#25 SEDONA不思議体験ツアーの巻 後編
この時の体験は未だにネタとして誰かに話すことがあります。今でこそパワースポットとして有名なセドナですが、当時は現実から逃げているだけの怪しいニューエイジの人々で溢れていました。それでも、赤土のセドナの景色は神秘的で根源的でした。
国立公園を出て20分ほど経っただろうか。私達の乗るジープは、くぼみの多い茂みに入ったところで停まった。そこは間近にレッドロックがそびえ立つ静かな高台だった。あたりは茂みだらけだ。ふとレッドロックのてっぺんへ顔を上げると、ちょっと突起している部分の岩が美しいアメリカンインディアンの女性の姿に見えた。岩に溶け込むように立って、街を見下ろしている。腕には赤ん坊を抱えているように見える。
「あれは、自然に出来た突起なのです。決して人の造ったものではありません。美しいでしょう?」
デイビットが語る。うん、確かに美しいね。岩の紅さが、誇り高いアメリカンインディアンの女性にぴったしだよ。こういった不思議な姿に自然造形されやすい赤土に囲まれたセドナでは、アメリカ先住民のさまざまな伝説が残されている。それらの伝説は目に見えない力を信じる人々を十分に刺激することだろう。伝説の多い日本から来た私にとっては、それらの伝説が刺激的というよりもむしろ、なじみ深いように感じてしまう。
「パワースポットのセドナでは、何が起こっても不思議ではないのです」
こう言うと、デイビットは私達を茂みの中へ行くように促がした。
茂みを抜けると、そこには秘密めいた小道が続き、鳥の声や風に揺れる小さな野花たちが私達を迎えてくれた。途中でデイビットが薬草となる黄色い花を摘んでいった。それから、一人2,3個の大き目の石を拾うように指示した。石を持ちながら歩いていると、まるで隠されていたかのように、こっそりとストーンサークルが姿を現した。
少し大きめの石が、不揃いにではあるが、円を描いていた。円の中には、やはり石で十字が描かれている。十字と円が交差する4つの部分には、他の石よりもやや大きめのものが置かれていた。デイビットは、途中で摘んだ黄色い花を、中心の石の上にお備えし、私たちは手に持っている石を十字の中心と円の途中に置いた。
「はい、皆さんここへ集まってください」
デイビットがある円の中でもひときわ大きな石に皆を集めた。
「ストーンサークルは、自然との調和の象徴です。ここへは自然、宇宙のパワーが集まり、エネルギーを我々に与えてくれます」
そして、きょろきょろと人を見回すと、私を見つめて頷いた。な、なんだ?
「見たところ、あなたが一番軽そうだ」
そりゃそうだわよ。ガリバーみたいにでかいあなた達とはそもそも造りが違うんでしてよ。
すると、いきなりデイビットが私を持ち上げた。まるで私は小さな子供のように、軽く抱き上げられてしまった。
「あはは! 軽いとは思ったけど、こんなに軽いなんて!」
デイビットは声をあげて笑った。そんなに軽いかな。私は小さいけれど、密度が濃いから重たいはずなのに。
「では、今から私が言うことをイメージしてください。目を閉じて…深呼吸をして…」
私は言われるがままに、目を閉じて大きく深呼吸をした。
「あなたは日に照らされています。その温かみを感じて…」
ああ、そういうことか。瞑想みたいなやつなのかな。私、そういうのって得意なんだよ。
「すると、あなたの手足から、緑の葉が生えてきました。その葉はどんどん伸びでいきます」
なるほどなるほど。それでそれで?
「足は大地と一体化してきました。あなたの足から、根が生えていきます。そして、体中が緑の葉で覆われます」
ほほぅ。
「あなたはどんどん大きくなる…。そして、ついにあなたは大きな大木となってしまいました」
私は自分の足が木の根と成り果て様を想像した。感覚的に、私は自然の一部になったのだとイメージする。私は、ただ自然の流れを感じて、滔々とした時の流れと共に生きていくだけの存在になったのだ。
「はい、静かに目を開けてください」
目を開けると、少し傾いた日の光がまぶしく感じた。少し転寝をした後に感じるような、ちょっとけだるいけれど、なんだかすっきりしているようなこの感覚。うん、私、上手にイメージ出来たと思うよ。
突然、デイビットが私の脇に手を入れ、私を持ち上げようとした。足を踏ん張って、顔を真っ赤にしている。
「う、う~ん! くっ、重い! だめだ! 持ち上げられない!」
おいおいおいおい、そりゃあないだろーーー。
「今、君の体は根が張ったように大地とくっついてしまったんだ。小さな女の子ならいざ知らず、大きな大木は僕にも引っこ抜くことは出来ないからね」
周囲のおばさんたちが感心する。中には羨望のまなざしを送る人もいる。
ちょっと待てーっ! そんなに簡単にデイビットのやってることを信じてしまっていいのかーっ。持ち上げないふりなんか誰にでも出来るだろー。
「このように、ここは自然のパワーで漲っているのです」
うそだーーーーーっ!!!
