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車の窓を割られた!

ニュージーランド旅日記 第五回
唐突に出てきてたので補足説明をば。Nobbyは日本人クラスメイト。旅行会社の社員で、英語の勉強のために短期留学してきていました。そして、彼を連れてドライブに出掛けた先で事件は起こるのでした。
(※3,000文字くらいあります)


大手旅行会社のNobbyがもうすぐ日本に帰るということで、彼が行ったことのない観光スポットへ私の車で訪れることになった。

我々が行った場所は、街から車で20分ほど行った場所にある、Whangarei Fall(ワンガレイ滝)。街の小さな観光スポットだ。『地球の歩き方』にも小さな写真が載っている。私達は日本の歌謡曲などを口ずさみながら、滝まで散策し、途中でカメラを車の中に置いてこなければよかったな、などと思いながら小1時間ほど散策を楽しんだ。

駐車場に戻ると、私の車の横に駐車していたカップルが戸惑ったような顔を私達に向けた。「もしかして、このプレリュードって君達の乗って来た車? イヤな予感。そして的中。運転席側の窓ガラスが粉々に砕け散っていた。「何も盗まれていない?」ええ、車の中には何も置いていかなかったよ。取られたくないものは、トランクの中に入れたんだもの。「トランクの中は大丈夫?」 ハッ!そうだよ。車内が大丈夫だからって、トランクまで大丈夫とは限らないんだった。すぐさまトランクを開ける。イヤな予感。更に的中。私のバッグがない!周囲の動揺とは裏腹に、私の脳みそはどんよりと重たく、今にも止まりそうだった。これって何?どろぼう?「警察に連絡してあげるね。」カップルの男性のほうが携帯電話を手にした。一緒にいたNobbyが直ちに砕け散った窓ガラスの掃除にかかる。カップルの女性のほうが「彼らはお金が目的だから、もしかしたらバッグをそのへんに放り投げているかもしれないわよ。」という。私は働かない脳みそを奮い立たせながら、犯人がバッグを放り投げそうな場所を探索した。心の中で、どうしてこんなことになっちゃったんだろう、と繰り返し繰り返し問いながら。

大体、自分の身にこのような不幸が起こるとは思ってもみなかったのだ。こういった類の不幸は私のもとには決して起こらず、起こってもならないと堅く信じていたのだ。いつだって私は幸運で、最悪なピンチも自分の運で切り抜いていけると信じていたのだ。その私が盗難に合うなんて!人から同情されるなんて!きっと神様がどうにかしちゃったに違いない。いや、もしかしたらこれは必要なプロセス。だとしたら、なるようになるか?どんな結果がこれからやってくるか。私のバッグには何が入っていた?お財布や大事なものはすべて私自身が身につけるようにしているから大丈夫。他には?ああ、国際運転免許証。それとカメラ。せっかくお父さんに買ってもらったのに。今更ながら自分のまぬけさが身にしみてきた。他には?あああああああ!アメリカのお友達からもらった大切なキーホルダー!!Wausauって書いてあって、日本にいるときもいつもいつも大事にしていた!ああああああ、こればっかりは取り戻せない。新しいのを買っても、もう意味がない。あれでなければだめなんだもの。急にすごーく哀しくなってきた。それから、ああ、腕時計もバッグに入ってたな。でもあれはいいや。自分で買ったやつだし、大して思い入れもない。

頭の中はWausauのキーホルダーのことでぐるぐるになる。一緒に来たもう一人の若者が私の後をついて歩いていたんだけど、「あの...たぶん、ここにはバッグはないと思うんです」とおずおずと提言した。私の頭はまだのろのろとしていて、これからしなくてはいけないことや、今やらなくてはいけないことなどが思いつかない。「Nobbyさんのところへ戻りましょう。」言われるがままに、彼の元へ戻る。彼はせっせと砕け散ったガラスを掃除していた。先ほどのカップルが「警察には連絡しておいたけど、君達は警察へ行って、今あったことを報告しなければならないって。警察の場所はわかるかい?」 若者が「知っています」と答えている。

私は力が抜けてしまって、近場の岩に座り込んだ。そして、車を駐車したときの状況を思い出そうと記憶を帯を手繰り寄せる。そう、あの時赤い車がドアを開けっぱなしにして停まってた。助手席にはサングラスをしたマオリ人の女性がこちらを眺めていたんだった。私、その人に「Hi」って挨拶したんだよ。彼女は何も言わなかったけれども。

同じ車が駐車場の横を通り過ぎた。こちらの様子をうかがってから、すぐにハンドルを切ってどこかへ行ってしまった。さっきからあの赤い車がぐるぐると回っていることに気がついていた。きっと彼らが犯人だ。お金がなかったから、また同じことをしようと戻ってこようとしたんだ。彼らは普通を装っていても、どこかが怪しいということはすぐにわかる。彼らは普通を装うことに慣れてしまって、自分たちがやっていることが怪しいってことを忘れてしまっているのだ。

私は彼らが私から奪ったもの、そして彼らが得たものを考えた。

そして哀しくなった。

彼らは現金が欲しかったのだろう。でも、私のバッグにはお金は入っていない。彼らはカメラを手に入れただろう。でも、自分で働いて買ったものじゃない。ましてや人から祝福されてもらったプレゼントでもない。彼らが得たものってなんだろう。彼らはバッグを車の窓から放り投げるとき、少しでも罪悪感を感じるだろうか。泥棒に慣れてしまっていて、少しも罪悪感なんて感じないかもしれない。でも、気持ちは良くないはず。どうしてお金が欲しいのかな。仕事が見つからないのかな。それとも働くのが嫌いなのかな。何もしないで簡単にお金を得ようとしているのだったら、泥棒はあまり頭のいいやり方じゃないよ。大きなリスクとやるせなさを同時に抱えなくてはならないからね。私は、もしも彼らがお金を手に入れていたら、どんなことをしてたかな、などと想像して、やはりちょっと哀しくなった。

Nobbyが私を振り返ってこう言った。「じゃ、警察に行きましょうか。旅行保険には入っていますか?盗まれたものについては、保険がおりるから大丈夫ですよ。車の修理については旅行保険じゃ無理です。車の保険はどのタイプに入っていましたっけ?」ずいぶんてきぱきしているな。「僕、こういうのはお手のもんなんで...職業柄。」ああ、そうか。そうだよね。こんなことが世界中で起こってるってことなんだ。日本では殺人事件はしょっちゅうだけど、泥棒はあまり頻繁ではないから気がつかなかったよ。

その後私達は警察に行って、起こったことと無くした物を説明して、証明書をもらった。私はおまわりさんに、恐らく彼らであろう姿と車を説明した。すると「今警察で探している奴らと同一人物だと思うな。」と言われた。狭い街だ。彼らはすぐ捕まってしまうだろう。早く捕まえなければ他の人が同じ被害にあってしまう。警察を立ち去るときに、「お願いだから、彼らを止めてください。」というと、おまわりさんがこちらを見て、「そうするよ」と短く答えてくれた。


この時以来、私は車には何も置いていかない癖がつきました。これはどこの国でも日本でもいつでも同様に気をつけています。駐車するときも、周囲に不審な車が駐車していないか確認してからその場を去ります。修理代は痛い出費でしたが、いい勉強になりました。

次回はニュージーランドで歌にチャレンジした経験を綴っています。

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