「あんみつ姫」の衝撃、福岡の洗礼。
訳あって、2月は2週間ほど福岡県に滞在していた。最初は、もう10年以上の付き合いになる友人のはからいで、福岡市にある彼の自宅に泊めてもらっていた。2-3日くらいの滞在で、友人に言われるがままついて行った飲み屋は10軒程度。帰宅するのは大体3時4時。朝は8時半に起きて、子どもの保育園のお見送りまで付き合った。
飲みに行けば、友人が友人を呼んで、5-6人で飲んでいたのが10人になったり、6人になったり、アメーバのようにくっついたり離れたりする適度な距離感は居心地が良かった。たとえ知り合いじゃなかったとしても、隣に居合わせた人に絡みまくる。ずっと笑ってるし、あんまり何話したか覚えていないけど、とにかく楽しそうに飲む人たちだった。全員がそうではないと分かってはいても、福岡の夜は、濃くて、深くて、長くて、多幸感に満ち溢れていた。
愉快だったのは人だけではない。カラオケで91点と100点を出せば靴下がもらえるスナック、アパートの一室の扉を開けるとそこには異空間が広がるいなせな酒場。行く店一つ一つがこってり豚骨スープに背脂がぎっしり詰まったようなクセの塊のようだった。
そんなエキセントリックな店たちの中で、ひときわ異彩を放った店がある。それが、「あんみつ姫」だ。
異次元エンターテインメント集団「あんみつ姫」
「今日『あんみつ姫』行くから」
友人にそう告げられ、僕は何も知らずにお店へ向かった。「あんみつ姫」は、天神にある異次元エンタテインメントショーを展開するお店だ。
店頭で4500円を支払わされ、通されたのはパイプ椅子とスチールテーブルがポツポツと置かれた寂しさあふれる真っ黒い部屋。目の前にあるのは、横幅20mほどの舞台だ。席につくやいなや、写真に写っているB級グルメ(失礼)のような人たちが目の前に座り、よく分からないままよもやま話をする。
「何だろう。このショーパブ?場末のスナック?みたいな感じは。僕はこのために4500円を払ったのだろうか…これは辛い時間だ」
たちまち非常なる不安に襲われる僕。すると、5分10分ほど談笑してストーブリーグの選手たち(失礼)はハケていってしまった。
すると、暗転したステージの幕が上がり、突然ショーが始まる。
乱高下しながら視覚聴覚を刺激するクリエイティブ
そこからの時間は、控えめに言って最高だった。度肝を抜かれたという言葉がここまでしっくり来るものに出会えたのは、山下達郎のコンサート以来だ。
幕が開け、写真のような宝塚歌劇団さながらのきらびやかな衣装を身にまとう演者たちに目が釘付けになった。最初に見た彼ら彼女らの西松屋で買ったようなやっすい子供服もどきの衣装と打って変わって、そこに見えるのは厳しく訓練されたエンターテイナーたちの顔だった。
僕はこの時点ですでに心を鷲掴みにされた。
豪華なショーが終わると、そこからはものまね、ショートコント、歌もの、ダンスと、緩急織り交ぜた演目が矢継ぎ早に繰り広げられる。岡崎◯育の「MUSIC VIDEO」のパロディからフレディ・マーキュリーまで、少しだけ遅めの旬なコンテンツを披露してくれていたのが愛おしくもあった。
どの演目も非常によく練られていて、クオリティの高さも一級品。圧巻だったのは、やはりダンスパフォーマンスだった。間に挟まれるおバカコンテンツとの落差も手伝って、感動するレベルに魅入ってしまった。
僕が感動した「あんみつ姫」3つのポイント
ショーを見てから1ヶ月たった今でも、あの楽しさが忘れられない。この楽しさや感動はどこから来るのだろうか。突き詰めると、「期待値調整」「振れ幅」「構成力」の3つに分解されるように思う。
1. 期待値調整
あらゆるエンターテインメントにおいて、最も重要なものはこれじゃないかと最近思っている。それくらい、「期待値調整」というものは重要だ。今回の「あんみつ姫」においては、この「期待値調整」が完璧に計算されていた。