「さぁ、皆さんでこのストーンサークルを回ってみましょう」
デイビットを先頭に、私達はストーンサークルの回りをゆっくりと行進し始めた。2,3周すると、行進はなんとなく止まり、次にデイビットが口を開く前に、皆は思い思いの場所に散らばった。
「ストーンサークルの十字と円が交差する四つの点は、それぞれ正確な東西南北、それと春夏秋冬を表しています。分離している4つの面は、北側から誕生、幼児期、成熟期、老(死)を表しています。皆さんが今、そこに立っているその場所、それがあなたの現在のステータスです」
え、そうなの? 私、そういうこととは知らずに何も考えないでこの場所に立っちゃったよ。
円の中心にいたデイビットが振りかえり、私から右側数メートル離れた位置に立っている女性を見た。
「あなたが立っている場所は誕生から幼児期の場所だ。見たところ、あなたはもう十分に成熟している女性だ。(←中年と言っている)何があなたの成長を妨げているの? 何があなたを幼児のままにしているの?」
慈愛にあふれたまなざしで、デイビットが彼女に問い掛けた。
「私は…大人になるのが怖い…の。私は分別のある大人なんかより、子供のままでいたいのよ。私はいつまでも駄々をこねる子供のような人間なの」
おい。おばさんはそこに腰掛けやすい木があったから、そこに腰掛けただけでしょー!?
「そう…。あなたは次のステップに進まなくちゃいけない。何も恐れることはないんだ」
そう言うと、今度は私のほうを向いた。
「君も、幼児の場所にいるね。何があったの? いったい、何が君をそこに立たせたのだろう?」
えー…別に…これと言って意味はないよ。ただ、向こう側に立つと太陽の光がまぶしそうだったから、木陰の方を選んだだけなんだけど。
「教えて。何があったの?」
デイビットの瞳はますます慈愛に満ちてきた。
どうしよう。言いよどんでいるから、深い意味があると期待されてしまった。ここで「木陰だったから」なんて言ったら雰囲気ぶち壊しだよ。
「彼女は、これから夢に向かっていくところだから、何もかも達成をした大人の位置ではなくて、幼児の位置にいるんじゃないかしら。彼女のしているのことは、これからの世界に向かってどんどん成長していく幼児と同じよ。彼女はどんどん成長していく過程にあるのよ」
「そうよ。アメリカの旅だって、始めたばかりだって言うじゃないの」
周囲から声が出る。さぞかし私は、言葉の足らない頼りなげな日本人に見えたのだろう。なんだか知らないけど、私を見るおばさん達の目まで慈愛に満ちてきたぞ。この雰囲気はなんなんだー。
デイビットが参加者に、なぜその位置を選んだのか? と続けていった。
すべての人がその質問に答えると、デイビットは皆に瞑想を促した。
「さぁ、皆さんで一年の四季を感じましょう。何もかもが芽吹く春です。暖かさを感じて…そして次は…」
この調子で一年の四季を体感したあと、私たちはジープに戻った。
来た道を戻るとき、私はおばさんたちから旅の工程について質問攻めにあった。
「オクラホマは通る?」
「ミシガンは?」
「残念だわ。コロラドには寄らないのね」
ツアーが終わる頃には、同じツアーに参加したということで、なんとなく心がひとつになったような気がしてきた。もう二度と会うことはない人たちなのだろうけれど、この出会いは心に刻み付けておこう。
世界で唯一と言われる、赤茶色の壁に緑色のmマークのマクドナルドを通りすぎて、私達は街へ戻った。ツアーは終わり、ジープを降りて、皆とさよならの挨拶をした。みんな今日はありがとう。また、会う機会があればいいですね。
さようならと言いながら、皆、方々へ散っていった。私には、ストーンサークルより、街の縁のほうがずっと不思議だった。
日は傾いていたけれど、夜までにはまだ時間があった。不思議体験不完全燃焼だった私は、更なる不思議体験を目指すことにした。
よし、次は『サイキックリーディング』だっ!!!
(つづく)
今考えてみると、ツアーで一緒になった人たちはみんな繊細だった気がします。優しくて傷つきやすい人たち。
慈愛ってそうであろうとすると途端に胡散臭くなりますけど、意図せず溢れ出てくる慈愛というものは、隣にいる人や今目にしている世界との一体感を強くしてくれるのかもしれません。
次回はサイキックリーディングです。当時いろんな土地で ”Psychic” という看板を見ていたのですが、その度に「なんて読むんだろう??」と思っていたのです。でも、セドナの街に着いてから、街の雰囲気などもあり、ようやく「ああ、サイキックって読むのか!」と理解したのです。
人生初のサイキック体験です。お楽しみに~!