オリエンタルテイストへの挑戦
ニュージーランド旅日記 第14回
私はワーキングホリデービザを利用してNZに滞在していたのですが、ワーキング出来るのにしないのはもったいないなという思いから、バイトが出来たらいいなとは思っていました。でも、それを生活の中心に置いてしまうと、結局海外で自由に様々なことを経験するということは叶わなくなってしまうため、短期でプラプラ出来るバイトがあったらいいなとぼんやり考えていたのです。そこへ、街初の日本食レストランからバイトの話が来た時は渡りに船という感じでした。
日本食を出す小粋なCafeで働き始めて数日が経った。
メニューのほとんどは、庶民的な味で"照り焼きチキン"とか"カツ丼"とか"親子丼"、"寿司"などがメニューに名を連ねている。訪れるお客さんはほとんどが地元の人。日本人は学生が多いので、このようなカフェでお金を使うことはないのだ。
このような歳になって、今更サービス業なんか出来るかよ、と思っていたが、やってみると意外に面白い。地元の人は日本食などに触れたことがないような人も多く、自分が注文した料理がどんなものなのか検討もつかない、という客もいる。Whangareiで初めての日本食カフェ。繁盛しないわけがなく、毎日店は忙しい。そんな中で、私はいろんなことを発見した。
まず、天つゆ。彼らは天つゆを飲んでしまうのだ。そば汁もうどん汁も、とにかく飲んでしまうのだ。そば汁やうどん汁は許そう。私は飲まないが、日本人(特に男性)はそば汁もうどん汁もすっかり飲むものだ。しかも汗をかきながら。どんぶりを両手にがっしりと持ち、さも取り逃さんとばかりに喉を鳴らして汁を飲み干すのだ。これが日本の汁の伝統的な飲み方というものだ。
まぁいい。問題は天つゆだ。
最初、私は彼らはそれほど日本食についての知識がないとは思わなかった。だから、天つゆがすっかりなくなっているのを見てもさほど不思議には思わなかった。ところが。私は見てしまったのだ。彼らが天つゆを飲み干しているところを。いや、飲み干すという言葉はふさわしくない。正しくは、飲みきった、だろうか。彼らはスープ用のスプーンで、天つゆをすっかり飲みきったのだった。しかも、天ぷらが来る前に。それ以来、私は"Source"という単語を強調して言うようにした。彼らは理解してくれた。しかし、私がSourceと強調し始めた頃から、今度は天つゆをご飯にかけてしまう人が続出した。なぜだ、なぜなんだ。ホストマザーのリンダによると、「たぶん、ソースってピザとかパンにつけるってイメージがあるから、ソースって聞くだけで、本能的にご飯にかけちゃうんじゃないかしら?」 ま、まじかよーーーーーっ。そう言えば、ときどき「寿司用の醤油です」といって出した醤油をご飯にかけてしまうお客もいた。もしかして"Soysource"のsourceって単語に反応しているのか?まてよー、いくらなんでも醤油くらいは知ってようよー。
味噌汁への感覚も面白い。味噌汁といえば、ご飯と一緒に出てくるのが当たり前だ。しかし、彼らは違った。彼らは、前菜とメインの間に味噌汁を持って来いと要求するのだ。更に、「スプーンをよこせ」と言ってくる。味噌汁は箸を使って飲むんだよーーー、バカーーー。正しい日本の文化を伝えなければならない使命感に駆られた私は、こう言った。
「日本では味噌汁は箸で飲むんですよ」
すると彼らはこう言った。
「スープをどうやって箸で飲むんだよ(ケケケ)」
カチーン!
私の中で何かが鳴った。ケケケとは笑っていなかったが、明らかに東洋の美をバカにした笑い。許せん。この大和撫子様がこいつらをぶった切ったるっ!!!
「箸でチュウチュウ吸うんですよ」
すると、彼らはAmazing!!とばかりに目を丸くした。How?などと聞かれる前に、即座に私は言った。
「冗談です」
一瞬にして、テーブルは明るくなり、笑いに包まれた。そして、彼らはお椀に口をつけて飲むだの、箸を合わせたときのくぼみで地道に飲むだの、勝手に推測してその場が盛り上がるのだ。ああ、神様。私は小心者です。ウソを突き通せませんでした。
また、別の日に、レジに飾ってある小さな招き猫を見て、「まぁかわいい!」と叫んだお客がいた。私はすかさずその女性に近寄り、耳元で「これは"まねき猫"といって、福を呼ぶと信じられている特別な猫なのです。」とささやいた。彼女はちょっと驚いてふりかえり、「なんですって?」と聞き返してきた。私はもう一度説明した。私的には「なるほどー」くらいの反応を期待していたのだが、彼女は真剣だった。「それで、本当にお客さんはたくさん来ている?」とか「本当に福を呼んでる?」とか恐いくらいに顔を近づけてたずねるのだ。
彼女の身の上に何があったかは知らないが、彼女は今、福に渇望しているようであった。私はこう答えた。
「それはもう。東洋のおまじないというものは、恐いくらいに効くものです」
彼女は神妙な顔をして、招き猫をレジに置きなおした。いつか、彼女はきっと招き猫を手に入れるだろう。そして、幸福も手に入れるであろう。来てよかった、この猫に出会えて、彼女はそう思っていることだろう。ああ、神様。私はとてもいいことをした気分です。
店では、馴染み客が出来つつある。
若い男性は現れることはないが、ハゲのバツイチとか、太った中年とか、ぼんくらなサラリーマンとか…とにかく、とりあえず独身男性の訪問が多い。嬉しいのかどうかは、よくわからない。
(つづく)
当時の私は、食器に口をつけて食べるという文化が日本特有のものであることを知らなかったのです。だから日本以外の国の人が、食器に口を当てるという概念がないことすら思いつきませんでした。
あとね、見た目はニュージーランド人もアメリカ人も変わらないんですよ。だから、ついついアメリカ人と同じかなって思ってしまいがちだったのですが、実は全然違うんですよね。現代に至るまでの歴史が全然違うのです。見た目はアメリカ人とほぼ同じ人達なのに、ニュージーランド人は謹厳実直で勤倹力行。私みたいなプラプラした自由人はむしろ蔑まれる立場でした。
さて、次回は一晩庭で過ごすはめになったお話についてです。今ではいい思い出です。
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#何者でもない私 #ということは何にでもなれる
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