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オカルトとは何なのか。
ずいぶん昔の話だが、数m先に白い大きなゲージの中で白い鳩が飼われているのを見て、わぁハトヤみたい! と近寄ってみたら、それはマンションのゴミ集積ボックスの中にある白いコンビニの袋だったということがあった。
また別の時には、駐車場で猫が丸まっていたのでニャーニャーと鳴き真似をしながら近づいていったら、それが丸められた古びたホースだったと気がついたこともあった。
これらはオカルト現象でもなんでもない。
そう。私はただ近視なだけだ。
先日、ジムに行った時だった。
そこのジムでは、オートロックを開けて入るとすぐ右手にガラス張りのオフィスがあり、毎回スタッフが元気よく挨拶してくれる。私は普段、イヤホンを耳につっ込んでいるのでスタッフの声を聞くよりも、彼らの姿を見て軽く会釈するようにしている。
その日もイヤホンを耳につっ込んでいたので、スタッフの声に反応するというよりは、彼らの姿に反応して会釈をした。そして、オフィスを通り過ぎて廊下を右に曲がる時、ふとオフィスの中に目をやると、たった今挨拶したばかりだというのにオフィスの中には誰もいないことに気がついた。
え!? オカルト…!?
普段からオカルト体験を切望しているにも関わらずオカルト体験皆無のこの私にも、ついに本物のオカルト現象勃発かい!? とワクワクしながらマシンに向かった。
ひとしきり汗を流し、ジムを出る時だった。(私はジムでシャワーを浴びない。必ず清潔な自分の家のお風呂に入る)オフィスの横を通る際、何気なく窓を見た。
!!!
オフィス正面の窓に、笑顔の女性の大きな広告が貼ってあった。それは1メートルくらいの大きさの、眩しい笑顔だった。
ふとガラス張りのオフィスを見る。
そこには、窓に貼られた広告の女性が映っていた。
え…私、ガラスに映った広告に挨拶してたの…?
これはもう、近視だからとかオカルト体験皆無だからとかの問題ではない。こういうのを世間ではたぶん ”焼きが回る” というのだ。
背中でオートロックの鍵が閉まる音を聞いた後、私は誰もいない空間に向かって「ふはは!」と声を出して笑ったのだった。
おしまい