ろしていた。

夕暮れ時のグランドキャニオンは、オレンジ色に染まって、それはそれは美しいという話だった。あいにく、天候に恵まれず、曇り空で夕日どころではなかった。ブルーグレイの重苦しい空の下に広がる、巨大な渓谷。その激しくも雄大な景色に"地球"を感じずにはいられない。地球の裂け目から吹き上げる風が、私の髪をなびかす。太古の昔から、この風は吹きつづけているのだろう。何億年もかけて、巨大な大地がじりじりと動き、ついに大地が二つに割れたとき、地球はどんな叫び声を上げたのだろうか。

今まで、どれほどの人間が、この深くて巨大な地球のクレバスを見下ろしたのだろう。どんな思いで見下ろしたのだろう。1,000年の昔に逆戻ったとしても、この雄大な姿に変化はあるのだろうか。自然の中で流れる時はあまりに悠久だ。私達の生命に流れる100年という年月は、彼らの1日にも及ばないのだ。この地に文明を運ぶ前から、依然としてその姿は太陽と月の下に存在していた。

私は、果てしなく続く渓谷と、不毛の景色に、途方もない歴史を感じた。

そろそろ、東の空から夜がやってくる。
私は暗くなりつつある遠くを見つめた。重苦しい雨雲が、平らなグランドキャニオンの大地の真上に立ち込めている。西の空はぼんやりとオレンジ色に輝き、雲と大地は驟雨しゅううでつながっていた。東の空は既に暗く、紫色の雲と大地の間に稲妻が走っているのが見える。遠くに光る稲妻は美しく、私は生命の危機など感じなくてもよいことに安堵した。

私はカメラを手にして、その美しい落雷の瞬間にシャッターを切った。

ピカッ!ゴロゴロー…カシャッ
ピカッ!ゴロゴロゴロー…………カシャッ

青白く光る稲妻は一瞬だった。目の前に広がる景色の、どこに落ちるかわからない稲妻。私はカメラを構えて、雲の下に稲妻が光るのを待った。

ピカッ!あ、光った、撮らなくちゃ。
カシャッ

ピカッ!あ、また光った。
…カシャッ

どうもタイミングが合わない。
そのうち勘に任せてシャッターを切ってみたが、無駄だった。
隣で同じように稲妻を眺めていたフランス人のカップルに笑われた。

8月31日のフィルムは、ただの薄暗闇しか写っていないことだろう。

明日は空からグランドキャニオンを見下ろす予定だ。

(つづく)


驟雨しゅううなんて、どこでこんな言葉を覚えたんだろう?この時以来、二度と使ったことがないので、大して知りもしない言葉を背伸びして使ったのだと思います。

それにしても、稲妻の瞬間を写真に収めるって難しいですねぇ。今のスマホだったらちゃんと撮れるのかな?

次回、のんちゃん空を飛ぶの巻、お楽しみに!

#驟雨ってどんな雨だい#過去の自分に尋ねる私

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?