Gachiで恋するこのハゲー!
以前、『バカと雑学の話』という記事でも触れたのだが、私は三度ほど”恋愛科学”についてスピーカーを務めたことがある。ちなみに、月に一度私がバーのオーナーをしている店があるのだが、そこでの肩書はなぜか恋愛マスターということになっている。自分でそんなことを名乗ったことがないので、どうしてそうなったかはわからない。でも、今更訂正するのも面倒なので放置している。
今回は、そんな私が超マジメに恋愛の科学について書こうと思う。
恋という麻薬
ざっくり説明すると、人は恋をするとPEA(フェニルエチルアミン)という脳内神経伝達物質が分泌される。ここではわかりやすく”脳内ホルモン”という呼び方にしよう。PEAという脳内ホルモンの分泌によってドーパミン濃度が上がり、それによって人は高揚感や多幸感を得る。それに反比例するようにセロトニン(幸福ホルモン)の濃度が下がり、ドーパミンの作用により冷静さを失い注意や配慮に欠けた行動に出てしまう。
私がOL生活を送っていた頃、おっかない女性の先輩がいた。彼女は清楚で仕事を完璧にこなし、そしていつもどこかピリピリしていた。ところが、隣の部署にとってもハンサムな男性が配属された日を境に、彼女の行動は徐々に彼女らしさを失っていった。ある時は職場で口笛を吹き、またある時はエレベーターホールでクリアホルダーを天井高く投げて頭上でぴしっと真剣白刃取りしていた。いつもならブラウスの第一ボタンまできっちり留めている人なのに、胸元がのぞけるほどボタンを外していたこともある。
彼女は恋をしたのだ。
この時、彼女の脳内では何が起こっていたのだろうか。
前述したとおり、恋をするとPEAを初め、ドーパミン、アドレナリン、ノルエピレフリン、βエンドルフィン等の様々な脳内ホルモンが分泌される。加えて熱の刺激や痛みに関係するNGF物質というホルモンの濃度も増える。更に言えば、PEAは化学構造も薬理作用もメタンフェタミン(覚せい剤)と類似している。幸福ホルモンであるセロトニンは欠乏状態となる。
これらの影響で、彼女は脳の一部が破壊され判断力が鈍り(a)、PEAの作用で食欲が落ち、セロトニンの欠乏で不安定な精神状態(b)になり、NGF物質の影響で胸を焦がすような疼きを感じる(c)のだ。
例えばこんなふうに。
(a)初めて手を握ったその後すぐに右手がスーパーでスペシャルになったと思い込む
(b)会いたくて会いたくて震える案件
(c)ほころんだ場所がこの胸にあるという確信的な痛み
こんな状態では彼女は長く生きられない。だから、脳はちゃんとPEAの分泌を減少させていってくれるのだ。PEAは2ヵ月程で分泌が減少し始め、3年で完全に分泌されなくなる。PEAの減少と入れ替わるように増えていくのがセロトニンだ。セロトニンはドーパミンやノルエピレフリンの分泌を抑制する働きがある。
よく眠れるようになり、心が安定してくる。激しい感情や不安がやがて、穏やかな幸福へと替わるのだ。ちなみに、PEAは同じ人にはもう二度と分泌されない。よって、昔恋した人に再び恋をすることは起こり得ないということになる。
ちなみに、彼女の恋は成就しなかったので、彼女に穏やかな幸福が訪れることはなかった。
恋の後に訪れる愛
激しい恋もやがて穏やかな愛へと変化していく。
人が愛を実感する時、脳内では何が起こっているのだろう。
そのような時、人の脳内ではセロトニン、オキシトシン、バソプレシンというホルモンが分泌されている。セロトニンは前述のとおり、幸福を司るホルモンで世間では「幸福ホルモン」として広く知られている。
ここではオキシトシンとバソプレシンについて触れたい。
オキシトシン
オキシトシンもまた最近では「絆のホルモン」として知られてきている。オキシトシンは子宮を収縮する作用があるので、陣痛促進剤としても使用されている。また陣痛の際の痛みの緩和や母乳を外に出す、ストレスの軽減、心地よい幸福感などの作用がある。大切な人と一緒にいる時の幸せな感覚はまさにオキシトシンの作用で、人の絆を強固にする働きがある。また、性的なオーガズムを感じた時にも分泌される。その量はなんと通常値の5倍と言われている。
バソプレシン
バソプレシンは身体の浸透圧に関わる働きがある一方で、近年の研究で男女の愛着を形成する働きを持つことがわかってきている。オキシトシンとその働きは似ているが、その作用はより男性的で、パートナーシップの形成や大切な者を守りたいという本能を促進させる。性行為中に優位に分泌され、男性はこの時、パートナーに対する愛着を形成すると言われている。そのため、セックスレスの夫婦ではバソプレシンの分泌が減少の傾向にあると言える。
もちろん順調に夫婦生活を行っていれば、バソプレシンの分泌もあり、パートナーと親密に過ごすことは容易である。しかし、先天的にバソプレシンの受容が乏しい男性もいて「彼の浮気は病気」というのがこれに当たる。またそういう男性は離婚率が高い。
実は、この記事は以前スピーカーをした時の原稿を基に書いている。この原稿には続きがあって、人の射出物(精液等)における栄養学について言及している。本稿は既に十分長い記事となったので、このテーマについてはチャンスを見て筆を執りたいと思う。
タイトルは特に本稿と関係するものではないが、ハゲを怒らせると本当に怖いので、決してハゲを嘲弄する気持ちではないことをここに記しておく。