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猫屋敷と呼ばれる家の住人の話

これは友達のあまめちゃんから聞いた話。



町で便利屋さんをしている人の話。

便利屋さんとはいっても、福祉サービスに近い仕事で、主に高齢者の生活をサポートする会社。
高齢化社会の中、スタッフも十数名とそこそこに繁盛してました。

私が入社したのは約5年前。
仕事を覚えるのに必死だったけど、最後はいつもお客様から感謝されるので非常にやりがいのある仕事でした。

そんなお客さんの中に「猫屋敷さん」と呼ばれるご夫婦がいました。もちろんお名前ではなく通称です。
直接彼らを担当したことがなかったので、
「〇〇さーん、猫屋敷さんから1番にお電話でーす」とか
「猫屋敷さん、今月6回ぐらい依頼があって助かったよー」なんて言葉が飛び交うのを聞いていた猫好きの私は、いつも胸が躍っていました。
なぜなら依頼の内容は、飼い猫が木に登って降りられない、屋根裏に入り込んで出てこないなど、猫に関することばかり。ご夫婦の猫に対する愛情もわかるし、なんてやりがいのある仕事!
いつか私も、猫屋敷さんを担当したいなって思ってました。

そしてついに、担当の人が病欠したため私もその現場に行けることになったんです!
初めてだったので、所長も同行していたのですが
「良いお客さんだから、決して機嫌を損ねないように」と事前に注意をされました。
「猫好き=良い人」という考え方の私は、所長の忠告もあまり気にせず、とても楽しみにして現場に到着しました。

ご夫婦は70代くらいで、お屋敷も立派なものでした。所長が気を使っていた理由も何となくわかりました。いわゆる太客なんでしょう。

ご夫婦からの依頼内容は
「猫ちゃんが車のエンジンルームに入っちゃって出てこないのよ。なんとか助けてもらえないかしら?」
寒い時期にはよくある、あったかい車のエンジンルームに猫が入り込んでしまうケースでした。
もちろんそのまま車を動かせば大変なことになるので、なんとか猫を追い出さなければいけません。

所長もボンネットを開けたり、車の下をのぞき込んだりしています。
私も猫を助けたくて「ねこちゃーん」と言いながら必死に探しましたがどこに隠れているのか全く出てきません。

しばらく所長とぐるぐる車の周りを探していると、ご婦人が煮干しの袋を抱えてやってきました。
「エサで釣れば出てくるかしら?」と提案してくれました。
これはナイスアイデア。手で煮干しを持ち、エンジンルームに手を突っ込んで、顔を黒くしながら頑張っていました。

そのとき、所長が耳元でささやいてきました。「もうそろそろいいぞ。」と。なんのことかわからずいると、所長がご婦人に
「あ、猫がいまエンジンから飛び出してあっちに行きました!」と言ったのです。
もちろんそのような事実はなく、所長はあきらかにうそを言っています。
ご婦人は「あら、そう?これで安心してお出かけできるわ」と大変満足し、私の真っ黒になった顔を見て、「ありがとうね。今回は少し多めにお支払するわ」と規定より高い料金を支払ってくださいました。

帰り道、私は所長の行動に納得できず抗議しました。
すると所長は、
「あれでいいんだよ。最初に話しておけばよかったけど、あの家、猫一匹もいないんだ。」


そんなお話でした。
別のはなしも聞きたい?
じゃあ、またあまめちゃんから聞いておくね。




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