オープニングトークのやっすい雰囲気。思えばここから戦いは始まっていた。ここで、期待値というか、テンションが意図的にグンッと下げられたのだ。そこからの歌劇ショーは、完璧に近い完成度だった。
もしかしたら、それは最初に期待値が下がったから「完璧に近い」と錯覚してしまっているだけなのかもしれない。何事も期待しないということは、人生を幸せにする最善手だ。ノーインフォメーションでショーに参加し、不安と共にショーを迎えることができてよかった。
2. 振れ幅
期待値の延長線上にあるポイントで、人は振れ幅が広ければ広いほど感情が揺さぶられる。とある芸人が「高低差ありすぎて耳キーンなるわ」と突っ込んだが、なるほど真理である。このショーは、コンテンツごとの高低差がありすぎた。
60分のショーケースの中で、合計10近くのコンテンツが用意されていたが、交互に訪れるギャグとハイパフォーマンスのバランスが秀逸だった。
原宿から有楽町に瞬間移動したような、大学の文化祭が突然プロのパフォーマンスショーに変わったような、西松屋からH&Mに変わったような、文字通り劇的な変化だった。最初の期待(というか不安)が嘘のように脳内ドーパミンが溢れ出て、幕が下りる頃には感動に包まれていた。
笑って感心してを繰り返すと人は口が開きっぱなしになり、「すげえ」しか言えなくなる。漫画「キン肉マン」に登場するザ・ペンタゴン、ブラックホールの2超人からなる四次元殺法コンビも驚きの振れ幅は、なるほど異次元エンターテインメント集団である。
3. 構成力
構成力と一口に言っても、「扱うテーマ」「パフォーマーの構成」「パッケージ力」など多面的な要素が挙げられる。ショーのプログラムは、実は毎月少しずつ変えたりしているらしい。旬からは少しだけ遠くなってしまっているが、QUEENや岡崎◯育といった話題性のある人たちを扱っているのが印象的だった。毎月テーマを変えてもあのクオリティを維持できるのは本当にすごい。
「パフォーマーの構成」についても、キャラクターのチャームポイントを非常に押さえた配役をなされており、歌って踊れるぽっちゃりさん、おもしろい美人、アイドル顔負けの男性、アイコンとしてのオカマちゃん、そして支配人。ダンスの時のフォーメーションも、コントをする際の役割分担も、このパフォーマー達がいるからこそ成立するものばかりだったように思う。
「パッケージ力」に関して言えば、やっすいオープニングトークも実はパッケージの一つで。その時会話した内容がショーケース中に活かされる。オープニングトークは、ただ雑談するだけでなく、「どこから来たのか」「何回来たのか」「誰と来たのか」といった今日来たお客さんの情報を把握し、ショーに活かすための布石だったのだ。ただ一人東京からやってきた僕は見事に「東京ー!」と無駄に呼びかけられまくったけど、立派なインタラクションが生まれていたことに感動を覚えた。無駄なんて一切なかった。
平成最高のエンタメは、僕の中で宝塚歌劇を超えた
ショーが終わるまでの60分は、あっという間だった。その間、僕はずっと笑っていた。
僕の地元は宝塚で、宝塚といえば歌劇団がある。高校生の頃、社会見学で歌劇を観に行く機会があった。当時と今とで審美眼も変わってきていると思うけど、僕にとっては18年前に見た宝塚歌劇よりも美しいかった。
この完成されたエンターテインメントコンテンツに出会えて、人生がまた一つ豊かになったと思う。ただ、このnoteを公開することによって「あんみつ姫」に対する期待値が上がってしまうことへの不安感も、ないといえば嘘になる。それでもいいと思ったのは、期待して、あのショーは現場で体験しないと伝わらない感動があるからだ。
最後に、事務所を間借りさせてくれ、朝から晩までほぼすべてをアテンドしてくれたマイメン桜井氏(TISSUE inc.)に感謝したい。
それでは、またいつの日か福岡の「あんみつ姫」でお会いしましょう。