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PCR検査の偽陰性(見逃し)に関して

 Natureの”COVID research updates”を久々に見たところ、12月2日の配信の記事”Why a sensitive COVID test can yield false negatives”が気になったので紹介したいと思います。書かれている内容自体はさして新しいことではなく前から言われていたり想定されていたことです。

なおNature自体、下記の雑誌の論文の要約です。こちらの論文は読んでいません。

Clinical, laboratory, and radiologic characteristics of patients with initial false-negative SARS-CoV-2 nucleic acid amplification test results  Open Forum Infectious Diseases, ofaa559, https://doi.org/10.1093/ofid/ofaa559
24 November 2020

それを私がさらに要約(ほぼ翻訳ですけど)すると、

新型コロナの症状がある、ないしは新型コロナに感染したと考えられる1.5万人のPCR検査を調べたもので、うち2.7千人は検査結果が陰性でした。彼らは2週間以内の再検査をしています。

再検査をすると、60人(2.2%)が陽性でした。これら陽性者の60%は、最初の検査を症状が見られる前1日未満、ないしは症状が見られた後8以降に受けていました。

ここから得られる大事なことは、症状があるのにもかかわらず陰性の人は必ず再検査すべきであるとしています。

実はこの事実、容易にわかるように体の中でのウィルスの量と関係しています。例えばこのBritish Medical Journalの”Virology, transmission, and pathogenesis of SARS-CoV-2”、BMJ 2020;371:m3862の図2を見てもらうとよくわかります。

なお本当はVirology blogで見た図を使いたかったのですが以前すぎて発掘が大変だったので、探す際に見つけたこちらの図を使いました。パンデミックの間は図も一定の条件下で使える点も考慮しました。この論文も読んでみても良さそうですね。またこちらは読んでみます。図2を引用します。これは新型コロナウィルスの量と症状などをタイムコースをまとめたものです。

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ここでみて欲しいのは0日よりPresymptomatic phase、症状が出る前ですね、ここではウィルス量が少ないです。ある種運命の分かれ道で初期の免疫系が押さえ込みに成功するかウィルスが増殖に成功するかのせめぎ合いです。また発症してから8日以降もみてください。この時期は症状で言えば軽中程度もいれば重症もいます。ここでも多くの場合ではウィルス量は少ないのです。つまり発症直前や、発症してから1週間ほどたった人ではPCR検査でウィルスをしっかりと検出できない可能性があるのです。ここで"しっかりと"としたのはCt値が検出限界付近になるという意味です。

 あと最近、民間のPCR検査が流行っていますが、自覚症状があるのに保健所が検査をしてくれない場合は利用するのはいいとは思います。ただ単に陽性・陰性を確認するため、証明するためにするのはよく考えられて方がいいです。その時点で陰性でも明日陰性かどうかの保証はありません。精神安定剤にはなるかもしれませんが個人的は無駄だと思います。また唾液を使用するので感度も落ちると思われます。

 私も各国の医療事情や論文を十分に把握していませんが、発症日とCt値をもっと生かした検査方法、経過観察法はあるのではと考えています。以前にも書きましたように異なる回のPCR検査、試薬や条件も異なる場合ではなおのことCt値の比較でウィルス量の多寡は比較できません。それでも検査対象者がどういった症状のタイミングで検査を受けたのかを考慮した上でCt値の解釈は可能だと思うのです。私の知らないところでこのような取り組みがなされているのかもしれません。ただ日本で言えば国レベルで統一的な指針なり、工夫はないように思います。国民皆保険は素晴らしいですが民間に頼りすぎた日本の医療のある点での限界なんでしょう。非常に残念な点です。また治療法やノウハウが各医療機関間で適切に共有されているのかも若干心配しています。ともかく今の官房長官は前の厚労大臣でいけてないのは確かです。今の方は医療にも詳しい方です。大変な責務だと思いますがよい方向に進むといいです。

 あと最近緩和されてきているようですが、亡くなられた方が感染の危険性から遺族と会えないってのは感染予防上意味があるのですかね。よほど積極的な濃厚接触をしないと死者からウィルス感染することはないでしょう。ある意味偏見を生む原因ではないでしょうか。2、3月の混乱期はともかく、飛沫がどう飛ぶのかも大事ですけどもう少しウィルスに対する全般的な科学的理解・思考が必要に感じます。



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