「WEBTOONに作家性は不要」というのは本当か
2023年、ますます盛り上がりを見せるWEBTOON
今日のnoteは、コーポレート本部責任者としてではなく、一人の編集者としての仕事について書きます。
2023年は、昨年からの盛り上がりを受けて引き続きWEBTOONに注目が集まっています。2021年に20社程度だったWEBTOONスタジオも、2023年2月には69社に膨れ上がりました。ここまで急速に参入する企業が増えてくることは誰が想像できたことでしょうか。
日本におけるWEBTOON制作のトレンドといえば、原作・ネーム・作画・着彩の各工程ごとにクリエイターが分業で関わる「スタジオ制」です。ナンバーナインもStudio No.9を設立。スタジオ制を取り入れて、担当ディレクターが複数の連携を取って作品づくりに取り組んでおります。
日本で第二次WEBTOONブームの火付け役となった『俺だけレベルアップな件』のような作品だと、イラストのクオリティも着彩のクオリティも非常に高く、よりリッチな表現が求められるため個人で制作するには作業コストが膨大過ぎます。これを一人の作家が週刊連載するのは無理難題と言っても過言ではないでしょう。
そして、「俺レベ」が日本の第二次WEBTOONブームを起こしたことで、WEBTOONスタジオ各社が同作をベンチマークにして作品制作に取り組み始めました。これにより、制作コストの効率化を目指してスタジオ制を導入せざるを得なかったという背景もあったのではないかなと思ったりします。
日本のWEBTOONは特に黎明期のフェーズにいるので、先人たちの売れ筋ジャンルをベンチマークにすることは国内の読者基盤を作る上で欠かせないステップです。事実、2022年から現在に至るまでに日本のスタジオが制作したWEBTOON作品は「現代バトルファンタジー」「バトル・アクション」「悪役令嬢」「不倫・復讐」あたりをテーマにした作品が多く見受けられました。
いまのWEBTOONは没個性的なのか
このように、今売れている作品をベンチマークに作品を作っていると、「個性がない」「どれも同じような作品に見える」「作家性が感じられない」といった声が聞こえてきます。
たしかに、一人の漫画家と編集者が二人三脚で作る漫画と違って、WEBTOONは複数人のクリエイターと作品を作ることが多いので作家性を重視した作品をつくるのはやや難易度が高いと言えるかもしれません。
では、いまのWEBTOON作品に個性はないのかと聞かれると、そんなこともなくなってきているのかなと思います。
ぽむさんが描いた女装男子の高校生が主人公の『先輩はおとこのこ』や、阿賀沢紅茶さんの『氷の城壁』などは、これまでのWEBTOONにはあまり見られなかったラブコメチックで青春群像劇的なエッセンスのある作品です。
『先輩はおとこのこ』なんかは、「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門第3位を受賞したり、アニメ化が決定したりと、漫画ファンの心もしっかり掴んでいるように感じます。
もしかしたら、ラブコメや学園モノの青春群像劇は日本の勝ち筋の一つかもしれないという気持ちも芽生えました。
最近では、日本における第一次WEBTOONブームとも言える2013年ごろに『ReLIFE』で一斉を風靡した夜宵草さんによる『ツギハギミライ』という作品の連載が始まりました。『ReLIFE』の時のような何気ない日々を描きながらも不穏な空気をまとうストーリーに目が離せません。
これらの作品の共通点は、作家個人の名前でWEBTOONを連載しているということ。一人の作家がつくるから、自ずと個性ある作品が出てくる流れもあります。韓国でも、個人作家によるWEBTOON制作もスタジオ制と同じくらい盛り上がっているという話を聞くし、日本でも個人作家のWEBTOON参戦はじわじわと盛り上がっていく機運を感じますね。
スタジオ制で作られたWEBTOONに個性がないかと言われるとそれも暴論です。Studio No.9が作るWEBTOONは大手商業媒体での連載経験がある漫画家さん、原作者さんが原作やネームにいることもあってか、その人のクセのようなものが色濃く出ている気がします。
やはり、漫画の原作やネームを描いてきた人というのは隠しきれない個性があるのかもしれません。
ナンバーナイン初の個人作家によるWEBTOON
僕が編集を担当する『ラッシュナイト』というWEBTOONも、胸キュン恋愛漫画の名手・池田ルイさん個人による作品です。(着彩アシスタントは吉岡皓さん)
池田さんとはじめてお仕事をご一緒したのは、2021年にリリースしたエド・シーランの楽曲「Bad Habits」日本版MV制作でした。
こちらは、ナンバーナインと音楽制作プロダクションのMUSIC FOR MUSICがタッグを組んだ音楽と漫画で物語の可能性を拡張する実験的プロジェクト「4b9(フォーバイナイン)」の第一弾プロジェクト。今回連載が始まる『ラッシュナイト』はその4b9の新しい取り組みです。
本作は建付けこそ「復讐」を起点にして制作していますが、いわゆるいまのWEBTOONの売れ筋ジャンルとは少し違います。
『ラッシュナイト』はWEBTOONで物語を作りながら同時進行で物語に紐づいた楽曲制作を行っています。韓国のWEBTOONではよく見られるOST(Original Sound Track)ですね。
WEBTOONと音楽を融合させたコンテンツを作る。この特殊な企画ができるのは池田さんしかいないと思いご相談したところ、快諾いただいて今に至ります。
池田さんは漫画に限らずドラマや映画や音楽と様々なエンターテインメントへの感度が非常に高く、毎週の打ち合わせでも常に新しい発見があって驚きます。InstagramやTikTokへ投稿する動画も、漫画を動かしたり楽曲を選んだりすべてご自身で行っていて、新しい表現にも貪欲な希少なクリエイターです。
今回池田さん自身も初めての挑戦となる本格WEBTOONですが、当初はコマとコマの間隔やセリフの置き方などあの独特なフォーマットに苦労されていました。
しかし、悩んだその翌週にはご自身でより良いコマ配置を考えるなど、学習スピードが圧倒的に早い。そして何より描き上げるキャラクターの活きが良い。加えて、着彩部分がヒットの生命線ともいわれるWEBTOONにおいて、池田さん特有の色彩感覚が相性の良さを物語っています。
「復讐」という普遍的なテーマに、圧倒的個性で挑む
今回描くのは「音楽業界を舞台にした復讐の物語」。先にも挙げた「復讐」が物語のコアになる部分ではありますが、そこが唯一池田さんが悩み続けているポイントでもあります。
「音楽で復讐なんてできるのか」「復讐というのはいったい何なのか」ということを池田さんはいつも考えていて、そこから導き出される答えは僕の予想を超えるものが多いです。
「復讐」というテーマこそ普遍的なものだけど、中身は池田ルイの個性が満ち満ちている。何なら「復讐」ですらないのかもしれない。担当編集の僕でもそんな風に思わされる『ラッシュナイト』は、どんな結末にたどり着くのでしょうか。
BABYMETALやKing & Princeといった人気アーティストの楽曲提供を行う音楽プロデューサー・Hayato Yamamotoさん(MUSIC FOR MUSIC所属)によって紡がれる音楽版『ラッシュナイト』とともに、物語の行く末を見届けていただけると嬉しいです。
本日7月18日(火)より、LINEマンガさんとebookjapanさんで先行配信が始まりました。ありがたいことに、配信初日にヒューマンドラマ総合1位(7/18 18時)、総合ランキング10位(7/18 18時)と多くの読者に届いています。
池田さんファンの方も、そうでない方も、きっとこの物語に引き込まれるはず。ぜひ、読んで感想を聞かせてください。
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