くつろぎのKaikoura
10時過ぎの起床でこんなに驚くとか、今の私を見たらこの頃の私は何と言うでしょうか。ちなみに、私は未だに和食を料理するのは苦手です。
かなり寝坊して目が覚めた。
いいんだ。寝たいだけ寝ていたって。でも、旅に出ると早起きになっちゃうんだよね。これから過ごす1日に期待しているから。まだ眠いけれど、跳ね起きた。時計を見る。おお、もう10時過ぎてるー!
とにかく熱いシャワーを浴びよう。目を覚ますんだ。
シャワーを浴びていると、ご機嫌なモルガンの歌声が聞こえてきた。今日も働いているモルガンは、一体何時に起きたんだろう?
コーヒーを飲んで、しばらくしてから出かけることにした。うーん、いいお天気だ。薄い空色の下に、大きな山、隣のバックパッカースの洗濯物、戯れる2匹の犬。実にのどかな景色である。ここでは、毎日こんな光景が繰り返されているんだ。町に出てみよう。こんな町に住んでいる人々が見てみたい。
私は車のエンジンをかけた。歩いても行ける距離だけど、帰りにスーパーマーケットへ寄りたいから車で行く。モルガンが手を振っている。ばいばーい、モルガン。夕食の後、話そうねー。
私は小さな町の図書館を訪れるのが好きだ。図書館には町に住むさまざまな人が現れる。図書館のスタッフはたいていが地味で、そしてとても優しい。スーパーマーケットに寄って、夕飯用の野菜を購入してから図書館に向かうことにしよう。小さくて必要最低限のものしか置いていないスーパーマーケット。生肉は置いていない。あるのはしなびた野菜とベーコン類、そして、数々のデイリー食品だ。もちろん、その他に缶詰や日用品なども置いてある。私はこの日の夕飯のために、パセリが欲しかった。しかし、ここにはパセリが置かれていない。困ったなー…と思っていると、レジの女の子が遠くから私に問い掛けてきた。
「何を探しているの?」
パセリが欲しいの。この小さなスペースにはどう見てもパセリは置いていなかった。
「それなら、角に八百屋があるわよ」
え!?八百屋があるの?知らなかったよー。ありがとーーー。
私は八百屋へ走った。本当に小さな町だ。50mも走れば八百屋があるんだもの。
八百屋では、客と店主が世間話に花を咲かせていた。話を聞いていると、どうやら店主は客の娘を知っているらしく、学校生活について話し、やがてその世間話はよその人の娘と息子の話に発展し、いずれにしても客の娘がもうそんなに大きくなっているなんて気がつかなかったよ、と店主は言葉を結んだ。よく喋る店主だ。私は話を聞きながら、この狭い八百屋の隅々までパセリを探した。新鮮なトマトはあっても、パセリはない。仕方がない。長ねぎで用を足そう。私は長ねぎを掴んだ。でも、しっくりいかない。名残惜しそうにパセリを探していると、話を終えた店主が話しかけてきた。
「お嬢さんは何がお入用かな」
ホントはパセリを探しているの。
「パセリか! パセリを探していたのか! ちょっと待ってて、すぐ戻ってくるから」
彼が店の奥へ引っ込んでしまった。しばらくすると、山ほどのパセリをもって現れた。
「どれくらい欲しいの?欲しい分だけ取ってごらん」
私は一房のパセリを取り上げた。
「え!? それだけ!? それだけでいいのっ!?」
いいよー。もっと手に入れても使い切れないもの。
「んー、じゃあ、5セントでいいよ」
えっ? 5セント? 安すぎない?タダ同然でパセリを手に入れてしまった。売り物じゃなかったのかなぁ?とにかく、ありがとー、おじさん。たった3円あまりでパセリを手に入れた私はご機嫌だ。私がご機嫌なので、おじさんもご機嫌だ。
「どこ出身なんだい?」
日本よ、日本。北半球にある日本からやってきたのよ。
「え?本当?俺はまたフィリピン出身かと思ったよ」
ギャグかなーって思っちゃうくらい、聞きなれた言葉が返ってきた。日本にいた頃はよく言われてたっけ。フィリピンパブのアグネスなんか、
「ノリチャン、ココデハタラケルヨー。サラリーイイヨー」
とよく提案してくれたものだった。アグネス、元気かな。
その後、おじさんから質問攻めにあう。おじさんは私がHPを持っていることを突き止め、日本語だから読めないよって言ってるのに、
「いやー、でもいつかは英語にするんだろう?見るよ、見る見る」
と言ってきかない。うーん、この強引さ。誰かを思い出すなー。HPの名前はなんて言うんだ?という質問に対して、
"Wandering Reports"
と恥ずかしげに答えると、いい名前じゃないか、なぁ? と後ろにいる奥さんに話しかける。
「彼女のHP、Traveling Reportsっつうんだってさ。どうだい? いい名前だよなぁ?」
ち、ちがうっ。Wandering Reportsだってばっ。
「あら、Wandering Report? そっちのほうがずっといいわよ。いい名前じゃない」
この、軽いノリ。中身のない真の世間話。気軽で気さくで気分がいい。
私は店を後にして図書館に向かった。
図書館で、しばらく過ごした後、海岸沿いを散歩した。
Kaikouraの冷えた空気は身を引き締める。ああ、寒い。そろそろ、バックパッカースに戻ろうかな。この時間だったら、既に暖炉に火が焚かれているかもしれない。
バックパッカースは既に暖かかった。
夕食に、オイルサーディンをにんにくと一緒に鍋で炒め、トマトの角切りを加えて少し温めてから、火を止めてパセリのみじん切りをたっぷり加えたものを調理した。ご飯にも合うし、カリカリのパンの上にのせて食べても美味しい。バックパッカースでは、それぞれの旅人が好き好きな料理を作る。美味しそうな料理を作ると、旅人からの注目の的となる。今夜は私がたった一人のアジア人。みんな、私がどんな料理をするのか興味深々だ。でも、ごめんねー。私、日本食とか作れないんだよー。しかし、彼らは私の料理を見て、レシピを聞いてきたり、美味しそうだと言ってくれる。ふふん、今夜のキッチン勝負は私の勝ちだ。(何が勝ちなんだ?)
夕飯の後、モルガンと暖炉の火の前で明け方まで話し込んだ。
マオリの文化の話、日本の文化の話、輪廻転生について、エドガー・ケイシーについて、その他、どれだけのトピックを話しただろうか。最後、私が部屋に戻ろうとするとき、モルガンが言った。
「失礼」
彼は私の手を握り、目を見つめた。
「のりこ。君と出会えてよかった。友達として、抱きしめていいかい?」
モルガンのでかい体にすっぽりと包まれるように軽くハグされる。やっぱり、でかいなぁ。でも、こんな挨拶の仕方、本当は好きじゃないのに、モルガンなら大丈夫だ。だって、モルガンは本当に清らかなんだもの。
私達は固く再会の約束をして、別れた。
この次、私がKaikouraを再び通りすぎるとき、私は一体どんな思い出を抱えているんだろう。こんなふうな素敵な出会いがたくさんあるといいな。
(つづく)
私のこのオイルサーディンのレシピは、別のバックパッカースであった日本人のカップルがぜひこのレシピを譲って欲しいと言われたこともありました。大した料理ではないのですが、彼らはいたく気に入ってくれて、彼らが帰国してからオープンする予定のカフェのメニューにするということでした。
ところで、モルガンはいい匂いがしました。
天使のような匂いでした。
次の旅日記で、クライストチャーチに移動します。
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