消された豆腐男
よくスーパーで、男前豆腐とか俺の豆腐とかいう商品を見かけないですか? そういえば、数年前に何でもかんでも商品名に “俺の” って付けるのが流行ったことがありましたよね。あれは銀座で増殖した “俺のイタリアン” とか “俺のフレンチ” 等から発展していったブームだと思うのですが、商品棚に “俺の塩” という商品名の塩を見つけた時は、生理的に受け付けないと心から思いました。
去年の暮れくらいから私は本格的なダイエット生活に入ろうとしていました。ダイエットは、1日3食に分食することが痩せるコツとなにかに書いてありました。私は、普段食べない朝ごはんを頑張って食べることにしました。朝といえば納豆です。しかし、納豆だけで私のグルメマインドが満足するはずはありませんでした。
納豆と豆腐のご飯が案外イケる。
何かの記事で私はそれを知りました。
私はそれ以来、納豆と豆腐を欠かすことなく常備していました。同時に毎回納豆に入れる豆腐のパックに疲れ始めてもいました。納豆のパックを開けるのにさえ面倒を感じるのです。これに豆腐のパックを開けるともなると…
私は考えました。
もしかして、豆腐のパックを開ける時の縦方向の距離が私のストレスになっているのでは、と。
そこで私は、豆腐のパックを開ける時にできるだけストレスを感じない商品を探すことにしました。そして見つけたのです。小さな正方形の豆腐が12個連なっているパックを。これなら、量的にもパックを開ける時にもストレスを全く感じません。
この豆腐のすごいところは、毎日使ってもある一定のところまでは減った気がしないところです。三日使ってもあと9個も残っているのです。終わる気がしません。
この豆腐に満足しきっていた、そんなある日です。私はある重要なメッセージに気がついてしまったのです。
使用済みの男はさっさと消えてくれ、みたいなメッセージ。しかも、この豆腐は京都生産。闇が深いと認めざるを得ない…。え? よく見えない? では拡大してみましょう。
脳内でレ点をつけてみてください。使った 男 消す…。つまり
「使い切ったのであなたはもう消える男です。っていうか消えてください」
というメッセージに他なりません。京都の豆腐を使って、そこまで酷な内容を伝えるとは、なんと非情な組織なのでしょうか。
この暗号は、レ点を知る大人なら誰でも読み解けます。豆腐に印字するくらいですから、このメッセージの対象は大勢いるのでしょう。それも、肉食系男子というよりは、豆腐を好むようなわりと胃疲れしているような ”精力” とは真逆の、毛根とか男根とかいろいろ衰弱しているような男性なのではないかと推察します。使い切られてもうこれ以上使い込むことができない出がらしのような男に向けられたメッセージ。それが全方位の対象者に向けて送られているという事実に震えます。
でも大丈夫。
豆腐ではなく、肉を食べてください。
肉を食べればあなたの男子力も蘇ります。あ、肉も食べられないくらい弱ってるのか。ならば卵を食べてください。生卵が有効です。生卵をビールジョッキいっぱいに割って、一気に飲むのです。飲み干したら「エイドリアン」と叫んでください。これであなたも立派なロッキーもどきです。
ところで、数週間前まで納豆+豆腐という組み合わせにときめいていた私ですが、今ではすっかりめかぶご飯に心を奪われています。これだけローカロリーな食事をしているのに、一向に痩せる気配がありません。もはやこれは何かの呪いなのではないかと疑っています。太り続ける呪いとか、まじで恐ろしいです。豆腐界の全方位に闇の暗号を送ることより恐ろしいです。
そういえば、ビタミンDが呪いには効くよと誰かが教えてくれたのでした。急いでビタミンDを買いに行きたいと思います。